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夏休み特別企画 劇場版テンちぇるちゃん
精霊さんだょ テンちぇるちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 大きな法陣の描かれた広場の前で、緊張した面持の10歳ぐらいの女の子と、
彼女の先生が並んで立っています。
なかなか動き始めようとしない女の子に先生がやさしく声をかけていました。
「ほらテンちぇる、そんなに緊張しないで習った通りにやればいいんだよ。
 大丈夫、この前だって、その風の精霊がちゃんと応えてくれたじゃないか。」
彼女はいま、精霊を呼び出し、契約を結ぶための授業を受けているのです。
すでに何回、いえ何十回と行ってきたのですが、呼びかけに応じてくれたのは
いま彼女の肩を掴んでニコニコと笑顔で浮かんでいる風の精霊だけなのです。
ただ、それは手のひらサイズの生まれたばかりの精霊で、彼女の力に応じて
来てくれたというより、好奇心に誘われてやって来たというものでした。
たとえ大した力を持たない精霊だったとはいえ、それ自体は喜ばしいと
言ってもよいものなのですが、早い者ではすでに四大精霊の全てと契約を結び、
更に上位の精霊を呼び出そうとしている者もいるのです。
どれだけ多く、どれだけ高位の精霊と契約を結べるかが天使達にとっての
これからの力となるものですから、失敗続きの彼女に焦るなというほうが
無理というものでしょう。
法陣を睨み動かないでいた彼女が、決心したように小さく頷くと、
おもむろに自分の背丈より長い白い杖を高く掲げました。
同時に横にいた先生が慌てて後ろに飛び退ります。
彼女の子供特有の甲高い声で聖唱が響くと同時に、杖が先生の鼻先を掠めていきました。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 彼女の声が広場の隅々にまで響き渡ると、光が地面に描かれた法陣の上を走り、
全ての線が一つに結ばれると、光の法陣は人の背丈ほどに浮かび上がったのです。
そして水平に回転を始め、どんどん加速し、もはや光の塊としか見えなくなると、
光の粒となってはじけ飛んだのです。
周囲でその様子を見学していた他の天使達も、いつものこととはいえ、眩い光に
目を灼かれ、一瞬白一色に覆われた視界が元の彩を取り戻した時、法陣の上に
一人の男が立っていることに気が付いたのでした。
男は背は低くあるものの、筋肉質な身体をし、特徴的な長い髭を生やした
いかにも地の精霊といった姿をしています。
ただ、品のよい豪奢な洋服を纏い、単なる上位精霊とは違った雰囲気を醸し出して
いました。
彼女は呼びかけが成功したことに自身が驚いているのか、呆然と
男を眺めた後、湧き上がってきた喜びを爆発させ
「やったっ、やったっ!」
と翼を羽ばたかせ、ピョンピョンと飛び跳ねながら杖を振り回しています。
本来なら「よし、よくやった。」と声をかけてあげたい先生も近づくことができず
苦笑を浮かべています。
「おい、あれ地の精霊のドレイク・ルフトじゃないのか!?。」
見学していたあちらこちらの天使達の間で、そんな声が交わされていきました。
「ドレイクっていったら男爵(Baron)じゃないのか。
どうして、こんな授業で爵位持ちが出てくるんだよ」
たまたま視察に来ていた大天使が、キラリと眼鏡を光らせました。
やがてそんな声も小さくなり、その場にいた全ての視線がドレイクと呼ばれた
地の精霊に向けられました。
天使達のどよめきが一段落するのを待っていたのか、男が辺りを一瞥して
言い放ちましたのです。
「なんじゃ、久方ぶりに力を感じたので、どんな大物が待っているかと来てみれば
まともな天使にもなっておらぬ小娘とはのう・・・。
彼はテンちぇるを見やると、あからさまな失望感を隠そうともせず、その渋面を
ますます不機嫌なものとしていったのです。
テンちぇるはそんなドレイクの様子に、風の精霊を呼び出したときとは
あまりにも様子が違うことに戸惑ってしまっていました。
あの時は、手のひらサイズの精霊とはいえ、ニコニコと満面の笑みで彼女の周りを
飛びまわり、服や翼、自慢の金色の髪に興味を隠すこともせずに、恐る恐ると
触っては楽しそうに笑い声を上げているものだったのです。
身長は彼女と同じぐらいとはいえ、明らかにかなり年上の男が、苦虫を
噛み潰したような顔をしているのですから、当惑するのも仕方がない事でしょう。
ですが、いつまでもそのままというわけにもいきませんので、腫れ物にでも
触るような気持ちで、思い切って声をかけました。
「こっ、こんにちは、呼びかけに応じて頂きありがとうございます。
