天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

探してみたョ テンちぇるちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

とある山に、強大な力を持った妖が住みついたとの情報があり、妖達が
真偽を確かめようと山の麓に集まっています。
そんな中に、テンちぇるちゃんも混ざっていたのですが、後ろから彼女に
声をかける者がいました。
「使いよ、このような所で何をしておる。」
それはいつもの束帯に身を包み、口許を扇子で隠した八岐大蛇だったのです。
「あっ、八岐大蛇さん、こんにちは。
私もよく知らないのですけど、なんでもこの辺りに強い力を持ったモンスターが
住みついたらしいそうで、皆で辺りを調べてみようって事になったんです。」
彼女の話を聞いて、辺りの山を見渡した彼は、
「ほぉ、この辺りにそのような者が居ったとはな。
しばらくも前から、我もこの辺りに居を構えているが、そのような者とは会った事はおろか
力を感じた事もないが、どのような者か興味はあるな。
そなたには借りもある、よかろう、我も同道いたしてやろう。
「えっ、本当ですか♪。
八岐大蛇さんが居てくださるのでしたら百妖力ですね♪。」
手を合わせ、無邪気に喜んで見せる彼女の姿には、八岐大蛇も満足げに頷いて
みせたのでした。
強力な援軍の出現を皆に知らせようと彼女が振り返った先には、あれだけ集まっていた
妖の一体もおらず、静かに風邪が舞っているだけだったのです。
「はて?、皆はどこに?」と辺りを見回してみても、集まっていたはずの妖の一体すら
見つける事はできませんでした。
「あの、今までここに皆集まっていたはずなんですけど・・・。
どこに行っちゃったんでしょう。」
八岐大蛇も、辺りを見回しながら、扇子で口許をぽんぽんと叩くと、
「ふむ、面妖な。
しかし、ここで待っていても如何ともし難いであろう。
とりあえず、山を調べておれば、どの者かには会えるのではないかな。」
そうして二体は連れだって強い力を持つと言う妖を求めて山に分け入ったので
ありました。
山頂に昇り、谷底に降り、時にはテンちぇるちゃんが空から辺りを調べ、
八岐大蛇が八つの頭を展開して全方向の探索をしながら山奥に向かって
進んで行きます、
ですが、山陰に隠れていた月が顔を出し、中空近くに昇るに至っても、
それらしい影を見つける事はできませんでした。
少し疲れが出始めたテンちぇるちゃんは、谷底で休憩を取ることにしました。
大岩に座り谷川の冷たい水に足を浸していると、疲れが水に溶けだしていくようです。
八岐大蛇は、相変わらず疲れた様子も見せず、影としか見えない首を伸ばし、
辺りを調べています。
「あ~、星がきれい」
などとノン気な事を考えていたテンちぇるちゃんは、お尻の辺りに
違和感がある事に気が付きました。
大岩に座っているのですから、岩感があるのは当たり前とか、そういう事では
ありません。
「ん?」
とお尻の下を手で触ってみますと、他の部分と違った手ごたえがします。
身体を動かし、その部分を確かめてみますと、そこにはほとんど岩と
同化しているように見えますが、金属の輪っかの一部が顔を出していたのです。
「はて、なにかしら?。」
つまんだり撫でたりしてみましたが、知っている中では人の貴族の屋敷などに
付いているドアノッカーが近い感じでしょうか。
「使いよ、なにか見つかったか。」
そんなテンちぇるちゃんの動きに、八岐大蛇が声をかけてきました。
「ええ、この岩のコレなんですけど、何でしょう?。
わかりますか?」
場所をあけて、彼に見てもらいますと、
「ふむ、かなり古い物のようでもあるし、妖や人の物ではなさそうであるな。」
テンちぇるちゃんに少し下がっているように言うと、彼はその手を高く
掲げ「ふんっ!」と気合とともに、手刀を岩に叩きつけたではないですか。
テンちぇるちゃんが驚きの声を上げるより早く、轟音とともに岩の破片が
辺りに飛び散り、後には消し飛んだ岩の間から下の地面に繋がった輪っかが
姿を現したのでした。
まだ土埃が舞う中、「これは何なのですか?。」と問いかける彼女に
「わからんが、我の一撃に耐えるとは、小賢しい。」
