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五月晴れだょ テンちぇるちゃん♪



「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

五月の青く晴れ渡った空を、テンちぇるちゃんは気持ちよさそうに
ふぃよふぃよとたゆたっていました。
背中を地上に向けての背面飛行です。
実はコレ、彼女の得意技だったりいたします。
普通翼持つものは、鳥でしょうが天使でしょうが背面飛行なんてのは
いたしませんっていいますか、物理的にできません。
彼女曰く
「空でお日様に向いたまま飛べれば、いつでも日向ぼっこができて便利だよ。」
ということらしいのですが、物理的に無理だって言ってんのに、微妙に翼を動かして
バランスを取ったりしているのには、ちょっとイラッとしたりいたします。
「あ~、この地域の夏は蒸し暑くて我慢できないって聞いていたけど、
 けっこう気持ちのいい気候じゃない♪。
 今日もアポロン様はよいお仕事をされていますよね~。」
と日向ぼっこを満喫しているようですが、この国の太陽神は天照(アマテラス)
ですよ。
そんなだれきった様子のテンちぇるちゃんの目の端に不思議なものが映りました。
一本の高いポールになにやら色とりどりのものがぶら下がっているのです。
洗濯物かとも思いましたが、どうも違うようです。
「はて?アレはなにかしら。」
と近づいて見てみますと、上から、色とりどりで足が分かれたものを先頭に、黒、
赤、青、オレンジ色の吹流しが並んでぶら下がっています。
特に、黒いものは直径も大きく、長さもテンちぇるちゃん数人分はありそうな大きさです。
4つは鱗の模様が描かれ、彼女の頭ほどもある大きな目玉とヒゲが特徴の
魚を模したもののようです。
ポールに繋いである口を覗き込んでみますと、中はがらんどうなようですが、
彼女ぐらいなら楽々と入ってしまいそうです。
「なにかなコレ、なにかなコレ?」
どうやら彼女の興味に火を就けてしまったようですが、好奇心は猫をも殺すと
いう言葉を教えてあげたいです。
その吹流しの周囲を飛びながら「コレは一体なんだろう」と眺めていますと、
その黒い魚の目がギョロリと動き、テンちぇるちゃんと目が合ったではないですか。
これだけ大きな目玉に睨まれますと言いますのは、誰だって怖いものです。
「ひょっ!」と乙女があまり出してはいけない声とともに、後ろに跳び退った彼女は
一番上から垂れ下がっていた足の分かれた吹流しに背中から突っ込んで
しまったのです。
羽ばたかせた翼は動かせば動かすほどに、その吹流しに絡まり、既に翼はおろか、
身体や手足まで絡め取られ、まるで糸の絡まった操り人形のようです。
もはやお団子状態となり、自分ではどうすることもできそうにない彼女の上に、
黒い影が落ちてきました。
その方向をみると、さっきまで下で垂れ下がっていた、黒い大きな魚の
吹流しが空を泳ぎ、その丸い口を大きく開け、テンちぇるちゃんを飲み込もうと
近づいてきたのです。
「キャあ~~~~~っ!」
テンちぇるちゃんの悲鳴が辺りに響き渡りましたが、その声に応えてくれる者は
誰もいませんでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 一飲みでテンちぇるちゃんを飲み込んだ黒い魚は、吹流しを吐き出しながら後ろに下がり、最後に
ポンと彼女を吐き出すと、元の位置に戻っていきました。
そしてポールに垂れ下がったまま、大きな目玉で彼女を見やると
「お嬢さん、怪我はないかね。」
と、低く落ち着いた声で尋ねてきたのです。
どうやら、テンちぇるちゃんを飲み込んだのは食べようとしたのではなく、
絡まった所から助け出してくれるためだったようです。
羽を羽ばたかせながら、ちょっと呆けてしまっていたテンちぇるちゃんでしたが、
気を取り直すと、その場で深々と頭を下げながら
「すっすいません、命をお持ちの方とは思いませんでした。
 あっ、助けて頂きありがとうございます。」
(うわ~、またやっちまったょ~・・・)
と内心焦っている彼女に、黒い吹流しはその大きな目を細め
「別にかまわんよ、それにしても天狗殿のお仲間かと思ったが違うのかな?。
 はてお嬢さんは一体何者なのかな。
 私は鯉幟と言ってな、お父さんをやっておる。
 下のは妻と子供達で、上にあるのは水の流れを表した吹流しなんだ。」

