天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

第20話

合戦だょ テンちぇるちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」


 薄暗い闇の中、大太鼓がゆっくりとしたリズムで叩かれています。
辺りにはもうすぐに始まるでありましょう戦の熱気が渦巻き、その場に居る
兵の甲冑のぶつかり合う音、衣擦れの音や地を踏む音が止むことなく
聞こえてきます。
そして、法螺貝の音が高らかに響き渡り、それまでのゆっくりとした大太鼓が
ひときわ激しく打ち鳴らされると、「突撃じゃぁっ!」との怒号と伴に大勢の者が
鬨の声を上げ地面を駆ける音を響かせ動き始めたのでありました。
同時に敵軍も地面を踏み鳴らしながら進軍し、互いの先頭がぶつかり合うと、
刀が響かせる金属音があちらこちらで聞こえ、さらなる怒号と叫び声が連なり、
もはや一つの音の塊となっています。
俯瞰して辺りを見渡せば、一方は人の姿の軍勢ですが、もう一方は鼠、
それも先の人と同じぐらいの大きさの鼠の群れで、刀を前足の爪で受け、
大口を開けて襲いかかっているのです。
合戦が始まって、しばらくは両軍とも一歩も退く事無く膠着状態となり、押しつ
押されつを繰り返していたのですが、やがて数の優っている人の軍が鼠の軍を
押しこみ始め、ついには鼠達は雪崩を打って退き始めました。
「よし!このまま一気に決着をつけるぞっ!」
一気に勝負をつけようと、逃げる鼠を追って人の集団が追撃を始め、
勝負はついたかと思われた時、後方から人のものではない鬨の声が響き、
内裏の横合いから襲いかかる鼠の群れが現れたのです。
「しまった、ワナかっ!」
引き離された本体が戻る間もなく、手薄となった内裏に突入した鼠の群れは、
辺りにある牛車や箪笥や長持、菱餅を引き倒し齧りつき、あまつさえ
そこに居るお雛様や官女達に襲いかかってきたのです。
「ええい、囃子は何をしておる、官女は雛を護れっ!」
腰の刀を引き抜き、随身(注1)程の兵数ではありませんが、兵を出現させた
男雛(注2)自らが鼠の群れを迎え撃ったのです。
「随身が戻るまでの辛抱じゃっ、ここで押し留めよっ!。」
次々と襲いかかってくる鼠を相手に、獅子奮迅の活躍を見せてはいるものの、
圧倒的な数の差はいかんともしがたく、徐々に後ろに下がらざるをえず、
雛を囲み護っている三人官女の声にもひっ迫した様が交ざってきました。
五人囃子達も、数えきれない傷を負い、整えられていたであろう衣裳は
その片鱗さえも残ってはいません。
ついに周囲は鼠に取り囲まれ「もはやこれまでか」と火の灯った雪洞を蹴倒し、
内裏を焼き、ともに自害しようとしたところに、鼠達が急に慌てだしたのです。
遠くに自分たちを呼ぶ声が聞こえ、それは瞬く間に大きくなり
鼠達を蹴散らして、待ち望んでいた左・右随身の雄姿が現れたのです。
「男雛様、お雛様ご無事でございますかっ!。
ええい、退けいっ下郎どもめがっ!」
兵を引き連れた両随身の前に葉、あと一歩まで迫っていた鼠も、内裏から
潮が引くように離れ、それまでの喧騒が嘘のように静けさが戻ってきたのでした。
暫くは兵を展開して周囲を警戒していた両随身でしたが、これ以上は
攻め込んでくる様子もなしと判断し、兵を消し、二人揃って男雛様とお雛様の前に
片膝を着いたのです。
「申し訳ございませぬ。
まんまと奴らの策に嵌ってしまい、お二方を危険な目に合わせたばかりか
内裏をこのような・・・。」
随身の話は途中で口の中に消えていきました。
あの美しかった内裏は、もはやその姿を留めず、緋毛氈は踏み荒らされ、
揃えられていた家具や調度品、鮮やかな色どりを添えていた菱餅や甘酒は、
