天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

番外編第4話

節分だょ 小雪さん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ〜ん」「テンちぇるちゃぁ〜ん」

「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」


「よろしおすか、今日のお布施をどんだけ貰えおすかが、お寺の財政と
うちらのご飯の量と品揃えを変えおすんへ。
そやさかい、気張っていかへんとあきまへんへ。」
小雪さんの掛け声に、鬼(注1)のトリオが拳を上げて咆哮しました。
その声は、辺りで吼え声をたてていた子犬を「キャイン」と黙らせ、
千鳥足だった酔っ払いの意識を覚醒させるに十分な迫力を持ったものでした。
今夜は節分、鬼が一年で最も輝くことができる夜なのです。
とある家のまえ。
袂から大福帳を取り出し、住所と名前を確認すると
手に持っていた厚紙製の鬼のお面を着け、インターホンを押します。
「ハーイ」と家人の声と共に開けられたドアから顔を入れ、
「お晩おす、鬼おすへ、ガオ〜。」
両手を挙げて鬼のポーズを取る小雪さんに
「あらあら、可愛らしい鬼さんだこと、じゃぁ、お願いしますね。」
ころころと笑いながら、家の奥にいるのでしょう、子供に声をかけています。
気だるそうに返事をしながらやってきたのは、
中学生ぐらいの、髪を染め、ピアスにバッチリメイクの女の子でした。
「あのさぁ、私 今から遊びに行くし、用があるんやったら
 さっさと終わらせてくんない。」
と言いながら、玄関に立っている鬼のお面を被った小雪さんを胡乱げな目で
見ています。
「ほら、お昼に言っておいたでしょ、節分やから、鬼さんに来てもらったの。」
「節分って、鬼って、その人が鬼なの・・・。」
ますます訝しさを増しているのでしょう、声に「なにコイツ・・・。」と言う気持ちを
隠そうともしていません。
「ガオ〜、鬼おすへ〜。」
小雪さんが、再び両手を挙げて鬼をアピールしていますが、なんと申しましょうか
着物を着た女の人が、鬼のお面(厚紙製)を被って「ガオ〜」とか言っている
だけですので、確かにそれでどうしろと思うのも仕方がない事でしょう。
それでもお母さんは面白そうに女の子を見て
「ほら、ちゃんと節分のお豆を使わないと、大変な事になるよ。」
今にも笑い出しそうな声色に、女の子は「むっ」としたようで、
「ほら、これでいいんでしょ。」
と小袋に入った煎り豆をポイっと小雪さんの足下に投げてよこしたのです。
小雪さんは、それを拾うと、
「鬼はん達、出番おすへ。」
と扉の外に小さく声をかけたのでした。

(CMキャッチ)
「テンチェルちゃん」「テンチェルちゃ〜ん」「テンチェルちゃぁ〜ん」
「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」

