天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

第19話

デートでGoGo!だょ テンちぇるちゃん♪②


「赤鬼さ~ん、青鬼さ~~ん、黒鬼さ~~~ん」
「ガガオ、ガオガオ、ガガオガオ~~~♪」

 今、三郎くんと女の子は、遊園地の入り口で並んで立っています。
彼らの横を、長蛇となった人の列が、途切れることなく入口に飲み込まれて
いきます。
「あの、私達も並ばないと、入るのが遅くなってしまいますよ。」
心配そうに三郎君を見る女の子に彼はグィッと親指を立てました。
「大丈夫、俺たちは人じゃないんだからな。」
そう言うが早いか、女の子の手を握り、なんなく人の列を飛び越えて、中に
入って行ったのでした。
軽々と人の頭より高く飛び上がった事に、女の子は目をまん丸にして
空いている片手で口許を押さえていますが、地面に降り立つ時には、
なんの衝撃もなく「ふわり」と降り立てた事で、もう自分は人ではない事を
実感してしまったようでした。
「まぁ、妖と幽霊だからな。
普通の人は、俺達を見るどころか意識する事もないからな。
たまに見える奴もいるみたいだけど、それは俺達にはどうしようもないし、
そういうのは、そいつが何を言っても放っておけば、周りの奴らが「変な奴」って
目で見てくれるから、そのうちに何も言わなくなるし気にしなくてもいいのさ。」
その時です、二体の横から別のカップルが歩いてきたではないですか。
女の子が「あっ」と避けようとするより早く、カップルは彼女にぶつかることなく
その身体を通り抜けていったのです。
呆然として、通り抜けていったカップルを驚き顔で見送る彼女でした。
「な、見えないし触る事もできないから、何も気にする事はないのさ。」
彼の説明に一抹の寂しさを感じたようでしたが、女の子は笑顔を向けると
「じゃぁ、アトラクションには乗り放題ですね。
さぁ、一杯乗って楽しまなきゃっ♪。
どれから乗ります?。」
彼女の明るくなった態度に、一安心した三郎くんでしたが、さて入ったは
いいのですけど、何からどうすればいいのかと、試しにさりげなく左手を挙げてみました。
すると、後ろから小声で指示が聞こえてきたではないですか。
「ジェットコースターに行け、スリルで彼女のハートを鷲掴みだ。」
三郎くんが、はっとして後ろを振り向くと、そこにはマスクとサングラスの
大男の清掃員が箒で道の掃除をしながら通り過ぎて行く所でした。
驚き顔でその清掃員の後姿を眺めていると、彼の手を掴んだ女の子が
「ねぇ、どれから乗ります、私ここはあんまり知らないんですよ♪。」
屈託のない笑顔で三郎くんを見つめています。
「そっそうだな、ジェットコースターってのに乗ってみようか。」
丁度、彼らの頭上を、そのジェットコースターが乗客の悲鳴を纏いながら
轟音とともに通り過ぎていきました。
その様子を見た三郎くんは、
「なんだ、あの程度の速さなら俺の方が速いじゃねえか。
あんなものでキャーキャー騒ぐなんて、やっぱり人ってのは大したことないな。」
とりあえずは、どんなものかがわかったので、安心してジェットコースター
乗り場に向かったのでした。
 そこもやはりと言いますか、長蛇の列ができています。
そんな事を気にする事もなく、前に進んで行きましたが、これだけの人数が並んで
いるのですから、乗るべき座席は一つとして空いてはいません。
「どこに乗ればいいのかな」とキョロキョロしている女の子の手を引いて、
三郎くんが乗り場を先頭車両に向かって歩いていきます。
そして、先頭座席の前、車両の頭の部分に座り、
「ほら、早く来いよ。」
と自分の座っている横をペシペシと叩くではないですか。
「あの、こんな所に乗って、大丈夫なんですか・・・。」
