天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

雨降りだょ テンちぇるちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 しとしとと降り始めた雨の中、慌てたテンちぇるちゃんが山の中の寂れたバス停に飛び込んできました。
「あ~、もうひっど~いっ、急に降りだしてくるんだもんっ!」
おやおやかなりお冠な様子ですね。
天使でもやっぱり雨に濡れるのは嫌なのでしょう。
バタバタと羽を小さく羽ばたかせ、付いていた水滴を振り払うと
「はぁ~」と軽く息を吐き出します。
なんとなくバスの時刻表を見てみますと、午前中に1本、午後に1本と、なんとも
「the 田舎」という言葉が似合いそうな運行状況でした。
そうしている間にも雨脚はどんどんと強くなり、バス停の屋根のトタンを叩く音が眠りを誘うものから、
辺りの音をかき消すものへと変わってきました。
「あ~、これはしばらく上がりそうにはないようね・・・。」
諦め顔のテンちぇるちゃんは並べてあるベンチに腰掛け、両手でアゴを支えて
ボンヤリと雨の降る様子を眺めていました。
どのぐらい時間が経ったでしょうか、そろそろテンちぇるちゃんの辛抱も
尽きかけようかという頃、雨音に交ざってパチャパチャと水を踏みしめる音が聞こえてきたのです。
相変わらずトタンを叩く雨音は周囲の音をかき消そうとしていますが、
状況に飽き始めたテンちぇるちゃんの耳は見事その仕事を成し遂げていましたのです。
「なんだろう?」
と雨に煙る中をじっと見つめていると、ぼんやりとした人影が見え始め、
それが徐々に濃くなってきました。
どうやら、こんな雨の中で誰かが走っているようです。
ただ、真っ直ぐ走っているのではなく、あっちへフラフラ、こっちへふらふらと
蛇行しながら走っています。
スピードも随分とゆっくりとしたものですし、手もだらんと垂れ下がり、
かろうじて前後ろに動かしている程度のものでした。
やがてテンちぇるちゃんがいるバス停の前にやってきましたが、もう走っているのか
ふらついているのかわからないような動きとなり、いかにも自然な感じで雨の中に倒れこんでしまいましたのです。
そのあまりにも自然すぎる倒れ方に、テンちぇるちゃんも
「・・・?えっと・・・?。」
と目を細めて見入ってしまったほどでした。
ようやくなにが起こったかを認識したテンちぇるちゃんは、
「きゃ~~~っ!、大変大変大変~っ!」
と、大慌てでその倒れている人を屋根の下に引っ張り込んだのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 その倒れていた人は、ぽっちゃり系の女の子で、寝かされたベンチの上で
眉間にシワを寄せながらも、静かな寝息を立てていました。
顔はこの地域の人特有の平たい顔つきですが、飛びぬけて美人さんとか
個性的ということもなく、どこにでもいるごくごく平凡な女の子です。
服装はランニングシャツに短パン、スニーカーというマラソンランナーのような
出立ちでしたが、どうもなにか変です。
服装だけでなく女の子自身もなのですが、濡れているのに濡れていないように
見えるというなにやら不思議な状態だったのです。
とにかく、こんな濡れたまま寝かせておくこともできませんので、衣服だけでも
乾かしてあげることにしました。
「テテンチェルチェル テテンチェル~♪」
杖が天井を突き破ってしまい、一度やり直したことは秘密です。
ポッと彼女の傍で火の粉が弾け、次の瞬間にはトカゲを立ち上がらせたような
火の精霊サラマンダーが現れました。
身体は赤く光を放つ鱗に覆われ、口からはチロチロと舌の代わりに細い火が
噴き出しています。
そんな火の精霊が、腕組みをしたまま喋り始めました。
「なぁ、テンちぇる、なぜ呼び出されたかはわかっちゃいるんだけど、
 一応 聞いてみるな。
 こいつを乾かすために呼ばれたってことで間違いないんだよな。」
じっとテンちぇるちゃんを眺める、サラマンダーを彼女も見つめ返します。
「そうだよ。」
なに当たり前のこといってんの?と小首をかしげサラマンダーを見つめる彼女に
「いや、確かにものを乾かすのに火を使うのは間違っちゃいねえと思うんだけど、
 なんかこう違うんじゃないかって気もしないこともなくってさ。
 こうやっぱり俺を呼び出すんだからさぁ、なんかこうもっと血沸き肉踊るような
 ハードボイルドでワイルドなお願いってのもいいんじゃないかと思うわけなんだけど、違うかな。」
テンちぇるちゃんは、きらきらした瞳でサラマンダーをじっと見つめ言いました。
「サラくん、そんな事はどうでもいいから早くして。」
彼は諦めたように頭を軽く振ると、口を開け、コォ~~~と女の子に向かって
ほどよい熱風を吹きかけました。
女の子の服から蒸発した水が湯気となって、もうもうと立ち上がり始めます。
この調子ならどれだけ濡れていようと、あっという間に乾いてしまうでしょう。
どんどん湯気が上がっていきます。
すごい勢いで湯気が上がり続けています。
サラマンダーがちょっと不安そうに聞いてきました。
「なぁ、テンちぇる、こいつ縮んでいないか?」
改めてテンちぇるちゃんが覗き込んでみますと、確かに最初はベンチの4分の3ほども
あった彼女の身長が2分の1ほどに縮んでいます。
「多分だけど、こいつ水系の精霊かなにかだと思うぞ。」

