天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

第19話

デートでGoGo!だょ テンちぇるちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 テンちぇるちゃんが、いつものようにフィヨフィヨと空を飛んでいますと、
前方に同じように空を飛ぶ者を見つけました。
正確には飛んでいるというより、漂っているといった方が適切な飛び方です。
「烏天狗の誰かかしら?」
とも思いましたが、その背中に翼はありませんし、着ている服は
街中でよく見かける上着にスカートという、普通に人の女の子のようです。
妖の中には羽なしで飛ぶ者も少なからずいますので、そんな誰かかなと
近づいていきました。
横に並んでみますと、どう見ても人の女の子、しかもこの辺りでよく見る
高校の制服です。
さらに、その子は目を閉じたまま空中を漂っているだけのようです。
「あ~、これはまだ自分が身体から離れた事に気が付いていない魂ですね。」
と、さらに近づくと、ツンツンとその子の肩の辺りをつついてみました。
最初は突くたびに軽く身体を震わせる程度でしたが、そのうちに薄く眼を開け
ぼんやりと辺りを探るように周囲を見渡し始め、テンちぇるちゃんと
目が合ったところで不思議そうに見つめると、いきなり目を見開き
「だっ誰っ!」
と、驚きあたふたと手足を動かし始めたのです。
そして、さらに周囲の様子に気が付くと、パニック状態となり
「あわわわわわっ!おっ落ちるっ落ちるっ!」
と声にならない声を出したかと思うと、テンちぇるちゃんにしがみついて
きたのでした。
「まぁ、初めて死んだ人なんて、いつもこんなものですよね」
て苦笑いを浮かべていますけど、普通複数回も死ぬ人なんていませんからね。
「キャーッキャーッ!」
と首にしがみつき、耳元で叫び続けている女の子をぶら下げたまま、
近くのビルに向かって、飛んで行くのでした。
別に首から離しても漂うだけで落ちる訳でもありませんから、引き剥がしても
良かったのですけど、迷える魂を導くのが天使の役目です・・・よね。
ですから、そんな迷惑そうな顔で手を外してあげようとしないで頂戴っ!。
ビルの屋上に足が着いた事で、恐る恐ると手を離した彼女でしたが
「ほっ」と息を吐いて
改めてテンちぇるちゃんを見つめた彼女は、驚愕に目を見開いたのです。
「おっおっお化けっ!。
ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!、お願い食べないでぇ~~~っ!」
手で顔を覆って、背中を向ける女の子に
「初対面でお化けはないですよね。」
と笑顔となった彼女は、両手を広げ
「がお~~~っ♪」
とふざけてみましたが、場を和ませるどころか、グーパンチがやってくるとは
思いもしませんでしたのです。
翼と頭の輪っかを見せ、なんとか自分が天使(見習いは内緒)だと
信じてもらえた今は、並んで座り、柵越しに見える街並みを眺めています。
「そうなんですか、私死んじゃったんですか・・・。」
どうやら彼女は、高校入学直後に発症した病気が元で、2年に及ぶ闘病生活の末、
残念ながら命が絶えてしまったようです。
ほぼ寝たままだったようですが、「それにしてはアグレッシブですよね」と
鼻にティッシュを詰めた天使はちょっと面白いですよ。
自分の話をし終わった彼女は、しんみりとした様子で
「皆『がんばって、きっと元気になるからね』って言ってくれたのですけど
うすうすわかっていたんですよね。
ほら、やっぱり励ましてくれていたって、雰囲気ってあるじゃないですか。
それに、多分死ぬ間際だと思うんですけど、とっても苦しかったし・・・。