と不安そうに彼の横に座った彼女が、彼の腕を強く握り尋ねてきました。
「ん?、あぁ大丈夫大丈夫、さっき下からこいつが走っているのを見たけど、
大して速くなかったし、この程度のものなら、俺達はもちろん、幽霊でも
振り落とされることはないぜ。
まぁ、安心して座っていなって。」
まるで彼女の怯えを笑い飛ばす彼の声をかき消すように、発車のベルが
鳴り響きました。
ジェットコースターはガコンと一度大きく車体を揺らし、ガッタン、ガッタンと
徐々に勾配を強め、レールの頂上を目指して昇っていきます。
「あ~、なんだな、いつももっと高い所を飛んでいるんだけど、こうやって高さの
わかる所だと、なんとなく落ち着かっ!」
彼の話の途中で車両が頂点を越えたのでしょう、下降とともに一気に加速し
走り始めたのです。
「「っ!!!!!」」
持ち手などない先頭車両の頭に正座して、両手を車体につけ身体が
浮き上がりそうになるのを必死で堪える彼と、両手で三郎くんにしがみつく彼女。
双方とも顔は正面を向いたまま両目をこれ以上は無理というぐらいまで見開き、
声にならない悲鳴を溢れ続けさせています。
急降下で地面近くまで降りたコースターは、地面を舐めるように急激な
方向転換と上昇下降を繰り返し、その度に右へ左へと遠心力により二体を
大きく振り回しては、意味のない言葉を絞りださせたのでありました。
その様子を地上から見つめる四体の目は、
「三郎もわかっているじゃないか、怖さを共有する事で、お互いの心の距離を
縮めるという高等テクニックを会得しているとはな。」
トリオと一天使がうんうんと頷く前を、ドップラー効果で二体の悲鳴に長く尾を
引かせたジェットコースターが、唸りをあげて通り過ぎていったのでした。
 ようやく終点に到着した車体から、ぞろぞろと乗客が降り立つ中、ゲッソリと
虚ろな目をした二体も降りてきました。
「まさか、自分で制御できない動きが、あれほど恐ろしいものだとは
知らなかったぜ・・・。」
地面に手を付き、虚ろな目のまま三郎くんが呟き続けています。
「こっ怖かった・・・、生きて戻れるなんて思わなかったの・・・。」
女の子も目の焦点が合っていませんし、無粋な突っ込みは止めておきましょう。
しばらくも二体して呆然としていましたが、どうやら三郎くんが先に復活した
ようです。
「おい、大丈夫か?、立てるか?。
悪かったな、まさかあんなものだとは思わなかったからさ。」
彼女も少しですが、落ち着きを取り戻してきたようです。
「ううん、ちょっとビックリしただけだから、大丈夫だよ。
でっでも、あれはもういいかな、アッハッハッハッハ。」
まだ笑いが虚ろなようですね。
「う~ん、続けての乗り物は避けたいよな・・・。
さて、どうしたものかな。」
キョロキョロと辺りを見回してみましたが、鬼のトリオはもちろん、
テンちぇるちゃんの姿さえ見つける事はできませんでした。
何気なさを装って、左手をそっと上げてみますと、近くからカップルらしい
声が聞こえてきたではないですか。
それはいつの間に現れたのか、やたらと体格の良いサングラスにマスクの大男と、
身体より大きなリュックサックを背負った、これまたサングラスにマスクの
女の子が腕を組んで話しているところでした。
「あ~、私ちょっと疲れちゃった、どこかでお茶でもしようよ。」
女の子が甘えたように言うと、大男も
「ガウガガグガウガウガウガウ(そうだな、たしかあの辺りに雰囲気の良い
喫茶店があったな、行ってみようか。」
彼が指差す方向には、確かに女の子が喜びそうなデザインのお店があります。
「次はアレか。」
気合を入れ直した三郎くんは、彼女に手を貸しながら言いました。
「疲れてるみたいだし、そこの喫茶店でお茶でも飲もうか。」
彼女もその提案には小さく頷いたのでした。