半ば開いていた扉の外の闇がぞろりと動き、その闇から抜け出してきたように
巨大な顔が現れましたのです。
短いうねった髪、そこからニョッキリと生えた二本のツノ。
隣にいる小雪さんの上半身ぐらいはありそうな顔と、人の頭ぐらい楽々と
飲み込んでしまいそうな口、そこから唇を割って上下にはみ出す太く鋭い
牙、牙、牙。
見ただけで常人にはあり得ない力を搾り出す出あろう膨れ上がった筋肉を纏った身体と、
腰に巻かれた虎柄の腰布。
そして、熱気を発しているのではと錯覚を覚えてしまう、あまりにも紅い色の姿は
まさに絵本から飛び出してきた赤鬼そのものだったのです。
ただ、それは子供向けに書かれたユーモラスさを秘めたものではなく
どこまでもリアルで、作り物めいた様子は僅かにも見つけることのできないものでした。
見上げるような、もう天上に頭が、いえ、ツノが届いてしまっている鬼の巨体が
目の前に現れたのです。
玄関から入ってきたのは一体だけでしたが、外にはまだ同じような大きさで、
青色、黒色の鬼がいるのが見て取れました。
紅いそいつは、血走った、巨大と言ってよい目玉をギョロギョロと動かし、
家の中を見回すと、それだけで家が潰されてしまいそうな咆哮を発したのです。
ガラス、いえそれどころか壁、床と言わず、家中がビリビリと振動しています。
「ヒィ〜ッ」
思わず頭を抱え、その場にぺたんと座り込んでしまったからといって
誰が笑う事ができたでしょう。
恐る恐ると、頭を抱えた腕を解き、顔を上げますと、座り込んでしまった分だけ、
巨大感を増した赤鬼が圧力を伴った視線で女の子を見下ろしていたのでした。
大きく目を見開いた彼女の頭の上から、再び雄叫びと間違えそうな大声が
降ってきたのです。
「この家は悪い家か〜っ、それとも良い家か〜っ!。
 悪い家なら、ワシら鬼が棲んでやろうっ!。
 どうじゃ、この家は悪い家か〜、良い家か〜っ!。」
その迫力に、座り込み、目を見開いた彼女は、
「あわわわわ」と言葉にもならない声を出すだけで、
涙を流す事さえ忘れてしまっているようでした。
「ほらほら、恵ちゃん、早く煎り豆、煎り豆を渡さないと。
 ほら早く早く。」
お母さんが笑いを押し殺した声で小袋を渡すよう言っていますが、
その声は届いていないようです。
身振り手振りで何度も伝えるお母さんにようやくと気づいた彼女が、
ぎこちなく震える手で、
「こっこっこっこっこれっ節分のおおお豆さささささんでででです。」
なんとか袋を差し出しますと、赤鬼はその大きな手の指先に伸びている、包丁を
磨き上げたかのような爪の先でつまみ、器用に袋をあけて豆を自分の口に
放り込んだのでした。
ボリボリと、骨でも噛み砕いているような音を立て、豆を飲み込むと
「むむぅ、これは良い豆じゃ〜っ!。
 こんな豆がある家は良い家に違いない、残念じゃ〜、残念じゃ〜、
 これではこの家に棲むことはできねぇ〜っ!。
 残念じゃぁ、残念じゃぁっ。」
恵と呼ばれた女の子は、どうやらこの鬼は、渡した豆が気に入ったのか、
このまま帰ってくれそうな雰囲気に、少し気を緩めることができました。
が、次の言葉に、再び心胆を震え上がらせたのです。
「じゃが、子供はどうだ〜っ、良い子なのか〜、悪い子なのか〜っ。
 悪い子ならば、ワシが胴体を喰ってやろう。」
その声に反応したのか、玄関の外にいた青鬼と黒鬼が、
続けてのっそりと入ってきたのです。
「ならばワシは、腕を食ってやろう〜っ。」
青鬼が言うと、黒鬼は
「ならばワシは足を喰ってやろう〜っ。」
と言い、三匹揃って
「「「頭は、生きたまま地獄に持って帰ってやろうっ。」」」
正面に赤鬼、左に青鬼、右に黒鬼と三方を囲まれた恵みはもうどうしていいか
判らなくなっていたのでした。
「どうじゃぁ、お前は悪い子かぁ、それとも良い子なのかぁっ。
コクコクと頷いているのか、震えているのか判らない動きのまま
「よよよよ良い子ですっ、良い子です、良い子です、良い子です〜〜〜っ。」
と「ぶわぁ」と涙を溢れ出させながら、繰り返し繰り返し言う事しかできないでいました。
「おぉ、良い子なのかぁ、ならば確かめてやろうっ、ほら〜、頭を差し出せ〜っ。」
赤鬼の大きな手がググッと伸びてきましたが、恐れを成したのか、
彼女はその手から逃げるため、嫌々と頭を振り涙を飛ばしながら、
座り込んだままずりずりと後ずさりしていきます。
ですが、赤鬼の大きな手は、情け容赦なしに恵の頭を捕えたのです。
するとその指の隙間から赤い霧が湧き出しました。
口を窄めた赤鬼が麺を啜るように、その霧を吸い込んでいきます。
それを全て口内に納めると、手を恵の頭から離し、
「残念じゃぁ、残念じゃぁ、確かにこの子は良い子のようじゃ〜、残念じゃぁ。
 これでは喰らうことも、地獄に連れて行くこともできんっ、残念じゃぁ〜。」
と、大きな身体を揺すりながら玄関から出て行ったのでした。
が、恵がホッとする間もなく、次は青鬼が、その手をググッと
伸ばしてきたのでありました。

