天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

悪霊さんだょ テンちぇるちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ〜ん」「テンちぇるちゃぁ〜ん」

「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」

 風も冷たく雪混じりの空をフィヨフィヨと飛んでいるのは、やっぱり
テンちぇるちゃんです。
遠くの山々は白く雪に彩られ、美しくもありますが、文字通り寒々とした
風景を作り出しています。
そんな凍てつく風の中でも、彼女は白い衣一枚のまま平気な顔で飛んでいるのです。
「なぜ?」ですって、それは簡単、彼女が天使だからです。
そんな彼女が目に留めたのは、仰々しい衣装を身に纏い、家の門の前でなにやら
奇声を上げているおじさんでした。
「何をしているのかな?」と興味を引かれた彼女が屋根に舞い降り、しげしげと
眺めていると、先頭で奇声を発し続けているおじさんがいきなり、数珠というのでしょうか、
丸い珠を連ねたリングを握った手をテンちぇるちゃんに向けて
「うむむむむむぅ、あそこに悪霊がおる、大きく裂けた口を開けて、我らを
 威嚇しておるわっ。
 されど安心なされ、私の祈りの内にある限り、あ奴らは我らには手を出す事
 叶わぬのじゃぁ〜っ!」
いきなりの悪霊呼ばわりに、彼女は「むぅっ」と唇を尖らせてはみたものの、
どうも彼の視線は彼女ではなく、その屋根の下に向いているようです。
下に何かいるのかと、屋根の端から頭を突き出して見てみても、二階の窓があるだけで、
悪霊らしき者は見当たりません。
なにより、この辺りにその類の気配など何も感じはしないのです。
「なんなのだろう?」と再び家の前にいるおじさんに目を戻すと、彼はさらに
声量を上げ、
「怨敵退散、怨霊退散、悪霊退散っ、キェエエエェェェェ〜っ!」
と百面相さながらに顔を歪ませ、辺りを震わせる気合いを放ったのでした。
屋根から降りて、目の前まで近づき、その百面相を楽しんでいた
テンちぇるちゃんは、その気合いと言いますか、大声を間近で聞いてしまったため、
驚きと鼓膜を駆け抜けていった大声に思わず仰け反りながら、キーンと
残響に震える耳を押さえ、フラフラと後ろに下がってしまいました。
天使に声だけで衝撃を与えるとは、このおじさん、ひょっとしてかなりの力の
持ち主ではないかと思ってしまいましたが、どうもテンちぇるちゃんの存在には
気が付いていないようですし、単なる声の大きなおじさんというだけのようです。
ともかくもテンちぇるちゃんを怯ませたおじさんは、その煌びやかで長く伸びた袖をヒラリと振ると
「さぁ、これで家の中に入っても大丈夫でございますぞ、皆様を困らせておった
 悪霊は私の法力でその力を封じました。
 が、ここはすでに奴の住処も同じ状態となっております、何が起こっても
 不思議ではありませぬので、私から離れぬようお願いしますぞ。
 なに、離れ過ぎなければ、私の法力を突破することは悪霊にはできぬので
 安心してついてきなされ。
 もしどうしても心配だと言われるのであれば、今回に限り、特別料金で
 私の特製退魔札をお譲りいたしましょう。
 これを持っておれば、いかなる悪霊と言えど、近づいてはこれませぬ、
 わっはっはっはっ。」
テンちぇるちゃんが彼らの行動を見ていますと、ふいに彼女の肩を叩く者がいました。
見るとそこには雪女の小雪さんが立っていたのです。
「あら、テンちぇるはん、こんな所で何をしてはるん。」
「あっ、小雪さん、こんにちは、いえ大した事はないのですけど、
 なんか不思議な事をされている人がおられたので、見ていたんですよ。」
なんやのん?と小雪さんがひょいと顔を覗かせますと、今しも門に
入ろうかというところで再び奇声を発し、なにやら盛んに手を動かしている
おじさんと、後ろからついていく三人は、札をしっかりと握り締めていますので、
先ほどのお札は何枚か売れたようです。
「なんやのんアレ、今時ちんどん屋さんおすかへ。
 それにしては家の中に入らはるんも変おすなぁ。」
と呟く彼女の後ろから、ひょこ、ひょこ、ひょこと赤鬼、青鬼、黒鬼の
大きな顔が現れました。
手にはなにやら大荷物(注1)を持ってはいますが、なにせ彼ら自体が
大きいですから、そんな荷物も手荷物程度に見えてしまいます。
「あっ、うちら買い物の帰りおす。
 結構な買い物やったし、鬼はんに荷物持ちをお願いしたんおす。」
テンちぇるちゃんに気が付いた鬼がガウガウと声を上げ、片手を順番に
上げてくれました。
なんか、赤、青、黒が並んで手を挙げている光景は、見た目とは裏腹に
可愛らしさを覚えてしまいます。
テンちぇるちゃんも手を挙げて、パンパンパンッと鬼さんの手にハイタッチしていきました。
「あっ、家の中に入っていかはるへ。」
そんな事をしている間に、例の集団は、ぞろぞろと家の中に入って行ったようです。
「面白そう」とテンチェルちゃんと小雪さん、鬼のトリオも一緒に中に入って
行ったのでした。