 二体は今、喫茶店の隅の席に座っています。
が、いつものつもりで入店してしまいましたが、人の世のお店で彼らの
オーダーを取りに来る店員などいはしない事をすっかり忘れていたのです。
三郎くんの周囲に気まずい空気が漂ってしまい、どうしようかと思っていると、
「いらっしゃいませ。」
と、店員が水を持って来たではないですか。
思わず「えっ?」と店員を見てしまった三郎くんでしたが、そこにはマスクと
サングラスで顔を隠し、背中には身体より大きなリュックを背負った店員が
それぞれの前にコップを置くところだったのです。
「なにしてんだよ!」
と声が出そうになった彼でしたが、一瞬早くに
「ご注文をどうぞ♪」
というセリフがそれを遮りました。
その声に現状を思い出して言葉を飲み込み、それぞれが注文をしたのです。
女の子のほうは、自分たちに店員が声をかけたと言う事実に、なんの不思議も
感じてはいないようでした。
それよりも店員の着ているメイド服に興味津々なようです。
オーダーを通し、小さなバインダーを置くと、彼女は彼らのテーブルから
離れていきましたが、いつの間に置かれたのか、三郎くんの手元には小さなメモが置かれ、そこには
『恋話をしよう♪。』
と書かれていたのです。
「恋話ったってよぉ・・・。」
と、どう切り出せばいいのか悩んでいる所に、コーヒーとオレンジジュースが
運んで来られ、とりあえずノドを潤わそうと口を付けたところで、女の子が
話しかけてきたのです。
「三郎さんって、あの天使さんが好きなんですね。」
剛速球な質問に、口にしたコーヒーを盛大に吹き出した彼は、
さらに噎せながらも慌てて応えたのです。
「ゴフッゴフ、なっなっなっなに言ってんだよ、あっあいつとは単なる友達で、
えっと、そうとっ友達ってだけで、そっそんなんじゃありませんのですよ。」
そしてさらに噎せ返るのでした。
「うふふ、そうなんですかぁ、じゃぁ私が立候補しちゃおうかなぁ。
三郎さんって優しいし、好きになっちゃったかも。」
頬杖をついてほほ笑む女の子に、慌てる三郎くんです。
「なっなっなっなに言ってんだよ、おっ俺は頼まれたからデートしているだけで、
いや、そうなんだけど、だからさ、ほら、わかるだろ、別にあんたの事が嫌いとか
そういうのじゃなくてだな、ほら、あれだよあれっ。」
しどろもどろに、いつものような赤い烏と化した彼が、身ぶり手ぶりも交えて
説明するのを見て、彼女は楽しそうに笑ったのでした。
「わかってますって、言ってみただけですから。
三郎さんを見ていれば、誰が好きなのかはわかっちゃいますから♪。
いいなぁ、どこかに私をこんなに好きになってくれる人はいないかなぁ。」
またしんみりした空気となってしまいましたが、そんな雰囲気を吹き払うように
三郎くんは立ち上がり言ったのです。
「大丈夫だ、あんたぐらい可愛い女の子なら必ず惚れる奴が幾らもいるってっ。
もし、だめな時は、俺が責任を持って御山の奴を紹介してやるからっ!。
だっだから、絶対大丈夫だから、大丈夫だからなっ。」
そんな一所懸命な三郎くんの姿に、彼女に笑顔が戻ってきました。
「ありがとう、やっぱり三郎さんって優しい人ですね。
でも、私、このデートの後には・・・。
そうだ、まだ名前を言っていませんでしたよね、私『奈奈美(ななみ)』って
言います、
お父さんが裏表のない人になるようにって左右対称の漢字にしたんですよ。
うふふ、どうなんでしょう、裏表ばっかりのような気もしますけどね。」
彼女の笑顔は少し寂しいものでした。
 喫茶店を出た二体は、順番を飛び越えアトラクションを楽しみ、遊園地の中を