無残に踏み倒され、齧られ、なによりそれぞれの着物や持ち物さえも破れ、
汚れにまみれているのです。
お雛様の嗚咽の声が静かに聞こえ、それを慰める三人官女の声にも悲しみが
籠っていました。
「もうよい、誰が悪い訳でもない。
あそこで追い込み、奴らの頭目の首を取らねば、いずれにしても我々にはもはや
勝ち目などなかった。
苦労であった、今は身体を休め、鋭気を養うがよかろう。
と言っても、内裏がこの様では気が休まらぬだろうがな・・・。」
三人官女と五人囃子が辺りを片づけ始めましたが、もはや
そんな程度で間に合うものではありません。
皆が沈んだ気持ちでいると、空が白み始めました。
窓や壁の穴、隙間から室内を照らす陽の光も、少しは皆の気持ちを慰めて
くれたものの、同時に周囲の状況をはっきりと突き付ける事ともなったのでした。
そんな時、どこからか彼らに声がかけられたのです。
「あの、ここで何をしておられるのですか?。」
それは、屋根に開いた穴から室内を覗きこんだ女性の声だったのです。
しかし、その姿を見た皆は、サッと刀を引き抜くと、男雛様とお雛様を護るように
立ちあがり切っ先を彼女に向けて突き付けたのでありました。
「なに奴っ、狐狸妖怪の類かっ!。」
そう言われるのも仕方がないのかも知れません、その女性は、その背中に
翼を持ち、覗かせている顔だけで彼らほどの大きさがあったのですから。
狐狸妖怪と言われた巨大な女性は、その特徴的な青い瞳をパチパチと瞬かせ、
顔の前で慌てて手を振ったのです。
「いえいえ、違いますよ。
私はテンちぇると言うただの天使です。
丁度この家の上を飛んでいる時に呼ばれたような気がしまして、覗いてみましたら
皆さまが居られたという訳でして。」
その説明に反応したのは、男雛様と呼ばれていた、靴箆のような物を付けた帽子を
被っている男性でした。
「皆の者、刀を下げよっ。
まさかっまさかっ、天使と申されますのは、天からのお使いと言う意味で
ございましょうかっ?。」
その勢いに気押されたのか、ちょっと身を仰け反らせてしまいましたが、改めて
その男性に顔を向けて言いました。
「はい、そのようなものですが・・・。」
彼女の返答を聞いた彼は、大きく目を見開き、「おおおおおおおっ!」と
喜びに満ちた歓声を挙げたのです。
「なんと、なんと、なんとっ、天は我らを見はなしておられた訳ではなかったのだ。
喜べ皆の者、天は我らの願いを聞き届けられ、援軍を寄こして下されたのじゃっ!。
もう安心じゃ、これで憎き鼠どもを撃ち払えるぞ。
雛よ、雛よ、苦労をかけた、もはや何も恐れるものはない。
これで昔の平穏な毎日が戻ってくるのだ。」
彼は以前に、テンちぇるちゃんが八岐大蛇さんに頂いた物に似た着物を着た
女性の手を強く握り、満面の笑顔で語りかけたのです。
その姿に、周囲に居る配下と思われる者達からも笑顔がこぼれ、中には
袖でそっと目元を拭う者もいました。
誰も言葉を発さず、感慨に耽ったのでありましょう静かな時が流れたのち、
彼らの視線は未だに天井の穴から顔を覗かせている天使、テンちぇるちゃんに
向けられたのです。
そして再び男雛様が進み出られ、神妙な様子で尋ねられたのでした。
「して、天からの援軍はいかほど来られたのでございましょうや。」
期待に満ちた彼に向かって、なんでもないように彼女はいったのです。
「えっ、そんなものいませんよ。
今ここには私しかいませんし、私が来たのもたまたまですから。」
その場にいた全員が「えっ?」と、思わず出たであろう声とともに
「こいつは何を言っているのだろうか?」と言う表情となった後、その言葉が
時間をかけて染み込んで行ったのでありましょう、それを理解した順に愕然とした
顔となって行ったのでありました。