(CMキャッチ)

「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ〜ん」「テンちぇるちゃぁ〜ん」
「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」

 中では、あの彩り鮮やかなおじさんが、相変わらず
「悪霊退散」や「ムムムっ、きえぇぇぇぇぇええぇええぇぇぇっ!」と奇声を発して
あちらこちらに拳を向けたり、これまたなにやら派手な袋から出した物を周囲に
投げつけたりしています。
鬼のトリオが試しに指に付けて舐めてみますと、それはただの食塩だったようで
「うへぇ」と顔を顰めています。
「ああ、これはアレやねぇ、この家に悪霊がいるとかいないとか言うて、退魔行を
したはるんやねぇ。」
「ああ、それで。
 私、なぜか悪霊とかって言われましたよ。
 変な物は、この辺りにはいないと思うのですけど。」
小雪さんが、呆れたように言いました。
「そら、あのお人には、なぁんにも見えておへんやろうしねぇ。
 唱えたはる言葉も適当やし、粗塩やったらまだしも食塩を撒かはってもねぇ。」
小雪さんが、苦笑している傍で、鬼達が面白がって、おじさんの投げる塩の塊を
叩き落して遊んでいます。
そうこうしていますと、おじさんが額の汗を拭いながら
「この部屋の悪霊はなんとか払いましたが、この奥の部屋、そして二階の部屋は
 恐ろしい事になっておりますぞ。」
後ろから付いてきていた三人が、その通りとばかりに訴え始めました。
三人の手には、先ほどのお札がしっかりと握りしめられています。
「そうなんです、誰も居ない二階から足音が響いてきたり、どこからか子供の笑い声が
 聞こえてきたり、夜中に目が覚めると子供が顔を覗き込んでいたりと、
 恐ろしい事が毎日のように起こっているんです。」
母親らしき女性が、泣き崩れました。
「どうか、どうか、このようなオバケ屋敷となってしまった我が家を
 お救いください。」
すがりつくような声を出しながら、三人目の高校生ぐらいかと思われる男の子が
こう言いました。
「ちくしょう、きっとあいつらがなんか呪いをかけていやがるに違いない。
 ちょっとパシリに使ってやったり、俺に献金させただけなのに、そんな事で
 呪っていやがるんだ。」
「なんだお前、そんな事をしていたのか。
 いじめは目立たないようにやれって言っただろうがっ。」
「そうよそうよ、きっと近所の奴らが私達の生活に嫉妬して、
 なにか呪いをかけてるのよっ!」
「そうだ、自分の頭が悪いせいで俺に騙されたことを根に持って恨んでいやがるに違いないんだっ。」
三人が、奇声のおじさんにすがりつきました。
「どうぞ、善良な私達をお救いください。
 この家の悪霊を追い払ってくださいっ。」
頼られている事に、おじさんは鼻高々なようです。
「もちろんじゃ、どんな悪霊だろうと、鬼だろうと、このワシが
 立ちどころに打ち払ってみせましょうぞ、わっはっはっはっはっ」
おじさんの高笑いとともに、場の空気が凍てつきました。
テンちぇるちゃんの肌にさえ、粟が立っています。
彼女がゆっくりと、振り向くと、つい今まで陽気に遊んでいた鬼のトリオが
高笑いを続けているおじさんに、細めた目を据えているのです。
「ガウ・・・。」
赤鬼が低い唸り声を出しますと、
小雪さんは、仕方がないといった表情で
「まぁ、ええんとちゃいます。
 けどテンちぇるはんが居てはるんやし、殺すのはあきまへんえ。」
ちらと赤鬼がテンちぇるちゃんを見て、
「ガウ」
と頷きました。
その顔はちょっと嬉しそうに見えたのでした。
「あの、私、人を導くのがお仕事なんで、人に何かをなさるのはちょっと・・・。」
困り顔の彼女に、小雪さんは言いました。
「それはわかっておすけど、鬼はん達にも譲れない線がありんす。
 うちの和尚が言わはるんやったら、尻尾を巻いて逃げると言われおしても
 誰も何もいいまへんけど、あの程度の者に軽んじられて放っておくんは
 鬼はん達の沽券に関わるんおす。
 そやから、ここは見逃したってもらわれへんやろか。
 驚かすんと、ちょっと祟るだけおす。
 殺すような事は、しおしまへん。」
う〜んと微妙な顔をしたテンちぇるちゃんも「あの三人もなんか悪いことを
しているみたいだし、とりあえずやり過ぎる時には止めればいいかな」と、
今回は見て見ないフリをする事にしたようです。
おじさんと家族の三人も、さすがに周囲の雰囲気が変わった事に気が付いたようです。
「むむむ、悪霊が最後のあがきにと、力を振り絞りおったわ。
 皆様、私の傍を離れませぬようお気をつけ下され。
 怨敵退散、怨霊退散、悪霊退散っ、キェエエエェェェェ〜っ!」
汗を飛び散らせ、数珠を握り締め、大声で奇声を発する姿はなかなか胴に入った
ものでしたが、その周囲を悠々と歩く鬼達には、なんらの痛痒さえ感じさせては
いないようでした。
鬼のトリオが配置についたところで、先ず赤鬼が必至に奇声を上げているおじさんを、
張り手一発、軽々とふっ飛ばしました。
それに驚いた三人が外に出ようと扉に向かったところで、青鬼がバタンと
大きな音を立てて扉を閉めたのです。
「開けてくれ〜っ!」
三人が声を限りに叫びながら叩こうが、押そうが、扉はびくともしなくなりました。
そして、黒鬼が男の子の脇から手を入れ高く持ち上げると、赤鬼、青鬼も
それぞれの家族の脇から手を入れ、笑いながら高く持ち上げたり、降ろしたりを
繰り返し始めたのでした。
三人家族にとって、不気味な笑い声とともに、いきなり自分達が空中に
浮かびあがった恐怖は、実に耐え難いものだったでありましょう。
この世のものとは思えない三人の絶叫に、赤鬼に吹っ飛ばされ、気を失っていた
おじさんも、目を覚まし、家族の光景を見て、腰を抜かしたのです。
「なっなっなっ・・・!」と三人を指差しながら泡を吹き、再び倒れてしまいました。
「お三方には鬼はんでよろしおすけど、あの祈祷師まがいのおじはんはどうしまひょ。」
ちょっと思案顔の小雪さんは、ついと上を見つめると
「狐はんか蛇はんが近くにいやはったら、すいまへんけど、ちょっと来ておくんなまし。」
と呼びかけました。
ややもいたしますと、黄金の毛並みをもった狐が空中から現れたのです。
が、それは普通の狐ではなく、大きな尻尾が九つに分かれた、俗に言う
九尾の狐(注2)だったのです。
その尻尾の数を認識した瞬間、今度は小雪さんの意識が飛んだのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ〜ん」「テンちぇるちゃぁ〜ん」
「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」

