天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

番外編第1話

授業中だょ ミヤコちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」


 カツカツと黒板を走るチョークの音が、静かな教室に響いています。
のんびりとした昼下がりの授業は、どうしてこんなにも生徒達を睡魔との闘いに
赴かせますのでありましょう。
一部の生徒はものともせず熱心にペンを走らせ、
多くの生徒はその攻勢を必死にいなしつつ機械的に黒板の内容を写し、
少数の生徒は早々と白旗を掲げその軍門に下っています。
さらに、一名はこっそりと筋トレに勤しんでいました。
「・・・だから、この方程式にのxに対する・・・。」
説明を行いながら板書していた先生(レイモチェル・バーバシー、832歳)が
その筆圧のためにチョークを粉砕し、
「だから、お前はなにしとんじゃ~っ!」
振り向きざま、残ったチョークに自信の教師人生で培った技術の全てを
注いだ一投が、一人の生徒めがけて飛んでいきました。
そのチョークに与えられた力は、スピード、コントロール、威力とも彼の
長い教師生活の中で、最高傑作と言ってもよいほどのものでした。
それが目標を捉えたと確信したまさにその瞬間、チョークは目標の女の子の
人差し指と中指によってピタリと挟み込まれ、その目的を果たすことを直前で
遮られてしまったのです。
さらに、チョーク以外にも、その手には鉄アレイ(10kg)が握られていました。
「先生、実に素晴らしい一投でありました。
スピード、コントロールともに申し分なく、きっとこれまでの先生の
最高傑作ではないかと推測いたします。
ただ、惜しくは、スピードを重視されすぎていますために、威力に欠ける
結果となり、私の指二本ですら容易に受け止めることが可能となってしまって
いますのです。
実に、実に惜しいものであります。
簡単な対策といたしまして、チョークの中に鉛を仕込むなどされれば、
威力を上げることができますが、その場合・・・。」
「じゃかましいっ!。
誰が評論をしてくれと言った、よけいなお世話じゃっ!。」
彼(レイモチェル・バーバシー、832歳)が、このところ気にしている血圧の
急上昇を意識しながら、数学の授業中に机の下で筋トレをしていた
ミヤコウェル(通称ミヤコちゃんもしくはミヤちゃん)に指を突きつけたのでした。
「お前は一体数学の授業中に何をやっとんじゃと聞いとんじゃっ!。
筋トレをするなら、休み時間にやれや!!。」
指に挟んだチョーク(白色)を、静かに机の上に置き、彼女は音もさせず
立ち上がりました。
その動作、姿勢はまさに淑女の見本となるあくまでも自然で優雅な動きで
あったのです。
そして、目を伏せたまま立ち上がった彼女の姿は、まさに深窓の御令嬢そのものです。
そんな美少女の長い睫毛がふるふると震え、目を伏せる姿は、誰もが魅せられ
目を離すことができなかった事でありましょう。
その彼女が、透き通った天上の調べのような澄んだ声で話し出したのです。
「先生、申し訳ございません、いつも熱心に私達に授業を行って頂くお姿を
私は敬愛しております。
きっと、クラスの皆にはとてもわかりやすく、
明日の私達の実となり力となっていくものと確信しております。
幾多の言葉を重ね、天上の言語の全てを使い尽くしましても、その授業に対される
尊きお姿は真に天使の鑑だと私は尊敬いたしております。
しかし、先生がこれほど熱心に、丁寧に判りやすくご説明頂いているにも
かかわらず、私には・・・悲しむべきことなのですが、授業がチチンプイプイなので
ございます。」
「あっ、チンプンカンプンね。」
すかさず後ろの席から訂正が入りました。
「キョウ、こんな私のためにいつもすまない。」
あくまでも優雅で気品に満ちた動作で、後ろの席のキョウチェル
(通称、キョウちゃん、またはテンとミヤコのお母さん)に礼を言いました。
再び先生に向き直ると、
「そのチチンプイプイなのです。」
今度は訂正は入りませんでした。
「そんなですから、先生のこの大切で有意義となるはずの時間を、無為に
なにも考えず過ごしますより、私に足りない筋肉の強化に充てれば、少しは有意義な
ものとなるのではと、先生からは不敬の謗りを逃れえぬものとなって
しまいますのですが、皆には迷惑にならぬよう机の下でさせて頂いて
おりましたのです。
私に、もう少しの学力があれば、先生にもこのようなご不快な思いを
して頂く必要もなかったのですが・・・。」
そのまま、彼女は目を伏せるだけでなく、顔までも伏せ、美しく切りそろえられた
前髪がハラリと前に垂れ、顔を隠した中から、ポツリ、ポツリと涙の雫が
落ちていったのでした。
それは、見る者全てに己の身を恥て、心からの後悔の念を持つ天使の姿と
映りました。
教卓に手を置き、怒りに満ちた顔をしていた先生(レイモチェル・バーバシー、
832歳)の顔から、険しさが波が引くように消えていったのでした。
「なぁ、ミヤコウェル、先生は決してお前のことは嫌いじゃないんだ。
その常に真摯な姿勢、どこまでも真っ直ぐな心、誰にも優しく、何事にも
全力で打ち込む姿は、眩しいぐらいだ。
少しはそれを数学にも向けてくれると先生は嬉しいんだがな。
そんなお前が、コソコソと机の下で鉄アレイを振っているのはどうだろう、
わからなければわからないでもいい、机の上のノートに板書したものを写し、
わからないことは先生のところに聞きにこい。
どれだけかかっても、必ずお前がわかるまで教えてやるから。」
その声は、男性特有の低く少ししゃがれたものでしたが、声にこもった温かさは
ミヤコウェルの心だけでなく、クラス全員の心に染み渡っていったのです。
「はっ」と勢いよく顔を上げた彼女は、
「先生、申し訳ございません、私・・・、私・・・、間違っておりました。」
新たな涙で頬を濡らしながらも、彼女の顔は嬉しさに輝いています。
先生は思いました、きっと今の顔が彼女の生きてきた中で一番輝いている顔だと。
教師の仕事は確かに大変なものです。
多くの生徒の将来を左右し、教科を教えるだけでなく、その生徒の気持ち、
得手不得手を知り、一人ひとりのために動いていかなければなりません。
ですが、その大変さも、今の彼女のように新たな一歩を踏み出す
一助になれるのであれば、なんとしたこともないのです。
これこそが教師の喜びなんだと、もう彼にはなんの蟠りもありません、
今は、この喜びで、身体中に力が漲ってくるようです。
先生は、パンパンと手を叩き、
「よし、授業を続けるぞ、ほらほらミヤコウェルも涙を拭いて座りなさい。」
穏やかな心持で、教科書を読もうとした彼は、すぐにその教科書を彼女に向けて
投げつけたのです。
驚きの表情で、再び指二本で教科書を止めた彼女は、困惑の表情のまま
先生に尋ねたのです。
「せっ先生、いきなり何をされるのですか。
やはり私になにかご不満をお持ちなのでしょうか。」
「やかましい、俺が聞きたいわ!。
なんで机の上で筋トレを始めんだよっ!!。」
その言葉に、彼女はまさに驚天動地といわんばかりの表情となり
「何を言っておられるのですか、今、先生が『コソコソと机の下で筋トレをせずに、
机の上でやれ、できるまで教えてやる』とおっしゃられたではないですか。」
「言ってねぇよっ!!!。」
学校教師である彼(レイモチェル・バーバシー、832歳、最近枕に落ちている
髪の本数が気になり始めている)の苦悩は、まだまだ報われることはないのでした。
テンチェルちゃんは、もちろんキョウちゃんの隣の席で早々と白旗を掲げています。

