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桜吹雪だょ テンちぇるちゃん♪



「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 極東の島国に一人の女の子がやってきました。
髪はセミロングのやや内向きにカールした金髪、瞳はサファイアのような青色が好奇心一杯に輝いています。
白いワンピースのような服で、背中に翼を広げたどこにでもいるちょっと可愛らしい女の子。
彼女の名前はテンちぇるちゃん、ヨーロッパからやってきた見習い天使さんです。
どうせならヨーロッパの国に行きたかったっていうのが本音だったりします。
でも、どんなところに行かされても元気一杯にお仕事をするのが
できる女の子のテンちぇるちゃんなのです。
「あ~あ、なんでこんな世界の果てにこなきゃなんないのよ~」
・・・テンちぇるちゃん、本音が駄々漏れしてますよ。 
成績順で決められましたから、仕方ないのです。

 空をふぃよふぃよと飛んでいたそんなブルーなテンチェルちゃんの目に、
驚きの光景が飛び込んできました。
なんと、眼下一面がとても綺麗な薄桃色一色に染め上げられているのです。
時折風でも吹いていますのか、あちらこちらから薄桃色が舞い上がっているのが見え、
とても幻想的な情景を醸し出しています。
「わぁっわぁっ、なにこれなにこれ、綺麗綺麗っ!」
ヨーロッパでも、こんな風景は見たことがありません。
一気にテンションを上げたテンちぇるちゃんは、薄桃色の隙間を見つけ
地面に降り立ち辺りを眺めてみますと、それは桜と呼ばれている木が
群生しているものでした。
薄桃色の天井に、降り積もった花びらのカーペット。
まさに桜の花に囲まれているところに、やさしい風が吹き抜けると、
幾枚もの花びらがテンちぇるちゃんを歓迎するかのように、優しく傍を通り過ぎ、
枝の隙間から差し込む光が幾本もの輝く柱となり、一面の桜色の世界を
美しく照らし出しています。
それは教会のステンドグラスの輝きにも、優るとも劣らない光景を
見せてくれていましたのです。
やがて風も通り抜け、再び桜の花の屋根と地面に広がった花びらのカーペット、
それを繋ぐ光の帯の風景だけとなりました。
テンちぇるちゃんは、今見た花びらの舞う風景をもう一度見てみたくなり、
風が吹くのを待っていました。
離れたところでは、さわさわと風が吹く音が聞こえてきているのですが、
なかなか風はやってきてくれませんでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

痺れを切らした彼女は、よいことを思いつきました。
「吹かないのなら、私が呼べばいいのです。」と。
彼女は手にしていた白い杖を頭上に高く振り上げ、それを振りはじめました。
テンちぇるちゃんは、オーケストラの指揮者がタクトを振りますように、
優雅で華麗に振っているつもりなのですが、どう見てもブンブンと振り回しているようにしか
見えませんので、この時に近づいてはいけないというのは、
天使のお友達の中では暗黙の了解だったりいたします。
もちろんそんなことは、テンちぇるちゃんには知る術もないことなのですが。
「テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」
彼女の元気な掛け声とともに、子供が笑いさざめく声が辺りから聞こえ始めました。
呼び出したのは、風の精霊さん達です。
精霊さん達は、大好きなテンちぇるちゃんに呼ばれたことにもう大はしゃぎです。
それぞれの精霊がよいところを見せようと、とてもがんばってくれました。
そして風がさわさわとそよぎ始め、一瞬の静寂の後、轟音を響かせ、
幾本もの空気の塊が辺り一面を駆け抜けたのです。
それは思い思いに駆け巡り、一本の渦となり天高く吹き上がりました。
その姿はまさに桜色の柱となった渦が空に駆け上がっていくという
とても美しい光景を現出させてくれたのです。
そう、辺り全ての桜の花びらを巻き込んで・・・。
テンちぇるちゃんは、さわさわと花びらの舞う風景を見たかっただけなのですが・・・。
やがて空からドサドサと花びらが塊となって降り注ぎ、辺りは分厚い花びらが
敷き詰められることになってしまいました。
もちろんテンちぇるちゃんの頭や翼にも花びらが積もり、
膝辺りまで埋まってしまっています。
彼女は多分、いえ、間違いなくとんでもないことをやらかしてしまったと笑顔のまま
固まってしまっていました。
その時です、少し離れたところに一人の女性が立っていますことに気がつきました。
女性はこげ茶のロングスカートに、緑色の上着、どうやら、この辺りの国の
民族衣装と思われるものを着ています。
そして肩から腕にかけて薄い生地の薄桃色の帯を、ふわふわと漂わせていました。
顔はヨーロッパ人のように彫りの深いものではありませんが、
整ったお顔で、口元はやさしく微笑みを浮かべていましたが、
目は、目は笑っていません、笑っていませんでした。
テンちぇるちゃんは反射的に逃げようとしましたが、いつの間にか近づいていた
彼女の手は両肩をがっしりと掴んでいました。
振り向いたすぐ目の前には女性の顔があり、彼女の黒い瞳の中に
怯える金髪の女の子の姿が映りこんでいたのでした。

(CMキャッチ)
テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンチェルちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 彼女は千絵理(ちえり)さんという、この辺りの春を司る桜の花の大精霊でした。
今テンちぇるちゃんと風の精霊さん達は、千絵理さんの前に、
この国の正しい座り方と言われる正座をさせられ、彼女のお説教を受けていますのです。
桜の花を開花させるのがいかに大変なことか、
人々がいかに桜を見るのを楽しみにしているのか、
それを全て散らせてしまうとは何を考えているのですかと、
何度も繰り返し繰り返し説教を聞かされ、
「すいません、ごめんなさい、もうしません」と
涙目で言うしかありませんでした。
テンちぇるちゃん達が解放されたのは、それからたっぷり
3時間を過ぎてのことでした。
そしてそこには足の痺れのため満足に立つことさえできないテンちぇるちゃんと
風の精霊さん達の「足が・・・、足が・・・」という弱弱しい声が聞こえてくるだけでした。
でも、この降り積もった桜の花びらは、花のお布団に寝ていますようで、
ちょっと幸せな気分になれたテンちぇるちゃんなのでした。

◎テンちぇるちゃんプロフィール
ヨーロッパからやってきた、金髪碧眼の見習い天使の女の子。
セミロングで、髪先が少し内側にカールしているのがチャームポイント。
いろんな精霊を呼び出すことができますが、一番相性がいいのは
風の精霊さん。
聖なる力を使う時には、白い杖を優雅に振り「テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」と唱えます。
赴任先の極東の島国がどんな所なのかはよく知らなかったりいたします。
(2020.4 by HI)

◆◆◆
このstoryは、ちょうど桜が満開の4月、風の強い日に
「杖休め茶屋」にご寄稿いただきました。
ゆっくり見ることもないまま散りゆく桜を悲しく感じていたところでしたが
HIちゃんの描いてくださった幻想的な桜風景にうっとり、
そしてテンちぇるちゃんの大胆な「やらかし」にくすくす。
なんだか気持ちが軽くなり、ラストでは
私もちょっと幸せな気分になれました。
さすができる女の子のテンちぇるちゃん、成績はいまいちでも
天使の素質 十分です。
テンちぇるちゃんと極東の島国を巡るのを楽しみに、
今は世界が元気を取り戻せるよう、みんなで静かに協力したいと思います。
HIちゃん special thanks!

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