(CMキャッチ)
「赤鬼さ〜ん、青鬼さ〜〜ん、黒鬼さ〜〜〜ん」
「ガガオ、ガオガオ、ガガオガオ〜〜〜♪」

 鬼達が出て行った後、玄関の隅で、お母さんと小雪さんが話しています。
「そうそう、去年の田中さんの所、あの手のつけられない暴れ者が、
 小雪さんに来てもらった後、まるで人が変わったように大人しくなってねぇ。
 なんでもこの間『母さん、いつもありがとう、肩を叩いてやろうか』って
 肩を叩いてくれたってもう涙流しながら話してくれちゃってさあ。
 うちの子も、昔は本当にいい子だったんですよ。
 最近、悪い友達に誘われたらしくて、いくら言っても、もう私の言う事なんか
 聞きやしなくてねぇ。
 ねぇ、小雪さん、うちの子、大丈夫かしら・・・。」
鬼のお面を着けたままでしたので、その表情はわかりませんでしたが、
「ええ、大丈夫おすへ、悪い気は、全部鬼はんが食べていきましたし。」
「鬼って・・・、小雪さんでしょう?。
 ああ、あの煎り豆を悪い気に見立てておられたんですね。」
クスリと笑い声を立てた小雪さんは
「そんなもんおす。」
なんともあやふやな返事を返したのでありました。
「あの、これ、少ないですけどお布施です。
 どうぞ、お納めください。」
その封筒を懐に入れ、
「おおきにさんおす。
 何もないに越した事はおへんけど、またなにかありおしたら
 声をかけておくれやす。」
と、ペコリと頭を下げて帰っていったのでありました。
 家には廊下に座り込んで、嗚咽を漏らす女の子と、母親だけが残されましたのです。
母親はゆっくりと、彼女の傍に座ると、その身体をしっかりと抱きしめ、
「もう泣かなくていいんよ。
 鬼さんが、恵の悪い気を食べて行ってくれやはったし、もう怖い事ないんよ。」
ポンポンと背中を叩く母親に、彼女が言いました。
「ごめんね、お母さん、ごめんね。」
「ええんよ、人生なんて、何度でもやり直しができるもんなんよ。
 でもね、やり直せる時に、やり直せへんかったら、
 恐ろしいものがやって来やはるんよ。
 そうなる前に、やり直したら、なんも怖い事ないんよ。
 ふふっ、それにしても、小雪さんが『ガオ〜』って言うてはるだけやのに、
 あんなに怖がらせられるもんなんやねぇ。
 悪いけど、お母さん、見てて笑ってしもうたわ。」
恵はキョトンとしたと思ったら、その顔をクシャと歪め、
「ふえぇ〜、お母さん見えてなかったの・・・、私もう絶対悪いことしやへんし、
 ごめんなさい、ごめんなさい。」
と再び泣き始め、お母さんを困惑させたのでありました。
 その頃、家を出た小雪さんは
「ほな、まだまだ宵の口、どんどん稼ぎおすへ〜。」
鬼のトリオを引き連れ、夜の街に新たな悲鳴を響かせるのでありました。

「信じるも信じないも節分なお話」
 節分とはそれぞれの季節の変わり目を示す言葉ですが、中でも
非常に生活が困難な冬と農業が可能になる春を分ける節分は、
他の節分より重要視されてきました。
ただ、春が来て活発に活動するのは人だけではありません。
それに合わせるように、害悪を与えるものたちもまた活動を始めるのです
それらの悪いものを退けるのに使われてきたのが、音でした。
現在でも、中国などで新年を迎えたと同時に爆竹を打ち鳴らすことには、
その音で邪気を追い払うという意味があります。
我が国にも、音を使って悪霊や魔物を退治する話は、いろいろとありますが、
中でも矢を番えない弓をビンビンと鳴らし、魔を退ける事は有名な話ですね。
節分でも、元々は音によって魔を退けるという意味から、棒で床を叩いたり、
弓を鳴らして音を出すということをしていたのですが、これらの風習が
一般に広まった時に、音を出すものとして、豆を煎るという事が行われるようになったのです。
豆を煎った時の、パンとはじける音を魔よけとしたのです。
バレンタインデーのチョコレートと同じように
豆屋さんの陰謀があったのかも知れません:笑:。
煎り豆は栄養価も高く、身体によいとされていた事もあって
節分に食べると健康を維持できるという考えから定着したのでしょう。
そして、人を健康にできるというプラス面でマイナス面の悪いものを追い払えるという考えで、
音ではなく、硬い豆を直接ぶつける事で魔を退けるという形に変化していったのです。
ですから現在では、豆をぶつけて鬼を退かせるという事になっていますが、本来
その豆を煎る時の音で、鬼を追い払うという意味だったのです。
節分で行われる行事には、人の暮らしに深く関わっている害虫なども
関係してきます。
安心してください、イニシャルGは出てきません。
現在では、啓蟄と言われる「春になり、冬眠していた虫が這い出してくる時期」を
示す言葉は、節分より1ヶ月ほどずれていますが、陰暦が使われていた頃は、
重なるような時期とされていましたのです。
穀物を食い荒らす穀象虫や、畳や布団に沸くダニや南京虫などが代表として
あげられます。
これらの害虫が活動し始める頃が節分と重なっていましたので、
冬の間に篭もっていた悪い気とともに家から追い出す意味で、
畳や布団を叩き、中に潜んでいる害虫や埃をたたき出す
大掃除が行われる時期でもあったのです。
現在でも、年末の大掃除の風景で、大きなお寺の広い部屋の畳を
竹の棒で叩き、舞い上がった埃を大団扇で外に仰ぎ出すシーンが
テレビなどで放映されていたりしますが、これも、かつての節分で
行われていた掃除が、大晦日に行われるようになったものなのです。
畳を叩く事で中の害虫を追い出し、同時に大きな音で
悪い気を追い祓ってもいますのです。
さらに、先ほどの穀象虫ですが、節分にはイワシを焼いて食べる風習もあります。
実は、このときに出る煙で蔵を燻すことで、穀物の中にいる虫を殺してしまう
効果があるのです。
丁度バルサンに代表される燻煙式の殺虫剤のようなものです。
「じゃぁ、バルサンを焚くよりイワシの方が安くていいじゃん。」とか、考えて
しまいそうですが、した後の魚臭さが、いったい何日で消えますことやら・・・。
このように、冬から春の節分には、魔除けの儀式と害虫の駆除との関係が結構と
あったりしますのです。