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

「わぁぁ、ストップストップストップッ!」
と、慌ててサラマンダーの口を塞いだテンちぇるちゃんでしたが、急に口を塞がれた
彼の喉に熱風が逆流し、熱せられた口元を素手で掴んだテンちぇるちゃんも
「「熱っ!熱っ!熱っ!」」
と二人でバス停の床を跳ね回ることになってしまいました。
手を振って熱さを冷まし、テンちぇるちゃんは再び聖唱を唱えました。
「テテンチェルチェル テテンチェル~♪」
すると、今度は雨の降り注ぐ水溜りの中から水の柱が盛り上がり、
人の形を取り始めたではないですか。
やがて現れたのは、髪をリボンでポニーテールに結わえたちょっと吊目がちでソバカスを散らし、
今にもフーセンガムをぷぅと膨らませそうな、いかにもアメリカンな女の子でした。
ただ、衣服どころか身体すらも透き通っていて、向こうの景色が歪んで見えてしまっています。
それはウィンディーネと呼ばれる水の精霊でした。
ウィンディーネが「はぁ・・・」といかにもな溜息を吐きながら、
「で、あたしになにか用?・・・」
とポケットに手を突っ込んだまま言ったのですが、サラマンダーがそこにいるのを見つけると、
吊目がちな目をさらに吊り上げ
「なんで火の奴がここにいるのよ、いい加減にしてよね!」
と両手を左右に広げると、水の球をいくつも周囲に浮かべ始めたのです。
サラマンダーも、ニヤリと口元を歪め、シッポをブンブンと左右に振り、
鱗の間から火を噴出し始めています。
一触即発の事態に、二人の間を引き剥がすようにテンちぇるちゃんが割り込みました。
「はぁ~い、ストップ、ストップ!」
同時に水の精霊の見事な舌打ちがバス停の中に響き渡ります。
「ウィンディーネちゃん、ちょっとこの女の子を見て欲しいんだけど、
 この子、水の精霊なのかな?。」
更に忌々しそうにキレよい舌打ちをサラマンダーに咬ましてからテンちぇるちゃんの示したベンチを見やると、
「見たことない精霊だけど、かなり高位の精霊のようね。
 だけどなんでこんなに小さいのかしら?。」
ハッと何かに気が付いたウィンディーネは、素早い動きで後ろの二人を見やり、
「まさかとは思うけど、この子を乾かそうとかしてないわよね・・・。」
当然のようにビクンッと撥ねた二人の肩が全てを物語っていました。
その様子に何をしたのかを悟ったウィンディーネは
「全く信じられないわっ!」
とぷりぷりと怒りを顕にしながら周囲に漂わせていた水球を、次々と女の子に
注いでいったのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 やがて元のサイズに戻った女の子はしばらくすると目を覚まし、透明な身体の
ウィンディーネを見て驚き、チロチロと火を吐くサラマンダーを見て怯え、
テンちぇるちゃんを見て「天狗さん」とようやく安心してくれたのでした。
いつも天狗と間違われているテンちぇるちゃんは、まだその天狗なるものに
会ったこともありませんので、落ち着いてくれるのならまぁいいかと
とりあえずそのままにしておくことにしました。
 彼女の名前は「梅子(うめこ)」さんと言って、梅雨前線をやっているということでした。
最初は梅雨前線というのがよく判らなかったテンちぇるちゃん達でしたが、それが
この地域といいますか国すら越えた地域の季節を司る精霊と聞いて
「それって神様じゃんっ!」
と真顔でひっくり返ってしまったほどでした。
「いえいえ、そんなたいした者ではありません」と頭と手を残像が残りますほど
ぶんぶんと振られましても、そんな広範囲に力を示せるのって神様か魔神以外にはいません。
お互いに「それは」「いや、それは」と果てのない議論をしていましても
結論のでないことと、とりあえず棚上げをしておくことになりました。
どうやら梅子さんは、この国で前線と言われる姉妹の末っ子で、桜、
紅葉という姉達がいるということです。
ただ梅子さんは見ての通りあまり運動が得意ではないため、走るのが遅く
毎年がんばってはいるものの、本州と呼ばれる島を走りぬくことが精一杯で、
海を越えた北の島まで走りぬいたことがないのです。
だから他の姉妹達に「もし貴方が桜前線をやって北の島まで行けなかったら
どれだけの人が桜を見れずに終わってしまうことになるんだか。」
「もし、貴方が紅葉前線をやって、南の島か西の島まで行けなかったとしたら
 いったいどれだけの人が紅葉を見れずに終わってしまうことになるんだか。」
と、彼女の足の遅さを理由に梅雨前線しかやらせてもらえないと言うのです。
「私だって、梅雨がなかったらどんなことになるかは判っているし、それが
 大切なお仕事だって・・・、お仕事だっていうことは判っているの。
 でも、梅雨前線がやってきたって喜んでくれる人たちがどのぐらいいるっていうの・・・。
 私だって桜姉さんや紅葉姉さんのように皆が待ちわびて喜んでくれる前線をやってみたいの・・・。」
両手で顔を覆って泣き出してしまった梅子さんの肩をテンちぇるちゃんの温かい手が
やさしく包み込みました。
ゆっくりと顔を上げた彼女の前には、大きな瞳から大粒の涙を流すテンちぇるちゃんが
真っ直ぐに梅子さんを見つめていましたのです。
「判る、判るの、私には貴方の気持ちがっ!。
 梅子さんの心に突き刺さった痛みがどれほどのものかが判るの。」
涙を落としながら、静かに落ち着いた声で話しかける彼女の気持ちが梅子さんに
届かないわけがありませんでした。
初めて自分の気持ちを判ってくれる者に出会えたのでしょう、梅子さんの手と
テンちぇるちゃんの手は自然と固く握り合わされていました。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