 私は、テテ、テンちぇるといいます。」
ちょっと顔が引き攣っていましたが、それなりによい笑顔を作れたはずです。
が、彼の反応は彼女が思っていたようなものではありませんでした。
彼女に一瞥をくれ、大きな溜息を吐き出したのです。
「気に入らんな。
 百歩譲ってできそこないに力を貸してやるのも一興ではある。
が、そのお前が連れているのはなんだ。
出来損ないどころか、なんの役にもたたない羽虫ではないか。
ただまとわり付くしか能のない、糞虫以下の羽虫とワシを同列に扱おうというのか。
ワシを誰じゃと思っておる、地の男爵ドレイク・ルフトじゃぞ。
ふんっ、そのような役立たずの羽虫なぞ即刻放逐するがよいわ。
安心せい、ワシが力を貸してやれば、上級精霊ぐらい幾らでも呼び出して
やるわ。」
罵りの言葉を風の精霊に投げつけたあと、高らかに笑い声を立てるドレイクに
呆気に取られていたテンちぇるでしたが、彼女の肩を掴む精霊の手が
ギュッと強く握られたのに気づき、そちらを見てみると、顔を俯かせた
小さな精霊の姿が薄く消え始めていたのです。
風の精霊がドレイクのあまりにも強い力に当てられ、その姿を消されようと
しているのです。
彼女は肩の布を掴む精霊の手をそっと握ると、ギュッと口元を引き締め
意を決してドレイクに近づいていきました。
「なんじゃ、せっかちな奴じゃな。
まぁ、ワシも積極的な女は嫌いではないのでな。
ならば、さっさと契約を・・・。」
彼が改めてテンちぇるに目を向けた時、彼の視界は黒一色に染まったのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 衝撃音とともにドレイクが後ろに引っくり返り、それを見ていた天使達の目が
驚愕に見開かれました。
中には外れそうなほどアングリと口を開けている者もいます。
「うむ、魂のこもったよい拳だっ♪」
と感想を述べ、
「ちょっとミヤちゃん、なに訳のわかんない事言ってんのょ!、
早くテンちゃんを止めないとっ。」
と隣にいた親友をうろたえさせている者も約一名いました・・・。
その場にいる全員を驚かせ、ドレイクを吹っ飛ばした張本人のテンちぇるは
拳を突き出したままの姿勢で、怒鳴り上げたのです。
「私の風の精霊さんに、謝ってっ!」
地面に尻餅を着いたままポカンとその様子を眺めていたドレイクは、自分が
観衆の前で彼女に殴られ、今また怒鳴られるという事に、ようやくと
思考が追いついてきました。
それとともに、これまで受けたことのない屈辱に彼の顔は赤を通り越して
どす黒く色を変えていったのです。
「きっ貴様、こっこのワシになんという事を、自分が何をしたのかわかって
おるのじゃろうなっ!。」
彼の怒声じみた一喝にもうろたえることなく、しっかりと睨みつけたテンちぇるは
再びドレイクを怒鳴りつけたのでした。
「うるさいっ!、私の、 私の風の精霊さんに謝れっ!」
突き出した手を、こちらも驚愕に目を見開いている精霊の手に再び重ね、
絶対に離すものかと、その小さな手で、さらに小さな手を握りしめたのです。
小さな精霊にとってはとても大きな彼女の手が、絶え間なく震えているのが
伝わってきました。
「謝れっ、私の精霊さんに謝れっ!」
彼女が更に一歩詰め寄ろうとしたとき、ドレイクの顔がニヤリと歪んだのです。
「ワシへの屈辱、その身で償うがよいわっ。」
彼が両手をパチンと打ち合わせた瞬間、テンちぇるの左右の土が盛り上がり、
彼女を左右から挟みこんでいったのです。
挟まれる瞬間、テンチェルに突き飛ばされ、飲み込まれずに済んだ精霊が
驚きに不安を混ぜ込んだ顔で、小さな土山の上をふわふわと漂う事しか
できないでいました。
今の精霊の力では、ドレイクに対抗することなどできるはずがないのですから。
ゆっくりと立ち上がり、衣服の土埃を払ったドレイクは、土山を見て「ふん」と
鼻を鳴らすと、足元の土を柱のように伸ばし、自分ごと土山の上に移動したのです。
そして、土山の上に降りると、ペッと唾を吐きかけ、
「小生意気な奴め、土の中で己の行動の意味を悟り、死ぬまで悔やみ続ければ
よいわっ。」
さらに腹の虫が治まらないのか、ゲシゲシと土を踏み続けていましたが、
不安な面持で周囲を漂っている風の精霊に目を留めると
「どうした、お前の飼い主が土の中で苦しんでおるぞ、自慢の風で助けてやらんのか。
やはり、風の羽虫は、飼い主がどうなろうと気にもならぬのかなぁ♪。
ほれほれ、どうじゃどうじゃ♪。」
見せ付けるようにドスドスと土を踏みつけるドレイクに精霊はどうすることもできず、
おろおろと辺りを漂うしかありませんでした。
「わっはっはっはっ、よい気味じゃ♪。」
すると、高らかに笑い声を上げる彼の足元の土から何かが飛び出して
きたではないですか。