「でっでは、天からの援軍はないと言う事でございましょうか・・・。」
彼の表情からは「違うと言ってくれっ!」と言う、僅かな希望にすがる思いを
見てとる事ができたのですが、そんな思いは身も蓋も無く、ぶった切られて
しまったのでありました。
「はい、なにしろ私がここに来たのも偶然ですし、皆さまが何を望んで
おられるかも知りませんから。」
一斉にがっくりと肩を落とし、項垂れてしまった一堂でありましたが、
ふと何かに気が着いたように男雛がテンちぇるちゃんを見上げました。
天井から覗く彼女をまじまじと見上げると、ハッとした表情となったのです。
「そなた、すまぬが下に降りて来てはもらえぬだろうか。」
そのぐらいなら何の問題もありませんから、軽く翼を羽ばたかせると、
天井の穴を潜って屋内へと降り立ったのです。
けっこう埃が舞い上がったりいたしましたが、下で待っていた彼らを
埃まみれにした以外は、問題ナッシングです。
ケホッケホッと咳き込みながらも、降りてきた彼女の姿を見て、男雛は目を
輝かせたのでありました。
「やはり、やはりそうでございましたかっ。
そなたのその大きさ、それこそ我らが望んでいましたものに違いはありませぬ。
やはり、天は我らの望みに応じて、援軍を派遣して頂けたに相違ないっ!。」
その言葉に皆は気がついたようです。
一時は光を失いかけていた目に、再び輝きが戻ってきたのです。
「ほんに、ほんに、そうじゃそなたならば、にっくき鼠どもも一振りで薙ぎ払って
頂けるに相違ない。
「ほんに、ほんに、そなたが居れば、鼠どもが幾ら居ようと物の数では
ありませぬぞ。」
「ほんに、ほんに、それだけの身体があれば、鼠どもなど踏み潰して下さる事で
ございましょう。」
皆が次々と喜びの声を挙げる中、当のテンちぇるちゃんだけは疑問に満ちた顔を
しています。
「あの、お喜びのところ申し訳ないのですけど、どういう事なのでしょうか?。」
足元でわいやわいやと動き回る彼等を踏んでしまわないように気を付けながら、
一番偉そうに見える、彼、男雛をひょいと掴み上げたのでありました。
「天の使いとはいえ、我を摘まむとは不遜であるぞ。」
と彼女に摘ままれたままワキャワキャと手足を動かす男雛を床に下ろし、
目線を合わせて話をしようとしましたが、それこそ顎を床に着けてようやくと
同じ高さになるかどうかと言う程度にしかなりませんので、と普通に座って
お話しいたします事にしました。
周囲から「不遜であるぞ」とか「礼儀をわきまえぬかっ。」との声も聞こえて
きましたが、男雛の
「控えい、天より我らをお救いに来られたお使い様じゃ、余が頭(こうべ)を
垂れるのも当り前のこと。
そなた達も頭を下げいっ。」
彼の一喝に、男女問わずその場に居る者は、残らず頭を下げたのでありました。
「天のお使い様、改めて名乗らせて頂きます。
私は男雛、この内裏を治める者にございます。
隣におりますのは雛と申す者にございます。」
順々に頭を下げている者を紹介し、現状を説明し始めたのです。
「長期に渡ってこの地を治めてまいりましたが、しばらくも前から鼠どもが
闊歩し始めたのであります。
数匹程度でございますれば、我らでなんなく打ち払う事もできますので
ございますが、奴らは大鼠に率いられ、数十いえ、数百の大軍勢となり、
攻め入ってきたのでございます。
これだけの数となりますと、いかに随身が兵を出しましょうとも、数で
押し切られてしまいますのでございます。
昨夜は鼠どもの数も少なく、あ奴らの頭目を討ち取り戦に決着をつけようと
いたしたのでございますが、それを逆手に取られ内裏に攻め込まれ危うき所と
なってしまいました。
もはや攻めます事はおろか、守る事すらおぼつかない状況でございます。
このままでは今宵が我らの最後となりましょう。