でも、ほらこうやって天使様が迎えに来てくれたんだから、私も天国に
行けるのですね。
どんな所かなぁ、きっと素敵な所なんですよね。」
ちょっと無理をした笑顔でテンちぇるちゃんを見ると、彼女はキョトンとした
表情で女の子を見返してきました。
「えっ、天国ですか?。
それはわかりませんよ。
たかが天使にそんな事決められる訳ないじゃないですか♪」
とケラケラ笑いながら女の子の肩をペシペシと叩いています。
女の子も「えっ?」と良くわからないという顔をしています。
「私は人が迷っている時に、行かなければならない所とか、こっちに行った方が
いいかな?って方向を示すのが役目なんですから
そうですね、道に迷っている人に『駅はこちらですよ』と駅までの道を説明する
ようなものですかね。
駅からどの電車に乗ってどこに送るかは、また別の方(注1)の仕事ですから。
そうですね、大天使の上の方でしたら、神様に意見具申される事も
あるみたいですけど。」
女の子の顔が明るさを取り戻しました。
「じゃっじゃぁ、その大天使様にお願いしてもらえれば。」
再びテンちぇるちゃんの顔がキョトンとしたものとなりました。
「この辺りには天使は私しかいませんし、ヨーロッパまで行くつもりですか?。
行ったからといって会えるとは限りませんし、貴方でしたら行くだけで
凄く、物凄く大変だと思いますよ。」
彼女の率直な意見で、女の子の顔が再び落胆に変わっていきました。
「じゃあ・・・、じゃあ私、地獄に落ちるかもしれないの・・・っ!。」
テンちぇるちゃんは腕を組み、うんうんと頷いて答えました。
「その可能性もあるでしょうね。
ただ、他にも輪廻転生、っていうのですか、そのまま生まれ変わるって道も
ありますからねぇ。
こちらだとさらに人以外のものに生まれ変わるって道がそれこそ無限に
ありますから、皆さん『もうどうでもいいや・・・。』って感じになられる
みたいですよ。」
後は、魂のまま地上に残られて、なにかしらの条件が整うまで漂い続けるって
ものもありますけど、あまり長期間に渡ってそんな状態が続きますと、
自分が誰だったかを忘れてしまったり、当然目的なんかも判らなくなって
ただ彷徨う魂になっちゃう場合もありますから、あまりお勧めは
いたしませんけどね。」
女の子が、絶望的な顔になったかと思うと、ぽろぽろと涙をこぼし始めました。
「なんで、私なぁんにもしてないじゃないの・・・。
そりゃ塾をさぼって友達の家で遊んでいたり、参考書を買うって漫画を
買ったりした事はあるけど、そんなに悪い事してないよね。
それに、それに私、まだしたい事なあんにもしてないのに・・・。
高校で部活だってやりたかったし、友達とマクドナルゾで恋話もしたかったのに。
おっ男の子を好きになって・・・、でっデートだってしてみたかったんだからっ!。
アルバイトをして、メイド服を着てもみたかったのに、美味しいものだって
いっぱい食べたかった、テレビに出られたらいっいいなって、声優さんも
やってみたかったし、お父さんやお母さんとももっと一緒にいたかった、
綺麗な服だって着てみたかった、結婚してお嫁さんにだってなりたかった・・・。
なんで死なないといけないの、私だけ・・・ずるいよ・・・ずるいよ、こんなのって
ずるいよ・・・。」
柵を握りしめ、それに身体を預けた彼女の瞳からぽろぽろと幾つもの大粒の涙が
溢れ落ちていきますが、涙は床に届く前に霧散してその痕さえ
残す事はできませんでした。
えぐっえぐっと嗚咽を続ける彼女を見ていたテンちぇるちゃんでしたが、
このままでは未練に縛られて、下手をすると悪鬼化してしまうかも
しれませんし、なにより一番楽しい時期を楽しむ事もできずに終わってしまうのも