「私には梅子さんの気持ちが痛いほど判るのっ。
 私だって、好きでこんな世界の果てに来たんじゃないんだもんっ!。」
梅子さんは、ちょっとキョトンとした顔をしてしまいましたが、テンちぇるちゃんは
お構いなしでした。
「そうなの、最終テストのときだって、ほんのちょ・・・、ちょっとだけ点数が
 悪かったの、本当よ、ちょっとだけなのよ、ちょっとだけ。。
 それだって、前の晩に、友達と徹夜で遊ん・・・、友達の悩み相談に
 乗ってあげていたから眠くて気が付いたらテストが終わっていただけなのっ。
 だのに彼女はちゃっかりバルキリア隊のほうに研修先を決めちゃって、私は
 こんな世界の果てにっ!」
その時のことを思い出したのか、テンちぇるちゃんは手を握ったまま、だんだんと
地団太を踏み始めました。
あの、梅子さんがどん引きしてますよ。
「そりゃ地の精霊との契約を結ぶ授業の時だって、あの地の髭オヤジが
 私のシルフ(風の精霊)をバカにしたから思わずぶん殴っちゃっただけじゃないっ!。
 そりゃ授業が中止になっちゃったのと、契約の聖地が元に戻るのに1ヶ月以上
 かかっちゃったのは悪いと思うけど、しかたがないじゃないのっ!。」
そしてテンちぇるちゃんは、キリリとしたなにかを決心した表情となり、改めて
梅子さんを見つめたのでした。
「任せて、私が梅子さんを必ず北の島まで行かせてあげる。」
少し不安に思った梅子さんでしたが、それを断る勇気が彼女にはありませんでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 今、梅子さんは雨の中に立っています。
不安そうな眼差しをテンちぇるちゃんに送ってみますが、彼女の固い決意の前には
爪の先ほども届くことはありません。
「いい、大丈夫だから、今、私の風の精霊を呼んであげるから。
 そうしたら、北の島なんてあっと言う間だからね♪。」
梅子さんは、サラマンダーを見ました。
彼は、数度頷いた後、目線を外し、小さく親指を立ててくれました。。
次にウィンディーネに視線を送ってみました。
彼女は軽く肩をすくめると、仕方ないよねとでも言いたげな様子で、小首を
かしげました。
梅子さんは、最後にテンちぇるちゃんを見てみましたが、やる気マンマンな様子で頷かれ、
ガッツポーズさえ見せてくれたのでした。
足元を見ると、水溜りの中にポッチャリとした女の子が、少し困り顔で映っています。
「じゃぁ いくよ~っ♪」
テンちぇるちゃんの元気な声に続いて、明るい聖唱が聞こえてきました。
「テテンチェルチェル テテっ!・・・。」
天井に穴が開いたのでやり直しです。
「テテンチェルチェル テテンチェル~♪」
杖がクリーンヒットしたサラマンダーがひっくり返っていますが、気にせず続けました。
やがて子供達の笑い声が辺りから聞こえ始めると、梅子さんの周りの雨粒が
風に煽られ、一瞬の静けさの後、突風が渦を巻き、彼女の身体を高く高く
持ち上げていったのです。
彼女の悲鳴は、風とともに空の彼方へと吸い込まれていきました。
後には、顎を痛そうに撫でるサラマンダーと、ポカンと口を開けて空を眺める
ウィンディーネ、そして
「梅子ちゃん、私もがんばるからねっ!」
と小さくエールを送るテンちぇるちゃんの姿が残るだけでした。