 倒れた小雪さんは、テンちぇるちゃんにガクガクと揺らされて目を覚ましました。
彼女を揺らしていたテンちぇるちゃんの腕には、さらに数を増やした粟が
立ってしまっています。
「小雪さん、小雪さんっ、あの、あの、あのお狐さんはどなたなのでしょうっ。
 なんか、なんか、ものすごい圧力を感じるんですけどぉ〜っ!。」
彼女には珍しく涙目になっています。
そして、小雪さんが目覚めるのを待っていたかのように、ドスンと大きく家が揺れました。
陽光が遮られた窓に目が行きますと、そこからは鱗に覆われた太い胴体の一部が
滑らかに動いているのが見え、続いて巨大な蛇の頭が次々と家の中を
覗いていくのでありました。
その数8回。
最後に見えた頭には、並んだツノといいますか、トサカといいますかが、まるで
冠のようにも見えたのでした。
それは、8匹の大蛇ではなく、一つの胴体に八つの頭を持つ、
八岐大蛇(やまたのおろち)(注3)だったのです。
テンちぇるちゃんは、小雪さんの両肩を握り締めたまま固まり、小雪さんは、
「う〜ん・・・」と、再び意識を飛ばされてしまったのでした。
「小雪さんっ、小雪さんっ、アレなにっ、アレなにっ、ドラゴンっ、ヒドラっ。
 ねえ起きてよっ起きてったらっ!、起きてくれないと、ものすごい事(注4)
 しちゃいますからねっ!、いいんですか、本当にしちゃいますからねっ!。」
涙目のテンちぇるちゃんに、首がもげそうなほどガクガクと揺すぶられ
再び意識を取り戻した小雪さんは、間髪を入れず叫んでしまいました。
「なんでっ、なんでっ、こんな超が付く大妖ばっかり やって来んのよぉぉ〜!。
 ちくしょぉおぉおおぉぉぉおぉぉぉぉ〜〜っ!」
小雪さん、地が出てしまっていますよ。
ガバッと起き上がった彼女はスライディングしそうな勢いで正座をし、
額が床にめり込むのではないかというぐらい頭を下げました。
「こっこんな所にお呼びたていたしましたこと、ひらにひらにご容赦ください。
 あの、用件と申しますか、御用と申しますかは、そこに転がっている者に
 取り憑いて頂けないかと、浅はかにも願ってしまいました次第なのでございます。
 で、 できますれば、こちらに欧州からこられましたお使い様がおられます事も
 ありますので、殺してしまう事は避けて頂ければ幸いと申しましょうか、
 幸せと申しましょうか、お願いいたしたいのでありんす。」
小雪さん、かなりテンパっておられますようです。
既に鬼のトリオは三人を放り出し、背中を向けて震えています。
彼女が意識を取り戻すまで、大人しく毛繕いなどしていた九尾の狐は、
不快そうに眉間にシワを寄せ、牙を剥き低く唸りはしたものの、小雪さんを見、
テンちぇるちゃんを上から下まで舐めるように見ると、舌打ちでもしそうな
様子ではありましたが、不承不承と頷いてくれたのでした。
さらに、序でとばかりに窓に顔を向け
「コ〜ンッ!」
と一鳴きすると、爬虫類独特の全く表情を表さない目で窓から覗いていた
八岐大蛇も、チラッと九尾の狐を見てコクリと頷いてくれました。
そして、そのまま影を薄れさせると、泡を吹いてピクピクと手足を痙攣させている
奇声のおじさんに取り憑いたのでした。
静寂の時間が過ぎた後、小雪さん、テンちぇるちゃん、鬼のトリオが大きく息を吐き出しました。
「こっ怖かった〜、殺されるかと思ったのでありんすぅ・・・。」
彼女と抱き合ったまま、その呟きに、涙目のテンちぇるちゃんもコクコクと
頷いていますし、鬼のトリオは、お互いに手を硬く握り合ったまま、未だに
震えが止まらないようです。
「あの、それにしても、あんな凄いのに取り憑かれて、あのおじさんは
 大丈夫なのでしょうか。」
今も泡を吹いて、時折ピクピクと手足を動かしているおじさんを見て、
小雪さんが言いました。
「そやねぇ、まぁ、約束しおしたさかい、殺される事はあらへんと思いおす。
 逆に、あんな大妖を2妖も憑けたはるんおすし、退魔行をしやはったら、大概の