可哀そうになってしまったのです。
「わかりました、全てを叶えるのは無理ですけど、できるだけ貴方の望みを
叶えられるようにしてみましょう。」
「えっ?」
鼻をぐずつかせた彼女が、テンちぇるちゃんの言葉に驚き泣き腫らした顔を向けると、
「いいんですか。
本当に私のお願いを適えてもらえるんですか?。」
パァッと一気に明るさを増した彼女の目は期待に満ちていました。
「うふふ、私だって天使ですよ。
そのぐらいなら朝飯前なのです。
袖触れ合うも何かの縁、って言うじゃないですか、こうやって私達が出会ったのも
神様のお導きだと思いますよ♪。
このテンチェルのお姉さんに、ど~んと任せてください!。」

(CMキャッチ)
「三郎くん」「三郎く~ん」「三郎くぅ~ん」
「なぁ、頼むから勘弁してくれょ・・・」

「で、なんで俺なの?。」
そこにはちょっと困惑顔の三郎くんが、テンちぇるちゃんと女の子と向かい合って
立っていたのです。
「テンチェルがなにか思いつめたような顔で『助けて欲しいの・・・』って
言いにきたって伝言の奴に聞いたから、なにかあったのかと急いで来てみれば、
これはなんなの・・・。」
それには、さすがのテンちぇるちゃんも申し訳なさそうな表情となりました。
「あんまり長い説明じゃない方がいいかなぁって。」
「短すぎるだろっ!」
すかさず突っ込みを入れる三郎くん、なかなかに成長しているようですね。
「で、なんで俺がその女の子とデートしないといけない訳、それや、まぁ、なんだ
テンチェルとのダブルデートとかってのなら、べっ別に考えてやっても、
いっいいんだけどさぁ。
いや、俺は別にデートしたいとか言っている訳じゃないんだから、そこんとこ
かっ勘違いしないでくれよな・・・。」
その真っ赤な顔で、噛み噛みで話されてもね、説得力はないと思いますよ。
するとどうでしょう、テンちぇるちゃんが、いきなりシルクハットにブレザー姿と
なったではないですか。
しかもその帽子とブレザーは、アメリカ国旗で作ったような派手なものでした。
彼女は,蝶ネクタイの位置を整え、手にしたマイクのスイッチを入れると、
盛大なファンファーレをBGMに、高らかに宣言したのです。
「レディー アンド ジェントルメーンっ!。
これよりお待ちかねの『第一回テンチェル男友達によるデートのお相手選手権』を
開催いたしまーす。」
呆気にとられる三郎くんを置き去りにして、ドラムロールが雰囲気を盛り上げ
観客達の歓声が辺りを包みこんでいきます。
「それでは、エントリーナンバー 1番、軽妙な話術を駆使し、軽さの中にも
漢気(おとこぎ)をキラリと見せてくれる、一つ目と一本足がキュートな
唐傘小僧さんでーすっ!」
耳を劈く(つんざく)大歓声に答えて両手を広げる唐傘小僧です。
「どうも、よろしく。」
最後に大きな一つ目のウインクがバッチンとハートマークを放ちました。
歓声が止むのを待って、再びテンちぇるちゃんの声が流れ始めました。
「続けて、エントリーナンバー 2番、濃緑色のビビッドカラーの皮膚が貴方のハートに
突き刺さります。
頭のお皿の黄色がチャーミングなワンポイントなのも高得点!。
どこから出すのか、その手に持つキュウリは貴方の食欲を鷲掴みに
することでしょう。
爬虫類、両生類好きにはたまらないその姿っ!。
河童さんでーすっ♪。
再び巻き起こる大歓声の中、恥ずかしそうに手を振って応え、カリッとキュウリを
一齧りする河童でした。
「エントリーナンバー 3番、トリオ ザッ鬼さんリーダー、真っ赤な色が
熱き魂の炎をグレードアップッ!。
鋼の筋肉が貴方の心をベアハッグッ!。
一時たりとも貴方を手放す事はないでしょう。
赤鬼さんでーすっ。
「ガウッ!(任せろっ!)」(カッコ内は適当な翻訳です。)