(CMキャッチ)
サラくん、サラく~ん、サ~ラ~く~んっ。
ん?、ワイルドだろ~♪。

 土や細かい石を跳ね除け、中から土に汚れた華奢な腕が現れると、迷うことなく
ドレイクの足首を掴んだのです。
それは「まるでホラー映画さながらだった」と天使が当時の様子を語る時の
定型句となってしまったほどでした。
次いでもう一方の手が現れ、反対の足首を掴むと、さらに土の中から
ボコッと音を立ててテンちぇるの頭が現れたのです。
「ヒョッ!」
ドレイクを睨み付けるその顔は、彼をして驚きの声を上げさせるのに十分な迫力を
持ったものでした。
思わず後ずさりしようとしたドレイクでしたが、両の足を握られていては、
そのまま後ろに倒れていくしかありません。
ついでとばかりにテンちぇるが握った彼の足を掬い上げると、彼は文字通り
ゴロゴロと急な斜面を転げ落ちていったのです。
そして、ずりずりと土の上に這い出してきた彼女の姿に、皆どん引きです。
そんな皆の反応にはお構いなしに、彼女は土山の上に立ちあがると、
翼を一振りして汚れを払い落とし、さらに翼をはためかせ空高く飛び立ったのです。
「おっおのれ、一度ならず二度までもっ。
ワシをコケにした代償は高くつくぞっ。」
地面を掘り返すことでクッションとし、土山から落ちた衝撃は和らげはしたものの
二度までも引っくり返されるという屈辱に彼の理性はもはや手加減というものを
手放してしまったようでした。
彼の周囲に落ちている大小の石がビュンビュンと音を立てて飛んでいきますが、既に
高い空に舞い上がったテンちぇるには一個として届くものはありません。
「ええい、この卑怯者め、降りてきて正々堂々と戦えっ。」
叫び終わったドレイクに向かって、なにやら黒いものがかなりの勢いで
落ちてきたのです。
それに気づいた彼が、横っ飛びで避けると、直前までいた地面に手のひら大の石が
ガツンと大きな音とともに叩きつけられました。
「この出来損ないめが、当たったら怪我どころでは済まんぞっ、常識というものを
知らんのかっ!。」
空に向かって吼えましたが、どこにもテンちぇるはいません。
辺りをキョロキョロと探してみますと、
投石の届かない地面に降りた彼女が、新たな石を取ろうとしているところでした。
人の頭ほどの石を持ってはみたものの、とても飛べないと思ったのか
再び手のひらサイズの石を持って飛びあがったのです。
また石がテンちぇるめがけて飛んで来ましたが、どれも彼女に届く前に勢いを失い
虚しく落ちていきます。
「クソっ、正々堂々と戦うということを知らんのかっ。
降りてこい、この臆病者めがっ。」
ドレイクの罵倒に反応したわけではないでしょうが、テンちぇるの投げた石が
ドレイクに向かって飛んできました。
が、今度はヒョイと軽く避けられてしまいました。
「ガッハッハッハ、そうそう同じ手が通用すると・・・っ!」