◎注釈
注1、鬼 : 鬼とは、赤は「怒り」、青は「妬み」、黒は「恨み」の念が
実体化したものと言われています。
その姿として有名なのは、頭に牛のツノ、腰に虎の毛皮を履いていることです。
これは、かつての唐や宋などの国が、北方の騎馬民族の襲来を受けた時、
地理的要因から北東の方向からの侵入だった事や、季節の流行病
(多分インフルエンザなど)が、北東の方角から広がった事から、
悪い気は北東方面から来るものと考えられていたためです。
元々鬼とは、幽霊や悪い気など全般を指していましたが、こちらの島国に
伝わった時に、幽霊と鬼が別物とされ、悪い気がやってくる東北の方角を示す
牛と虎を具現化した「鬼」が作られたものと考えられています。
牛のように大きく(牛のツノ)、虎より強い(虎の毛皮)という意味もあると
思われます。

番外編第4話 お・し・ま・い・♪
(2021.02 by HI)

◆◆◆

昨年の節分は
【節分祭・吉田編】鬼に山伏、覆面の公家!面白すぎる節分祭、4社寺はしごツアー
というツアーに参加しました。
昔から「鬼は外」と鬼を追い出すかけ声を悲しく感じていた私は
様々な儀式をめぐるうちに、鬼を丁重に扱う先人の心を知りました。
そして本年、124年ぶりという、おそらく一生に一度のスペシャルな節分に、
私はこの「節分だょ 小雪さん♪」によって、さらに新たな気づきをいただきました。
すなわち「鬼は外」は、鬼を追い出す言葉ではなく、ひょっとしたら
じゃんじゃん稼ぐために自ら外の世界に出て行く鬼の自己申告であり、
意思表明の言葉なのかもしれない、と。
ストーリーの冒頭にあるとおり、節分の夜の鬼さんは輝いています。
こんな鬼さんトリオがいたら、どんなに闘いに強いスーパーヒーローより
世界も、家庭も平和になるだろうなあと思います。
お正月の「七福神だょ テンちぇるちゃん」では、財運を吸い取る貧乏神が
福々しい姿をしていたのを思い出します。
鬼が怖い形相をしているのは古来より 人が心に宿してきた恐ろしいものの投影であり、
それを代わりに担ってくれる鬼は、本当は優しい、大切な存在である。
そして、豆が当たり前に小袋に収まっている、便利な世の中となった現在もなお
人の心には闇が生まれ、鬼が大切な存在であることは変わらないのだと改めて感じました。
そんな優しくかっこいい鬼を陰であやつる小雪さん、すてきです。

追い出されるのではなく自ら外に出る鬼さんがいるなら、
出かけられないのではなく、自らおうちで過ごす福があってもよい。
最後の節分や鬼さんにまつわるおまけのお話にしっかり節分への考察も深めながら、
スペシャル節分にふさわしい明るい気持ちをいただき、なんだか
次の(124年後?)スペシャル節分まで元気でいられそうな気がしてきました。

HIちゃん、ありがとうございました。


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