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

「ほぉ、では嬢ちゃんはヨーロッパから天使の見習い修行でやってきたと
 いうことなのか。」
お互いの自己紹介も終わり翼を羽ばたかせながら正座をするテンちぇるちゃんに、
鯉幟父さんは
「若いのに正座がちゃんとできるとは、よほどヨーロッパでこの国のことを
 学んでこられたのだな。」
と、すっかり感心されてしまいましたが、結果オーライとだけ言っておきましょう。
「でも、鯉幟さん達はどうしてこんなところで垂れ下がっているのですか?」
テンちぇるちゃん、ストレートすぎます。
これには鯉幟父さんも大きな笑い声を響かせてしまいましたが、その音色の中には
少々の辛さが含まれてもいました。
「ワシらは本来なら風を受けてこの空を泳ぎ、力を貯めて天に昇ることが
 できるのだが。
 昔はここもよい風が吹いていてな、多くの鯉幟達が毎年天に昇って行った
 ものだったのだが、人が土地を作り変えてしまったおかげで風がほとんど
 吹かなくなってしまったのだよ。
 今ではもう、この旗竿の周囲を動けるぐらいの力しか残っておらんでな。」
空を見上げる鯉幟父さんは、少し寂しそうでした。
「それなら私が風を吹かしましょうか。
 私 風を吹かせるの得意なんですょ♪。」
ガッツポーズをしてみせるテンちぇるちゃんは風の精霊さんととても
仲良しですので、このぐらいのお願いでしたらきっと手伝ってくれるはずです。
ですが鯉幟父さんは、溜息を吐き出すように言いました。
「以前にも気のよい天狗殿が同じように風を送ろうかと言ってくれたことが
 あってな。
 だがまさか私が出ている1ヶ月に渡って風を送ってもらうわけにもいかぬし、
 お断りしたことがあってな。
 同じで、まさかお嬢さんにずっと居てもらうわけにもいくまい。
 だからその気持ちだけ頂いておくよ、ありがとうな。」
悲しそうな鯉幟父さんを横目に、テンちぇるちゃんはにわかに杖を高く振り上げ
「テテンチェルチェル テテンチェル~♪」
と唱えだしたのです。
もちろん杖はぶんぶんです。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 しばらくすると、遠くから風の音が聞こえ始め、鯉幟さん達が繋がっている竿が
グィンとしなるほどの風が吹き始めました。
先頭の水の吹流しはもちろん、鯉幟父さん、母さん、お兄ちゃん、妹ちゃんも
まさに水を得た魚のように、大きく身体をうねらせ風に乗って泳ぎ始めました
「おぉっ、これはなんとよい風だっ!。
 この風が吹き続けてくれれば、私も妻も天に昇ることができるやも知れん。」
鯉幟父さんは目を輝かせましたが、その輝きは一瞬のもので、再び伏せられて
しまいました。
「なぁお嬢さんや、これはとてもよい風だということは判るし、お嬢さんの気持ちも
 痛いほど嬉しい。
 が、さっきも言ったように、ずっとここに居てもらうわけにもいかんし、
 その気持ちだけ受け取らせてもらうよ。」
するとテンちぇるちゃんは、小首を傾げて言いましたのです。
「違うよ。
 この風は私が吹かせているんじゃなくって、この辺りにいる風の精霊さんに
 お願いして、風の通り道をつけてもらったの。
 だから、私が居なくても鯉幟さん達が上がっている間ぐらいなら、精霊さん達が
 風を通してくれるよ♪。」
今度は鯉幟父さんだけでなく家族全員の心が歓喜に沸きました。
「本当か、この風が吹き続けてくれるのかっ!。
 これで、 私も妻も天に昇る事ができる!。」
こうして、鯉幟家族の歓喜とお礼の声を聞きながら、後ろを振り返り振り返り
手を振りながら飛び去るテンちぇるちゃんなのでした。
でもね、テンちぇるちゃん、付近の家の屋根にある魚の骨みたいな、
アレはなんと言いましたっけ?・・・が軒並み吹き飛ばされているのですけど・・・。
まぁ、今回は見逃しておいてあげることにいたしましょう。

◎テンちぇるちゃんプロフィール
特技、背面飛行(日向ぼっこするのに、とても便利だょ)
   正座(この島国にきてから覚えたょ)
お友達、鯉幟一家(この島国で初めてのお友達だょ)
(2020.5 by HI)

◆◆◆

「わぁ!続きが読めるなんて!」
5月5日、こどもの日の掲示板「杖休め茶屋」に新しいテンちぇるちゃんのstoryを見つけ、
私は童心に返ってはしゃぎました。
さっそく読み始めた最初の1文目。
ふぃよふぃよとたゆたうテンちぇるちゃんの描写に、
第1話で桜咲く空を飛んでいた姿が蘇ります。
でも次の瞬間、2文目でいきなりそのイメージは文字通りひっくり返りました。
小説には、セリフの主が誰だかわからないなど、映画等では難しい、
文字世界ならではの仕掛けがあることがありますが、
まさかテンちぇるちゃんの舞い姿が仰向けだったなんて
一体誰が予想できたでしょう。※
すごすぎます。
猫パンチに私までひっくりかえったまま読み進むと、
絶体絶命の展開にドキドキ、なぜか正座が上手なテンちぇるちゃんにくすくす。
ちょっぴり成長したのか、最後は天使らしくみんなに喜んでもらえたテンちぇるちゃんに、
「やったー」。
今回も、雄大に泳ぐ鯉幟一家と吹き流しの描写がとても色鮮やかで、
吹き渡る風と共に心一面に五月晴れの空が広がりました。
優しい鯉幟父さんとの友情の芽生えも嬉しかったです。

そして・・えっ?えっ?三郎くん?
杖休め茶屋では、何やら気になる次回予告も・・?

HIちゃん、ありがとうございます!
※テンちぇるちゃんが背面飛行をするのはひなたぼっこの時で、
通常は下を向いて飛んでいるそうです。そりゃそうか(笑)

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