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

彼が言い終わる前に、石に続けて落ちてきたテンちぇるの両足が、彼の顔面に
炸裂したのです。
ゴロゴロと縦回転で地面を転がったドレイクは、突っ伏したまま地面に倒れ伏し
動かなくなってしまいました。
そんな彼に向かって、再びテンちぇるが怒鳴り声を上げたのです。
「私の風の精霊さんに謝れっ、謝らないともっと酷い目に遭うわよっ。」
地面に伏したドレイクが、ゆっくりと顔だけを上げ、テンちぇるを見やると
ニヤリと嫌な笑いを浮かべたのです。
「空にさえおらねば、ワシに勝てぬことなぞあるものか。」
同時に、テンちぇるを取り囲むように、それこそ竹やぶのような密度で土の棒が伸び上がり、
次々と彼女を打ち据え始めたのです。
土でできているとはいえ、それは石となんら変わるところはありません。
手で頭を、翼で身体を庇う彼女をなんの手加減を加えることもなく、
何本もの棒が打ち据えていきます。
テンちぇるの白い羽根が辺りに舞い散り、彼女の悲鳴が、打ち据えられる音に
かき消されていきました。
ここにきてこれ以上の契約は無理と判断した先生達が二人の間に割り込み
それぞれの持つ精霊の数の力で男爵の力を封じこめ、ようやくテンちぇるへの
打擲を終わらせることに成功しました。
「ええい、離せ離せ、ワシは地の男爵ドレイク・ルフトぞっ。
あのような礼儀知らずな小娘、いますぐワシが引導を渡してくれるわっ。」
いまにも押さえ続けている精霊の集団を吹き飛ばすほどの勢いで怒声を
張り上げるドレイクに、フラフラとしつつも立ち上がったテンちぇるが
両足を踏ん張り、小さな身体を精一杯聳やかし吼えたのです。
「う・・・、う・・・、謝れ、私の風の精霊さんに謝れっ!」
これには割って入った先生達はおろかドレイク自身も声を失ってしまいました。
が、すぐに我に返ると
「まだ言うか、よいかワシの力をなめるなよっ。
地の精霊は、今後一切貴様との契約なぞ行ってやるものか。
このまま一生半端者として蔑まれて生きていくがよいわっ。」
先生がドレイクを宥めようとしましたが、彼は止める間もなくそのまま光の粒となり
消えていったのでした。
その場には、気まずい沈黙と、両手を硬く握り締め両足を踏ん張り、身体を震わせる
テンちぇると、彼女の胸にしがみつき、嗚咽を続ける精霊の声が
聞こえるだけでした。
先生が、声をかけようと彼女の肩に手を置こうとしたとき、緊張の糸が
切れたのでしょう、彼女は辺りを憚る事無く大声を上げて泣き始めたのです。
誰も声を出せない中、テンちぇると風の精霊の泣き声だけが辺りに響き続けました。
すると、別の風の精霊が彼女の傍に現れたのです。
その精霊は、悲しそうな表情で彼女に触れようとしては手を引っ込めるを
繰り返し、そんな精霊がいつの間にか何体も何体も現れ、彼女の周囲は
数え切れないほどの風の精霊で埋め尽くされていったのです。
精霊達に囲まれ、彼女の姿すら見えず、泣き声だけが聞こえていたのですが、
いきなり精霊達の一部が割れ、集団の端からテンちぇるまで一本の道が
開いたのです。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