お願いでございます、どうか我らに天のお使い様のお力をお貸し頂けないで
ございましょうか。
我らには、もはや天のお使い様に報いる物もなにもございませぬが、私の
命でよろしければ捧げさせて頂きとうございます。」
両手を床につけ、頭を下げたすがたにもそうですが、その言葉にぎょっとしたのは
周囲の者でした。
「男雛様っ、何を言われますのですか、それならば私めの命をっ。」
「何を申されますか、私の命のほうこそっ。」
お早まり下さいますな、天のお使い様、どうか代わりに私の命をっ」
男雛の一言から、周囲が騒然となり、次々に「代わりに私の」との声が上がり出し
収集の付かない状態となってしまったのです。
困ったのはテンちぇるちゃんでした。
「あの、別に命を頂く必要もありませんし、鼠の害に困っておられると言う事で
よろしいのですよね。
じゃっじゃぁ、私でよろしければお手伝いぐらいさせて頂きますので、
どうぞお静まりください。
そこ、なんで着物の前をはだけているの、その刀を離してっ!。
ほらっそこ、刀を心臓に向けないでっ!。
その縄を柱にかけてどうする気なのっ!。
そこ、向かい合って小刀を首に当て合うのは止めてぇっ!。
なんで箪笥の上に上ろうとしているのよぉ~っ!。
お願い、本当に命とかいりませんから、いりませんからぁ~っ!。」

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

既に陽は落ち黒々とした闇が広がっています。
雪洞の淡い灯りが闇を退けていますが、家の中の一部だけの事で、そこ以外は
濃密な闇が無限に広がっているように見えます。
あのあと、次から次へと自殺しようとする者から刃物や縄を取り上げ、箪笥に
上ろうとしていた者を下に降ろしとしているうちに、テンちぇるちゃんの
目を盗んで、あっちでわちゃわちゃ、こっちでわきゃわきゃとやり始め、
それがいつの間にか追いかけっことなり、テンちぇるちゃんも交ざり皆で
キャーキャー言いながらの鬼ごっことなっていました。
あのお雛様も「がお~~~っ♪」とか言いながら追いかけてきて、とても
楽しそうでした。
で、気が着けば夜もとっぷりと暮れ、鼠達の襲撃に備え、全員が守りに備えて
いるのです。
もちろんテンちぇるちゃんも、手近にあった箒を持って備えています。
彼女の頭の中では、あの世界的に最も有名なネズミ(注3)が、「チューチュー」とか
言いながら足元を駆け巡るのを、箒で外に掃き出すみたいなイメージが
できあがっています。
「天のお使い様、そろそろ奴らが来る時間でございますぞ。
準備の程はよろしいでしょうか。」
随身の一人が声をかけてきました。
「はい、大丈夫です、この箒で全部掃き出してあげますよ。」
と、箒を掲げ、片手で力こぶを見せたりしてもいます。
「それは頼もしい、よろしくお願いいたしますぞ。」
男雛も満足げに頷いています。
やがて静かな時間も終りを告げるように、どこからともなくカタカタと
板を踏む音が聞こえ始め、それはすぐにバタバタと何十何百と言う足音に
変わって行ったのでありました。
そして、あちらこちらの壁や床天井の隙間、穴から無数とも思える鼠達が
顔を出してきたのです。
それらは、つぶらな瞳の小動物ではなく、それぞれが赤く吊り上がった眼を
爛々と光らせ、文字通り耳元まで裂けた口から牙を覗かせる凶暴な形相を
呈していました。
それはどこの白い大鼬(注4)に率いられた鼬軍団ですかい?といった様相の鼠の群れ
だったのです。
「ヒッ!」
その異様な光景に、さすがのテンちぇるちゃんも思わず息を飲んでしまいました。
それに、その数です。
普通の鼠よりは大きいとはいえ、小さいものが密集して蠢いている光景と言うのは