 悪霊や妖は尻に帆かけて逃げ出すんちゃいますやろか。
 まぁ、そんな事したはる余裕はあらへんやろうけどねぇ。」
奇声のおじさんに、哀れみの視線を送った小雪さんとテンちぇるちゃんでしたが、
そのとき、二階で物が撥ねる音と、子供が走るような軽い足音が聞こえてきたのでした。
二人で天井を見上げ、
「二階に、どなたはんか居てはるんやろか?」
「あっ、私が見てきましょうか?。」
ちらっと、倒れたままの4人と、未だに震えている鬼のトリオを見やった小雪さんは
「ふぅ〜」と溜息を吐き出し、
「ほな、お願いできおすか。
 うちはこのお人らと、鬼はんを片付けていきおすし。」
そう言うとずんずんと鬼達に近づき、よい音を響かせてその頭を叩きました。
「ほら、いつまで震えておすの、鬼の名が泣きおすえ。」
こちらは小雪さんに任せ、テンちぇるちゃんは見つけた階段を上っていきました。
その先にあった部屋を覗くと、中には綺麗な着物を着たおかっぱ頭の子供が、
これまた綺麗な糸を巻いて美しい模様が描かれたボールを持って佇んでいたのでした。
その子は、テンちぇるちゃんを見つけると、不思議そうに小首を傾げた後、
手に持っていたボールを、コロコロと彼女に向けて転がしたのです。
なんとはなしにそれを受け取って子供に転がし返してあげると、
その子は「ニパッ」と笑顔を浮かべ、ボールを取ろうとして後ろに逃がして
しまいましたが、それを追いかける後ろ姿も、どこか嬉しそうに見えました。
そして追いつくとまたテンちぇるちゃんに転がしてきたのです。
それを彼女が受け取り、その子に転がしてあげるというのを繰り返しました。
これのどこが面白かったのか、やがて子供は「キャッキャッ♪」と笑い声を立てはじめ、
ボールを追いかけながらとても楽しそうに走っていました。
下の片付けが終わったのか、階段から小雪さんが顔を出しました。
「なにしておしやすの。
 あら、その子、座敷童(ざしきわらし)(注5)おすなぁ。」
「座敷童?。」
テンちぇるちゃんは初めて聞く名前でしたので、尋ねてみますと、
「うちらと同じ妖おすけど、その子が居る家に幸運をもたらす妖おす。
 まぁ、ある種の神様かもしれまへんけど。
 あぁ、あの人らが言うたっハッた子供って、座敷童のことでおしたんか。
 ようあんなお人らの家に居てはりおしたなぁ。」
座敷童が、今度は小雪さんに向けてボールを転がしますと、彼女は指でつついて
それを転がし返してあげました。
座敷童が、また「ニパッ♪」と笑顔を深め、ボールを追いかけていきます。
「座敷童は、ちゃんと祀ってあげて、遊んであげおしたらいつまでも
 その家に居てくれはるんやけど、あの人らのことやし、悪霊扱いして、
 そのうちに追い出してしまわはるんやろなぁ。
 知らへんって、怖いことやねぇ。」
しみじみと言った小雪さんはボールを追いかけている座敷童の元にいくと、
「座敷童はん、こんなおうちに居てはっても、遊んでくれはる人もおらへんし、
 そのうちに出て行くことになりおすへ。
 どやろ、うちらのお寺やったら、遊んでくれはる妖も一杯いてはるし、
 うちに来やはりおへん。」
小雪さんの言葉に、不思議そうに小首を傾げていた座敷童は、
一度テンちぇるちゃんを見て、小雪さんを見上げると「ニパっ」と笑顔となって、
彼女の手を握ったのでありました。
「来やはりおす、嬉しいわぁ。
 まぁ、これでこの家も大変になりおすけど、自分らで撒いた種おすし、
 自業自得やと思うて諦めてもらいまひょ。」
 あっ、テンチェルはん、申し訳ありまへんけど、この子、お寺に連れて行って
 もらえまへん。
 うち、荷物を持って帰ったあと、この家の人らに鬼はん憑けに戻ってきおすし。」
幸運の座敷童がいなくなって、鬼に取り付かれるこの家の人も、これから大変ですねと思いつつ
座敷童を抱き、空を飛んでお寺に向かったテンちぇるちゃんでした。
 ちなみにこの後、彼女を見つける度に座敷童に空を飛ぶ事を
せがまれるようになったと言いますのは、また別のお話です。