その光景は、まさに太古の偉人が、海を割り開いた様でありました。
その道の端の更に先には、髪を高く結い上げ、豪奢なドレスに身を包み、扇で
口元を隠した貴婦人が立っていたのです。
真っ直ぐにテンちぇるを見る目は、三日月形となり、実に愉しそうに
彼女を見つめています。
その貴婦人がゆっくりと地面を滑り、前に進み始めると、道の左右に分かれた
風の精霊達の間に緊張が走るのが伝わってきました。
そんな中で、まだ生まれたばかりの精霊なのでしょう、テンちぇるの精霊より
さらに小さな精霊達がまるで「早く、早く」とでも言わんばかりに彼女の服の裾を
引っ張ったり、背中を押したりし始めましたではないですか。
緊張に顔を強張らせていた精霊達は、もはやムンクの叫び状態となっています。
「おい、あれ、ガラリア・・・、ガラリア・ニャムヒーじゃないのか・・・。」
「えっ、嘘、今度は風の侯爵(Marquess)っ!、
なんで爵位持ちが次から次へと出てくるの!」
「次は公爵(Duke)か王(King)でも出てくんのかよ・・・。」
周囲にいる天使達のざわめきなど歯牙にもかけず、彼女は真っ直ぐテンちぇるの許に
進んでいきます。
そして、彼女の前に悠然とした態度で立つと、手にしていた扇を音を立てて閉じ、
隠されていた口元を顕にしました。
それは想像していた通りに、優しく微笑みを浮かべ、しばらく彼女を愛しそうに
見やると、ゆっくりと身体を下げ、彼女と目線を合わせたのです。
何事が起こっているのかと、ポカンとガラリアを見るテンちぇるの頬に優しく
手を差し伸べると、涙と土に汚れた顔をそっと撫で、ついていた汚れを拭い取って
くれたのです。
そして更にその笑顔を深めると、静かに語り始めたのでした。
「先ずは貴方にお礼を言わせてくださいませ。
あの地の男爵を前に、さぞ恐ろしゅうございましたでしょう。
なのに、我らの幼き風と風の誇りを守ってくださいましたこと、とても嬉しゅう
ございます。
本来なら、私自身が今この場で、貴方との契約を結んで差し上げたい
ところなのですが、今の貴方にとって私の力はあまりにも強すぎます。
いつか、貴方が私の力を使える器となられました時には、何を差し置いても
貴方のために参じさせていただきましょう。」
さらに彼女はテンちぇるに顔を近づけると、囁くように言ったのです。
「私の力の及ぶ限りではございますが、
風はいつでも貴方の翼を支えましょう。
風はいつでも貴方の癒しとなりましょう。
そして、風はいつでも貴方のために吹きましょう。
貴方に風の祝福があらんことを。」
両手をテンちぇるの頬に添え、彼女の額に軽い口づけを与えると、ガラリアの姿は
空気に溶けるようにゆっくりと消えていったのでした。
その瞬間、固唾を呑んで様子を見ていた風の精霊達から、爆発さながらの歓声が湧き上がったのです。
ある者は、クルクルと回りながら空中を飛びまわり、ある者は仲間達と輪舞を踊り、
ある者はテンちぇるを称える歌を歌い上げ、まさにお祭り騒ぎを具現化した様が
そこかしこで繰り広げられていたのです。
そんな中、未だになにが起こったのか理解の範疇の外にいたテンちぇるの前に、
ドレスを着た精霊が進み出て、見事なカーテシーを行い消えていきました。
それを合図としたように、次々と精霊達が先を争って彼女の前に進み出てきたのです。
ある者は騎士のつもりなのでしょうか、小枝を胸の前で高く掲げ、ある者は
真っ白に塗りつぶした顔に満面の笑みを浮かべ、両手をお腹と背中に回し
仰々しく腰を折って、消えていきました。
そんな精霊がいったいどのぐらいやって来たことでございましょう。
気がつけば、最後の一体となった精霊が、手を振りながら消えていくところでした。
未だに事態が飲み込めていないテンちぇるの胸にしがみ付いていた精霊が
もぞもぞと動いています。
それに気がついた彼女が胸元を見やると、そこには唯一 彼女の呼びかけに
応えてくれた風の精霊が、太陽のように輝く笑顔で見上げていたのです。
そして、ちょっと舌足らずな口調で自分の気持ちを伝えたのです。
「だいすき、てんちぇるが だいすき。」
そしてニコニコした笑顔のまま消えていったのでした。