そしてもう一度手を高く振り上げたところで
「駄目ですからっ、駄目ですからっ、目的が変わっていますからぁっ!。」
慌ててその手に組みつき、なんとかそれが振り降ろされるのを阻止する事が
できました。
「しかし、これはなんであろうか。
なにかの引き手のようにもみえるが。」
と、その輪っかに手をかけ、次の瞬間には、ゴゴゴゴゴォッと鈍い音を轟かせて
持ち上げたのです。
すると、輪っかだけではなく、一辺が2メートルはあろうかと言う立方体の岩が
一緒に持ちあがってきたではないですか。
その巨大な岩が完全に地面から離れたのを確認して放り投げると、
跡には真っ暗な闇を湛えた穴が口をあけ、一本の階段が闇の奥へと消えていたのです。
二体して、その穴を覗きこみ「なんであろうか」「なんでしょうね」と首を
傾げていましたが、もちろんこんなものを目の前にして入らないという選択は
彼女にはありません。
「入ってみましょうか?。」
どこかワクワクとした様子で提案する彼女に、八岐大蛇もまた
「うむ、興味は尽きぬな。」
と階段に足をかけたのでした。
長い間使われていなかったのでしょう、埃が積もり、まるで地の底まで
続いているかのような階段を降りていきます。
テンちぇるちゃんの天使の輪が煌々と光を放ち、辺りの闇を払拭していきます。
「我は闇を見る事もできるが、その輪はなかなかに便利な物であるな。」
「先を照らすため前を歩く彼女は、振り返りつつ言いました。
「これ、天使の証明ですけど、照明じゃないですョ♪。」
その返答にちょっと驚いた顔をした八岐大蛇でした。
「ほぉ、なかなかにやるではないか、座布団一枚であるな。
これが十枚たまれば、我がなにか一つ願いを叶えてやろう。」
テンちぇるちゃんにはなんの事かはよくわかりませんでしたが、とりあえず
貰っておく事にしました。
でもね、座布団を抱えて歩く天使さんって、ちょっと面白いですよ。

(CMキャッチ)
「八岐さん」「八岐さ~ん」「八岐さぁぁ~ん」
「うむ、大義である。♪」

どのぐらい降りていったでしょうか、輪っかの光がついに階段の終りを
照らし出しました。
そこはがらんとした広い部屋で、さすがの天使の輪っかとはいえ部屋全体を
照らすことはできていません。
ですが部屋への入り口から離れた所になにやら巨大な物体が鎮座ましまして
いる事はぼんやりとした光の中でも見る事ができました。
それはなにやらお椀を伏せたと言いましょうか、鍋を伏せたようなと
申しましょうかと言う姿をしていたのです。
下部から出た小さな数本の足が、その巨体を支えています。
「なんでしょうコレ?。」
テンちぇるちゃんが、八岐大蛇に尋ねてみますと、
「うむ、我も現物を見た事はないが、人どもがUFOと呼んでいる物ではあるまいか。」
「あっ、聞いた事があります。
あの空飛ぶ円盤ってのですよね。
でも、今私達が確認している訳ですから、UFO(未確認飛行物体)って言うのは
おかしくないですか?。」
「ふむ、既にUFOとの呼び名が、本来の意味を離れて名詞化してしまって
いるのであるし、構わぬであろう。」
などとどうでも良いような話をしていますと、そのUFOと思わしき物体と
二体の間に光が走ったのです。
そして、そこに人らしきものが現れたではないですか。
太めの四肢を備えた二足直立姿で、大きくくびれた腰、全身に散りばめられた
細かい装飾、そしてなにより頭部に対して大きな、細いスリットの入った眼が
印象的な姿でした。
その姿を見て、彼には思い当たる者があったようです。
「遮光器土偶(注1)ではないか。」
ただし、それは本当にその場に現れたのではなく、後ろの風景も透けて
見えている事から、幽霊、いえ、映像の類である事が判ります。
それがノイズが入りながらも安定した映像となったからか、どこからともなく
音が聞こえてきました。
「%#”&%&’$%&’”#UYGK、
お%#りな%いませ%&’”う#UせんK、
おか#りなさいませ%&’”うちゅうせんK、
おかえりなさいませ、すでにうちゅうせんの、
お帰りなさいませ、既に宇宙船の修理は終えております。
カグヤ星への帰還準備も整えております。
他の乗組員は無人探査機での探査では見つける事はできませんでした。