文字通り縦横無尽に飛びまわり、時には屋台で買い食いを楽しみ、お土産店を
ひやかしては、遊園地を隅から隅まで楽しんで回ったのでした。
サングラスにマスクの大男ややけに大きなリュックを背負った女の子が
やたらと周囲に出没していたのも楽しい思い出・・・かな?。
そんな時間もあっという間に過ぎ去り、閉園の時間がやってきました。
辺りは夕日の茜色に染まり、春にはまだ遠い世界を少しは温かく見せてくれて
いるようです。
そんな中に、茜色に染まった6体の影が立っています。
「三郎さん、天使さんや鬼さん達も、いろいろとありがとうございました。
ずっと病院の窓からの景色しか見られなかったから、とっても楽しい1日でした。
こんなに楽しい思い出を最後に貰えて、とっても嬉しいです。」
ペコリと頭を下げた彼女は、満足の笑みを浮かべています。
「じゃぁ、天使さん、お願いします、いつまでもこうしていたら、また踏ん切りが
つかなくなっちゃいますから。」
三郎くんも鬼さん達も、よい笑顔をしています。
そしてテンちぇるちゃんも、よい笑顔で言いました。
「じゃぁ、いきますよ。
大丈夫、貴方ならきっとよい界にいけます、お姉さんが太鼓判を押しちゃいます。」
そして、、テンちぇるちゃんが杖を高く高く振り上げたのです。
「この地に在(おわ)されます神々よ、どうか神の子たるこの者の穢れ無き魂を、
御身の御手に賜られますようお願い申し上げます。
テテンチェルチェルテテンチェル~。」
彼女の聖唱は、紅色の空に吸い込まれていき、それに応えるように、一条の
金色の光が女の子に降り注いできました。
その輝きの美しさに驚いたものの、すぐに柔らかい笑顔となった女の子の姿は、
自らも光と同じ金色に輝きだしたのです。
皆、よい笑顔で彼女を見つめています。
ですが、どうした事でしょう、ふいに女の子の顔がくしゃりと歪みました。
そしてポロポロと涙を流し始めると、両手で顔を覆ってしまったのです。
「ごめんなさい、ごめんなさい、笑ってお別れしようって思っていたのに。
ごめんなさい、ごめんなさい、本当はもっといろんな事がしたかったの、
今日は本当に楽しかったし、入院している間には、こんな事ができるように
なるなんて夢にも思わなかったの。
でも、でも、もっといろんな事が、欲張りかもしれないけど、いっぱいやってみたい事が
残っているの。
ごめんなさい、ごめんなさい、あんなに良くしてもらったのに、ごめんなさい、ごめんなさい。
皆が悪いわけじゃないの、ごめんなさい、ごめんなさい。
私の我儘だから、ごめんなさい、ごめんなさい…。」
彼女の嗚咽はいつまでも消える事はありませんでした。
そんな彼女に、三郎くんが手を伸ばそうとしましたが、彼の肩に手を置いた
赤鬼さんがグッと力をこめ、彼の動きを止めたのでした。
もはや光と変わらない輝きを放つようになった女の子は、そのまま金色の
光の粒となって、さらさらと砂時計の砂が逆戻りしていくように天に昇って
いったのです。
光が消え、夜色へと変わりつつある空を見上げる皆の顔は、誰しもつらい表情と
なってしまっていました。
赤鬼さんが、呟くように言ったのです。
「三郎もテンちぇるさんもよくやったよ。
あれ以上の事は誰にもできなかっただろうな。
しかたないさ、俺たちと違って、人の命なんて短いものだから、例え命を
全うできたとしても、必ず悔いを残すものなのさ。
三郎くんもテンちぇるちゃんも、彼の言葉に俯く事しかできなかったのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