 こんばんは、「ニュース、おいでやす」の時間です
先ずは、このニュースから
ピロリン♪ 
本日停滞していた梅雨前線の活動が活発になり、本州のほぼ全域に渡って
梅雨入り宣言が出されました。
また、同時に初めて北の島で梅雨前線が形成されたことが観測されています。
これは気象庁の観測史上初めてのことであり、今後の梅雨前線の動きに
注意が必要となります。
地域によっては例年より20日以上早い梅雨入りとなり、今年の梅雨は
長く続くものと予想されています。」
ピロリン


◎テンちぇるちゃんプロフィール〈登場人物編〉

「風の精霊(シルフ)」
、テンちぇるちゃんが大好き。
もう好きで好きで好き過ぎて暴走しがち。
高位の精霊が混ざっているため、テンちぇるちゃんの精霊の中では一番強い力を
持っているが、テンちぇるちゃん以外には興味がないので、意外と上手くやっている。
「火の精霊(サラマンダー)」
 二本足で立ち上がったトカゲの姿で、赤く光る鱗を持っている。
ハードボイルドを愛し、そんな状況での召還を望んでいるが、いまだそんな事態に
呼ばれた事はない。
「水の精霊(ウィンディーネ)」
 ポニーテールにアーモンド形の目とソバカスのアメリカンスタイルな女の子。
自分以外は皆頭が悪いと思っているし、サラマンダーとは犬猿の仲。
知識は豊富なので、テンちぇるちゃん達の智恵袋。
(2020.6 by HI)

◆◆◆

引きこもりの週末。
パソコンに向かっていると、小やみ状態だった雨がまた
窓外の景色をパラパラと爪弾き始めました。
その調べに耳を澄ますと、雨だれの音符に交じって
今にもテンちぇるちゃんたちの愉快なやりとりが聞こえてきそうです。

どこかちょっとピント外れながらも優しく一途なテンちぇるちゃんと
自分のキャラを大切にしつつも協力し合ってことを成し遂げるみんなの友情物語、
感動的なはずなのに・・あれ?お腹の底から笑いがこみ上げてくるのはなぜ?
newキャラのサラくんやウィンディーネちゃんの登場シーンや、
梅子ちゃんが飛び立つ前にみんなを見回すシーンなど
ひとつひとつの描写が目に浮かぶようにリアルで、実話なんじゃないかと
バスに乗るとき天井に穴があいてないか見上げてしまいそう。
ラストの演出がまたなんとも心憎い!
「ニュースおいでやす」今度どこかで使わせてもらいます。

今年の梅雨はなぜかみんな笑顔で、「梅雨鬱陶しいな」という表情の、梅雨の街角らしい映像が
なかなか撮れず、報道部では密かに困ってます。
ピロリン♪


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