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夜の街に佇む鎮守の杜 錦天満宮


娘はちっとも私に気を遣わずにずんずん歩く。
なので私はまるでネズミの穴に落っこちた
『おむすびころりん』のおじいさんみたいに
闇の中、気づいたらそこに居ました。

あとで調べると、錦天満宮は錦市場の東の果てにあるらしいので、
ずんずん歩いていたら辿り着いたのも道理です。

平日の夜、昼間の喧噪が嘘のように錦市場は静けさの中にありました。
静かとは言え、がらんと空虚な感じとはどこか違います。
ぽつり、ぽつり灯る店先の明かりは、それぞれの内に
賑やかな小世界を秘めていることををほのめかしていました。
往来を流れる車の音は遠く、派手なネオンもなく、
低い位置に置かれた看板の明かりと街灯の淡い光に
ぼんやりと照らされた小路。
それは活気あふれる昼の顔、観光客向けの営業スマイルを解いた
近しい人にだけ見せる素の表情のようで
金木犀の甘い香りと降るような虫の音に包まれてそぞろ歩けば
自分がこの街に暮らしているのだという贅沢な実感が心に広がります・・

と、これはたぐり寄せた記憶を紡ぎながら感じたこと。
そのときはひたすらずんずん歩いていました。
思い出を見つめると、当時は気づかなかった意味が見えてくることってあるものです。

そんなわけで、気がつけば錦天満宮。
闇夜に黒い撫で牛。
言われて手を伸ばすと、確かに角、顔、瞳・・
見えない牛さんが、指先にふれる感触から
そこに艶やかでどっしりした像を結んでいきます。
のんびりしたおじさんの声の流れてくるほうにいってみると、
自動紙芝居機なるものが鎮座していました。
誰かがボタンを押すと話が始まるらしく、
先に聴いていた(あ、普通は「観ていた」ですね)人たちが
去ったあと、改めて最初から聴いてみました。
菅原道真公が才能を妬まれて哀れな生涯を送る
おじさんの語りに合わせ、紙が下から上がってきては
下りて次のシーンの紙と交替するのが、
暗闇の中そこだけ白くて少し見えました。
境内も小路と同じく静かですが、見えないながらも
どこか空気が違って感じます。
人の流れが鳥居を境に動から静に変わり、なんだか
時の流れまで緩やかな世界に入り込んだようでした。
紙芝居で語られていた平安の世とどこかでつながっていたのかもしれません。

特に説明もなく自分の興味を惹くところに赴き足を留める娘が
「これ、かわいい」と私の掌に載せてくれたのは
小さな蒔絵のお守りでした。
何種類かあったなかで私が惹かれたのは錦鯉・・・
錦天満宮だから錦鯉?だじゃれ?
なんだかおかしくて・・それに、黒地を泳ぐ鯉の
綺麗なのが少しわかったのが嬉しくて・・
購入、いえ、授けていただきました。
小さな鯉 どこに泳いでいくのやろ・・


思い出すとどこか夢の中を歩いていたような気がするのは、
たぶん酔っ払っていたせいかもしれません。
気が向いたところにしか行かない娘が、少し遅い私の誕生日祝いにと
食事に誘ってくれた、ある秋の日の帰り道のレポートでした。
(2018.10 by yuki)


錦天満宮 午前8時開門 午後8時半閉門
御祭神の菅原道真公は学問の神様として知られていますが
ここは繁華街にあるためか、商売繁盛も御利益に謳われています。
気づきませんでしたが、入口の鳥居の両端が隣接するビルに
刺さっているそうで、珍鳥居スポットとしても有名らしいです。

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