巻き起こる大歓声の中、ニヤリと広げた口から鋭い牙を剥きだして、
いろんなポーズで筋肉を誇示する赤鬼さんでした。
「さて、エントリーナンバー 4番、トリオ ザッ鬼さんの青い色は平和を
表しているのでしょうか。
冷静沈着にしてトリオの良心、手にするエレキが熱きビートで貴方の心を
射抜きます。
トリオ ザッ鬼さん、青鬼さんでーすっ。」
「ガガウっ!(俺に惚れたら火傷するぜっ!)」(カッコ内は適当な翻訳です。)
エアーエレキギターながらも、その激しい指と腕使いで観客のボルテージを
益々盛り上げる青鬼さんでした。
「エントリーナンバー 5番、トリオ ザッ鬼さんの黒い彼。
ドラムの激しいビートに乗せて彼の読むポエムに、貴方の心は癒されるでしょう。
闘うポエマー、トリオ ザッ鬼さんの黒鬼さんでーすっ。
「ガガウガウガウ(破裏拳ポエマー(注2))」(カッコ内は適当な翻訳です。)
手にした冊子のポエムを読み上げようとしましたが、皆に取り上げられてしまった
黒鬼さんでした。
「あぁ、わかった・・・わかった・・・、俺がやるよ・・・。」
その面々を見て、がっくりと両手を膝に当て、項垂れ投げやりな返事をする
三郎くんでした。
実は既に、女の子は三郎くんの後ろで震えていたりしています。
まぁ、こんな面々、さぞ怖かった事でしょうね。
「あっ、いいの?。
後ね、八岐大蛇さんもお願いすれば来てくれるかも。」
「この辺りがパニックになるから、やめてくれ・・・。」
既に、三郎くんのHPは残り僅かなようです。
「だけどよ、俺って人の世界っていうか、デートスポットって
よく知らないんだけど・・・。」
ちょっと不安そうにする彼でしたが、その肩がポンポンと叩かれました。
彼が振り向くと、そこには鬼のトリオが並んで立っていたのです。
彼らはニィとその口を横に広げると、自信満々に言ったのでした。
「ガウガウガガウガウガウ(三郎、安心しろ、お前には俺達がついているからな。)」
(カッコ内は翻訳です)
そして腕を組み胸を張ると、トリオは揃って大きく頷いたのです。
それには「えっ?」と戸惑うだけの三郎くんでしたが、トリオの言葉が続きます。
「ガガウガガウガウガウガウガウガガウガウ(俺たちはいつ何時彼女からの
お誘いが来てもよいように、デートスポットの情報収集と傾向と対策を
怠った事はない。)」(カッコ内は翻訳です)
(以下からは翻訳文のみとなります。)
その自信満々な言葉に三郎君も少しは安心できたようですが、頭に浮かんだ
疑問を口にしました。
「まさかと思うけど、地獄めぐりじゃないよな。」
彼らトリオはお互いに目を見交し、ヤレヤレといった表情で応えてくれました。
「当たり前だ、三郎は俺達を何だと思っているんだ。
もちろん人のデートスポットに決まっているだろ。
残念だがこういった面に関しては、人の物には到底及ばないからなぁ。」
腕を組み、しみじみとした表情で、トリオが「うんうん」と深く頷いています。
「まぁ、そんなところだ。
だから、次にどうしたらいいか判断に迷ったら、それとなく左手を上げろ。
俺達がサポートしてやるから。」
その文字通りの力強いトリオの言葉に、三郎君も不安は払拭できたようです。
「すまねえ、恩にきるぜ。」
鬼のトリオも表情を緩めると、
「いいって、彼女によい所を見せてやりな。」
トリオの目線の先には、女の子と話をするテンちぇるちゃんがいたのでした。

(CMキャッチ)
「赤鬼さ~ん、青鬼さ~~ん、黒鬼さ~~~ん」
「ガガオ、ガオガオ、ガガオガオ~~~♪」
1/2 次ページ:いよいよ、はらはらドキドキデートへGO!

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