生理的な嫌悪感を覚えても仕方が無い事でございましょう。
鼠達は、穴や隙間から顔を出したまま「キィーキィー」と威嚇の声を挙げはするものの
いきなり襲いかかってくる事も無く、じっと雛人形達を眺めているだけなのです。
「よいか、我らには天のお使い様が付いておられるっ。
恐れるな、鼠どもを討ち払い、奴らの頭目を成敗いたすのじゃ!。」
男雛の声とともに、随身が主力となる兵を展開し、普段は戦いなどとは縁のない
官女達や囃子の面々も女官や楽隊を出して鼠達と睨み合いました。
ですが、それらの数を合わせても、今見えている鼠の数にも遠く及ばず、
さらに後続の鼠が居ることを思えば、もはやどう足掻いたとしても抗する術は
ないでありましょう。
「くっ、鼠どもめ、また数を増やしておるわっ。」
誰の声だったでしょう、絶望的な様子を認識させるには、それ以上の言葉は
必要ありませんでした。
暫くも睨み合いが続きましたが、やがて満を持したのか鼠達が一斉に襲いかかって
きたのです。
随身率いる兵たちも槍を並べ弓を射り鼠を迎え撃ちますが、倒す鼠より
襲い来る数が圧倒的に多く、忽ちとして乱戦となってしまったのです。
こうなってしまいますと、数の上で圧倒している鼠が優勢となり、雛人形の
兵の数が見る間に打ち減らされて行きます。
「天のお使い様、どうぞご助力をお願いいたしますっ!。」
たまらずお雛様が声をあげましたが、テンちぇるちゃんは鼠達のあまりの
気持ち悪さに、箒を抱きしめたまま立ちすくんでしまっていたのです。
しかし、彼女もいつまでもそのままで居る訳にはいきませんでした。
随身達の囲みを突破してきた鼠が何匹も彼女の足元を駆けまわり、
あまつさえその足に飛びついてきたのです。
「いいぃぃぃいぃぃやあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!」
その瞬間、何かが振り切れたのでありましょう、それまでの立ちすくんでいた事が
嘘のように、ぶんぶんと箒を振りまわし、足を踏み鳴らして駆け出したのです。
さすがの鼠達も、自分たちの十数倍もある生き物が、叫び声を上げながら
箒を振りまわして迫りくる姿は恐ろしいものだったのでございましょう。
国民的人気を誇る某ロボット(注5)が、叫び声とともにビームサーベルを振りまわして
追いかけてくるようなものですからね。
その進路上から蜘蛛の子を散らすように鼠達は逃げ回りましたが、振り回される
箒の一撃は、当たるを幸いに鼠をまとめて撥ね飛ばし、壁と言わず床と言わずに
叩きつけ、死屍累々の様相を現出していったのでありました。
そんな惨劇がどのぐらい続きましたのでしょう、彼女が我に返った時には
鼠達はおろか雛人形達も、壁にへばり付くように避難し、震えていたのです。
「あ、あれぇ・・・?。」
今の状況は天使としてとてもまずいのではと思いはしたものの、今更どうする事も
できませんので、とりあえず、倒れている鼠達を箒で掃いて壁際まで
移動させておきましたが、中に、雛人形達の兵の姿が交ざっていたのは内緒です。
互いに壁際まで後退した両軍に動きはありませんが、戦とは別種の緊張感が
両陣営から伝わってきています。
その中心に居るのは、もちろんテンちぇるちゃんでしたが・・・。
そんな緊張感漂う中、鼠達からざわめきが起こり、群れの一部が二つに割れ、
一本の道ができました。
その道の先は、暗闇に消えていましたが、なにか重い足音が近づいてくるのが
聞こえ、それは徐々に大きくなり、音に合わせて床から振動さえ伝わってきたでは
ないですか。
そして、暗闇の中に一対の赤い目が浮かび上がり、ついにはその姿を
現したのです。


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