「で、なんでお前がここに居る訳?。」
じっとりとした目をしているのは、双烏屋のおばちゃんに呼びだされた
三郎くんとテンちぇるちゃんです。
「いやね、いきなり店の前に現れてさ『ここは天国ですかっ!、貴方が
神様ですかっ!』って騒ぎ始めるものだからね。
話を聞いてみれば、どうやらテンちぇるさんと三郎の知り合いのようだし、
悪い子じゃなさそうだから、うちも誰か手伝いが欲しいところだったからね。
しばらくはうちで面倒をみる事にしたから、とりあえず知らせておこうと
思ったのさ。」
説明をしてくれるおばちゃんの横には、メイド服を着て、ニコニコとよい笑顔の
女の子、奈奈美ちゃんが立っていたのです。
「エヘヘ、可愛いでしょ♪。」
ちょっとスカートの端をつまみ、軽く膝を折ってポーズを決める彼女は、
確かに可愛いものでした。
「まあいいけどさ、あの、劇的な別れはなんだったの。
天に昇ったんじゃなかったのかよ。
それがなんでここに居るんだよ。」
それには、彼女も答えを持ってはいなかったのでした。
「う~ん、よくわからないんですよね。
三郎さん達がキラキラ輝いて見えなくなったと思ったら、目の前に割烹着で
箒を持った女将さんとお店が見えましたから、きっとここが天国かなって
思ったのですけど。」
「だそうでさ、まあ理由はよくわからないんだけど、そういう事らしいね。」
おばちゃんが、おばちゃん特有のおおらかさで話を締めました。
「まぁ、いいけどさ、って俺さっきからこれしか言ってないような気が
するんだけど。
ところで、なんでメイド服なの。
ここならやっぱり割烹着か着物じゃないのかよ?。」
呆れたように彼が言うと、
「なにね、メイド服が着たいって言うものだからさ、ちょうど私の昔の服が
あったから着せてやったのさ。
少し手直しはしなくちゃいけないんだけど、オーダーメイドの物だから
品はいいんだよ。」
どこか自慢気なおばちゃんに、マジマジと奈奈美ちゃんを見つめてしまった
三郎くんでしたが、確かによい物だということはわかりました。
ですが、けっこう今時の女の子らしく細身の彼女にピッタリのウエストは
良いとして、つい彼の目が行ってしまう所は、少し、かなり余裕があったり
しています。
ですから、ついつい今のおばちゃんをメイド服に重ねてしまったのも
そして、つい反射的に言葉が出てしまったのも仕方がない事かも知れません。
それが、地獄への特急便だと判っていたとしても・・・。
「嘘だっ!」
思わず立ちあがり、言葉を吐き出してしまった彼の首筋に、おばちゃんの
持っていた「お品書き」が音も無く当てられ、三郎くんの動きを封じたのです。
「へえ、なにが嘘だって言うんだい三郎、一応 言い訳だけはさせてあげるから、
辞世の句のつもりで答えな。」
お品書きは、的確に彼の頚動脈を捕えて放しません。
とくんとくんという脈拍がお品書きを通して伝わるのがわかり、
暑くも無い汗が、一筋三郎くんのこめかみを流れ落ちて行ったのです。
「やっ・・・。」
「や?。」
三郎君の一言に、すかさずおばちゃんの疑問返しが入りました。
「 やっぱりさ、おばちゃんって割烹着をいつも着てるじゃんか、だからさ、
ほら、あれだよ、そうそう和服のイメージがあるっていうか、着物を着ると、
ものすごく素敵じゃん。
だからさ、若い時もきっと綺麗な着物を着ていたってイメージがあったからさ、
メイド服って洋服とのギャップが大きかったから、まさかって気持が
つい出ちゃいましたんでございます。」
三郎くん、変な言葉遣いになってますよ。
彼の言葉が終わっても、お品書きが首筋どころか、頚動脈から離れる事すら
ありません。
1秒、5秒、10秒・・・。
無情な時間が過ぎていきます。
まるで、処刑前の罪人が、いつ執行人の持つ斧が振り降ろされるかを
待っている時間のようでした。
ふと、お品書きにこめられていた力が抜けるのを感じると、それがすいと首筋から
離れていったのです。
「チッ、そういう事にしておいてあげるよ。」
その舌打ちの意味はなんなのでしょうか・・・。
「だけど三郎、『口は災いの元』って言葉をその脳みそに刻んでおきな。
世の中、おばちゃんのように優しい相手ばかりじゃないからね。」
首筋を摩りながら、無言でコクコクと頷く三郎くんと、店の隅で抱き合って震える
テンちぇるちゃんと奈奈美ちゃんでしたとさ。

「注釈」
○注1、別の方 : 日本でしたら「閻魔大王がそうですね。
ヨーロッパでは誰でしょう?。
判りませんでしたので、知っておられる方がおられましたら、ご教授願います。
○注2、破裏拳ポエマー : タツノコプロのアニメ「破裏拳ポリマー
(はりけん ポリマー)」の定番ギャグ。
「ポリマー」と「ポエマー」を掛けましただけですので、大した意味はないです。
他にも「はり扇ポリマー(はりせんポリマー)」も定番となっています。

第19話 お・し・ま・い・♪。

(2022.02 by HT)


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