プロフィール
○名前 : レイモチェル・バーバシー。
○年齢 : 832歳。
○職業 : 教師。
○指導教科 : 数学。
○担当クラブ : 作法部(紳士・淑女としての礼儀作法を実践、研究するクラブ)。
○性格 : 教育、生活指導に熱心だが、生徒に規則の遵守を強いるのではなく
天使としての恥ずかしくない行動を求めている。
時には、規則からはみ出した者のために自身の身体を張って守ろうともする
熱血漢な面も。
だが、残念なことに数学教師であった。
彼がもし、文系の教師であったなら、彼の行動は小説、ドラマなどによって
広く知らしめられ、長く理想の教師として尊敬されたことであろう。
一例としてあげるなら、彼のクラスに転校してきたなかなかクラスに馴染めない
生徒が、親友となったクラスメイトとともにかつての母校に乗り込み、
放送室を占拠し、校長が彼に対して放った暴言の謝罪をさせる事件があった。
彼は親友とともに、警察に連行されようとしたのだが、駆けつけた
レイモチェルが最後まで彼等を庇い、身体を張って連行されるのを
阻止しようとし、最後は複数の警察官に押し留められながらも、声の限りに
「彼らは私の生徒だ、連れて行くな、私の生徒なんだ!」と叫び続けた姿は、
彼の人となりを端的に顕した一例であろう。
また、不良グループの大規模な喧嘩の場に居合わせた彼が、双方100体を越える
彼らに対し、時間をかけて諭し、最後には
「あんたみたいな天使が担任だったら・・・、俺だって、こんな・・・。」
と言わせ立ち去らせたという。
だが、惜しいかな、彼は数学の教師だったのである。
○最近気になっている事 : 健康診断で血圧が高いと言われたので、できるだけ
穏やかな生活をするよう心がけている。
朝起きた時の、枕に落ちている髪の毛の本数が多いのではないかと心配しているが
まだごまかせるだけの数は残っていると主張している。
「なにをごまかすのか?」との問いには、最後まで無言を貫かれた。

外伝第1話 お・し・ま・い♪。

 なんかねぇ、数学教師って、いつも生徒の敵みたいなことになっていますけどぉ、
う~ん、やっぱりそんな感じですよねぇ:笑:。
数学への苦手意識からなんでしょうかね:笑:。
えっ、プロフィールは「ミヤコちゃん」じゃないの?と思われたのでしたら、大成功なのですぅ:笑:。
(2020.10 by HI)

◆◆◆

あはは。まんまと思惑通りの感想です。
「あれ?ミヤコちゃんのプロフィールは?」
天使の金八先生のような・・(戻って名前を確かめる)レイモチェル先生、
ブロマイドの需要はなさそうなのである意味貴重なプロフィールかも?
でも最近、本当に人として敬意を感じる数学教師のかたのお話にふれたので、
レ・・レイモチェル先生も、きっと多くの天使さんにとって
忘れられない心の恩師なんじゃないかな、と思います。
本文中にちらっと出てくる、キョウちゃんの通称なんかにも
一貫したキャラ設定が感じられ、ストーリーをより楽しいものにしてくれてます。
本編ともども、楽しくてどこかあったかい外伝も
「次は誰かなあ」楽しみにしてます♪


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