◎注釈
注1、大荷物 : どうやら節分では、そこそこのお布施を得る事に成功したようです。
注2、九尾の狐 : 長い年月を経た狐は、その年月や経験によって尻尾の数が
増えていきます。
特に9本の尻尾を得た狐は桁外れの妖魔の力を得ており、その災は国レベルに
及ぶと言われています。
中国の古文書「山海経」に書かれているものが、最も古い記録とされており、
その後には、天より遣わされた聖獣とされていましたが、南北朝の時代頃から
妖怪とされるようになりました。
有名な九尾の狐には、インドから中国にかけての王朝を次々と滅ぼし、
極東の島国の帝に取り付いた時に、正体を見抜かれ、姿を石(殺生石)に
変えたものが挙げられます。
漫画「うしおととら(藤田 和日郎 原作/画)」の「白面のもの」がこの九尾の狐を元に
描かれていました。
注3、八岐大蛇(やまたのおろち) : 極東の島国最大の妖魔と言われ、
only one の妖であるため、同種のものは確認されていません。
西欧のヒドラと形態が似てはいますが、そのサイズ、能力が全くと言ってよいほど
違っていますので、現在では完全に別種のものと考えられています。
九尾の狐と同じように、その災は国レベルに影響を及ぼすとされており、
その厄を受けぬよう、特別な一族によって、厳密な祭祀が行われていると
言われています。
注4、ものすごい事 : そんな事、恥ずかしくてかけませんっ!。
注5、座敷童(ざしきわらし) : 幼児の姿をした妖の一種。
妖ではありますが、憑いた家には幸運を引き寄せて、家の繁栄を齎してくれます。
ただ、ちゃんと祀って、座敷童が満足してくれるよう遊んであげないと、
知らぬうちにいなくなってしまい、その場合、引き寄せた幸運の分だけ不幸を
招き寄せてしまう結果となります。
現在でも、本島の東北方面にある旅館には、座敷童が居るという噂があります。