 後日、一部の粘着質な・・・、コホン、熱き魂の迸りを持つ天使達によって
テンちぇるの契約数が算出されました。
ただガラリアの扱いをどうみるかで「契約した派」と「契約してない派」に別れ
それぞれの精霊達をも巻き込んで凄絶なバトルが繰り広げられた結果
「仮契約」ということで、それぞれの代表の握手を持って解決とされたことを
補則とさせていただきます。
その折の貴重なデータは次の通りとなります。

風の侯爵(1体)、ガラリア・ニャムヒー(仮契約)
風の上級精霊(3体)
風の下級精霊(1427体)
「祝! 一回の精霊契約数、学校記録更新♪。」

◎テンちぇるちゃん プロフィール(テンちぇるちゃんに突撃編)
Q: 年齢は?
A:17歳ぐらいですけど、天使の年齢なんてわかりません。
 だいたい女の子に年齢を尋ねるなんて非常識だと思いませんか。
Q: 頭の上に光っているのはなんですか?
A: 俗にいう天使の輪っていうものです。
光だけの存在ですので、蛍光灯のような実体はありませんし、夏の夜に外出しても
虫に集られることもないです。
Q: スリーサイズはどのぐらいですか?。
A: 死にたいのですね。
Q: 天使のお友達はいますか?。
A: キョウちゃんとミヤコちゃんの二人が親友です。
キョウちゃんは、ウイーンに、ミヤコちゃんは・・・、ミヤコちゃんは・・・、
バルキリア隊に、いっきっまっしったっ・・・。
Q: ありがとうございました。
A: どういたしまして♪。

☆知らなくても困らないおまけの設定。裏話
精霊の爵位とは?
英国貴族のようなものではなく、あくまでも精霊自身の持つ力に対して
爵位が与えられています。
ですから、王と呼ばれる者が同じ属性の精霊の中に数体いたりします。
以下の八つの爵位があります。
王(King)、
公爵(Duke)、
侯爵(Marquess)、
伯爵(Earl)、
子爵(Viscount)、
男爵(Baron)、
准男爵(Baronet)、
士爵(Knight)

さらにその下に、上級精霊、下級精霊がいます。
姓名を持つのは男爵以上で、准男爵(Baronet)、士爵(Knight)は名のみとなります。
上級・下級精霊には名前がありませんので、それぞれの属性で呼ばれます。
火の精霊なら「サラマンダー」、風の精霊なら「シルフ」などなどですが、天使によって
呼び方が少し違っていたりもいたします。
「風の精霊さん」などなど。
普通に契約を結べるのは、上級精霊までですが、上級精霊と下級精霊の間には
かなりの力の差があります。
それぞれと契約を結べるかというのは、天使の持つ力と運に左右されます。
授業とはいえ、男爵を呼び出せてしまったテンちぇるちゃんに大天使が
眼鏡キラリンはそういうことだったりいたします:笑:。

などと書いてみましたが、多分爵位持ちの精霊とかが出てくるのって、
このお話だけなような気がいたします:笑:。
でも、こういう設定って考えているだけで一日過ごせたりしますのね♪。

(2020.07 by HI)

◆◆◆

一気に読ませていただいた物語、あまりに壮大なスペクタクルに、
思わずHiちゃんの許可を得ず映画化しちゃいました(笑)
おまけのメイキング裏話までとっても楽しくて、
全国の子どもたちと、昔子どもだった全てのかたにこの夏イチオシしたいです。
見えないかたにもあえて「観てほしい」と勧めたいくらい
ひとつひとつのシーンが、アングルも鮮やかに目に浮かびました。
どのシーンも好きだけど、とくに私のお気に入りは
小さな風の精霊さんが最後に消えていくときの描写です。
今回、テンちぇるちゃんと風の精霊さんがとっても仲良しなわけがよくわかりました。

涙にはいろんな涙があるけど
土で汚れた頬にとめどなくあふれる涙が
とても綺麗で心打たれました。
わたしも てんちぇるちゃんが だいすき!

それにしても、絶妙なCMキャッチにさりげなく誰か潜んでいたり
親友のおふたりの名前がどこかで聞いたことあったり・・。

オンラインが急速に普及する今、改めてリアルの良さが言われたりもするけれど
バーチャルの世界の奥に広がるリアルも認められたら
もっと自由にも、もっと優しくもなれる気がします。

HIちゃん、ありがとうございます。


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