◎知らなくても困らない設定
 九尾の狐、八岐大蛇などと大妖には数字の付いたものがいますが、元々数字とは
1〜9が数字と呼ばれるものであり、その数字に人や動物を当てはめていました。
「6」なら獣を示し、「7」は人間、「8」は人智を超えたものとしての、魔物や
精霊などを示し、天使もこのグループに入るのではないかと思います
(1〜5も、爬虫類や鳥などが当てられています。
そして「9」は最も大きな数字と言う事で、完成された数字と考えられましたので、
神を示す数字となったのです。
ただ、国によって考えの違いがありますので、西欧の魔物のヒドラの首が
9本ありましたり、最も神に近い天使であったルシフェルの翼が7枚だったなどは、
また別の意味があるのかも知れません。
ですから、妖とされる九尾の狐の尻尾が九本となっていますのは、元来は聖獣と
されていました事や、もともと外国からやって来た外来種であったためでは
ないかと推測されます。
「9」以上のものは何かと言いますと、それ以上のものは位に数字を組み合わせた
ものとなります。
例えば「135」と言う数があった場合
「一つ目の百の位の3つ目の十の位の5番目の数字」
といった感じになります。
ですから、東洋の島国には64もの位(少数点以下の位は除く)が設定されて
いるのです。
ちなみに有名な「無限」が、最後(最も上の位)から2番目の位となっていると
思っておられる方がおられますが、これは「無料」と「無限」を勘違いされて
いるものと思われます。
(かく言う筆者も、ずっと「無限」だと思っていました:笑:)
これらが、インド人によって「0」が発明(発見)されたため、位を使わなくても
全てを数字として表示できるようになりましたので、数字がそれこそ無限に増殖する
事となったのです。
インド人にビックリです!.
そんなインド人もビックリするのは「メタルインドカレー」ですね。

第11話 お・し・ま・い・♪
(2021.2 by HI)

◆ ◆ ◆

時の流れ 地球の回転
その 目には見えないものが
目の前でゆったりとたゆたっていた・・

「悪霊さんだょ テンちぇるちゃん♪」を読んで唐突に蘇ったのは、なぜか
巨大な「フーコーの振り子」でした。
それは私が高校生の時、4階建ての新校舎の吹き抜けの天井から吊り下げられていました。
科学的根拠に基づき可視化された真実のリズム。
日々生きている現実とは接点のない、遠くかけ離れたもののようにも、
無関係に思えるすべての現実がここにつながっているようにも見えました。 目に見えるものと見えないもの。
真実と現実。
リアルとフィクション。
何が本当で、何が大切なんだろう・・。

テンちぇるちゃんのストーリーは、雪女さんや鬼さんが出てくるので、とか
そもそもテンちぇるちゃんが天使だし、などと言うまでもなくフィクションです。
ですが、一つの出来事を一方向からのみ伝える現実のニュースより、
リアル以上のリアルがここにある、いつもそう感じます。
観客の立場で舞台裏も見える私たちからは、インチキ霊媒師さんとジコチューな家族が
真実を見誤るお話に見えますが、目線をこの家族の立場に置いてみると物語は一変、
「理不尽な出来事に苦しめられる善良でかわいそうな主人公をめぐる悲劇の物語」と、
まるで違った時空がそこに広がることでしょう。
何が善で、何が悪だろう・・。
いくつもの歪んだ時空が並行する、それはまさに現実そのもののような気がします。
そして、歪み、ねじれながらも静かに一定のリズムを刻み続ける、それもまた現実・・。
奥行きの深いオマケの設定や含蓄に富んだあとがきからも思いは千々に広がりますが、
収拾がつかなくなるのでこのぐらいにしておきます。
思いもよらず30年も昔の、催眠術の五円玉のような記憶にリンクした物語、
今後はどっちに飛んでいくんでしょうか。もしかしたらメタルインドカレーかも?
乞うご期待です!

というか、時空をねじねじにしているのは私かもしれません。
いつもこんなよくわからない感想をつけてしまう私をあたたかくお許しくださり
楽しいお話を書き続けてくださるHIちゃん、本当にありがとうございます。


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