本星に戻り、新たに探索隊を・・・。」
どうやらこれは宇宙船らしく、やってきた二体を乗組員と間違えているようです。
確かに、あの階段やこの部屋の中に積もった埃を見ても、長年に渡って他の者が
入った形跡はありません。
「どうします、なんかアレに乗れって言っているみたいですけど。」
「ふむ、面白そうではあるが、今は我らも山を調べている最中でもある。
あれからは大した力も感じぬ、我らが探している妖でもなかろうし、関係はあるまい。」
「でも、ちょっと乗ってみたいと思いませんか。
宇宙船なのでしたら、宇宙に行けるかも知れませんよ。」
ワクワクとした気持ちを抑えもせず、彼に問いかけたテンちぇるちゃんでしたが、
八岐大蛇の返答は素っ気もないものだったのです。
「我らには、人の使う科学というのであろうか、あのような物はよく判らぬのだが、
これはどう見ても現在の人の手にしておる物を越えておろう。
もし、こんな物があ奴らの前に現れれば、奴らの社会そのものに要らぬ波紋を
立てる事必定。
良しにすれ悪しきにすれ、この世界を動かしておるのは残念ではあるが、人どもに
違いはない。
敢えて波を引き起こす真似はせぬ事だな。」
ちょっと残念そうなテンちぇるちゃんでしたが、二体は未だに話し続けている
遮光器土偶を残し踵を返したのであります。
そして再び階段を上り、地上に出た後、入口を塞いでいた立方体の石を元に戻し
さらに元の姿に戻った八岐大蛇の一撃で山の斜面を崩落させ、あの入口を
完全に埋めてしまったのでありました。
未だにあの宇宙船に心を残しているテンちぇるちゃんでしたが、崩れ落ちた山肌に
ぽっかりとあいた穴、大きな洞穴を見つけたのです。
「ほらほら、アレ、あんな所に思わせぶりな洞穴がありますよっ。
きっとまたなにか埋まっているんですよ、ひょっとしたら、さっきの宇宙船の
乗組員が眠っていたりするんじゃないですかっ。
行きませんか、行きますよね、さあいきましょう!。」
八岐大蛇の手を取ると、彼を引っ張って歩き始めた彼女でしたが、その姿は
まるでお父さんの手を引っ張る子供としか見えませんでした。
序でに、その座布団も持ってもらえばどうですか。
崩れた山肌もものとはせず、辿り着いた洞穴は、遠目には小さく見えましたが
近くで見ますと、そこそこ大きく奥に広がる洞窟となっています。
二体してずんずんと中を進んで行きましたが、整然と切り取られていた
宇宙船のあった地価の壁に比べ、この洞窟は自然にできたものに多少の
手を加えただけのものなようです。
しかしその突きあたりは、岩壁とは一線を画す門によって塞がれていたのです。
門にはなにやら家紋らしきものが描かれており
それを見た八岐大蛇がふと呟いました。
「ほぉ、かつての幕府の紋であるな。
ならばこの先にはもしや。」
本来は、大きく外側に開くための門だったのでしょうが、その門の中心部は
太すぎる柱を使い、まず常套な手段では開く事が不可能な状態となって
いたのです。
八岐大蛇はそこに手をかけると力任せに動かしました。
木のはじけ飛び砕ける音、金属のねじ切れる音、辺りに吹き飛んでいく断片の
様々な音を響かせ、ゆっくりと門が開けられていきます。
門を開けようとする彼の腕にも、青白い放電にも似た光が走り、
物が焼け、肉が焼ける臭いが漂ってきましたが、一切構わず門を動かし、
体が通り抜けられるだけの幅を開けると、彼の姿は中に入って行ったのでした。
門の内側を見ると、木や金属での防御だけではなく、魔術的な防御も施されて
いたのでしょう、複数の魔方陣が幾つも重ねて描かれています。
そしてなにより、門の内側には、胴と頭の離れた人骨が少なくとも数十体は
転がっていたのです。
「ふむ、この魔方陣といい、この人骨といい、間違いはなかろう。
恐る恐る門の隙間から顔を覗かせたテンちぇるちゃんでしたが、その惨状には
目を剥き、慌てて彼に問いかけたのです。
「あっあの、ここはいったい、まさか悪魔の召喚儀式でもっ・・・。」
口許を扇子で隠し、振り向いた八岐大蛇は、さも詰まらなそうに答えたのでした。
「この骨は、この洞窟の作業に従事した者どもであろう。
どういった素姓の者かは知らぬが、口封じであるな。
門に描かれていた紋章、封じと防御の結界、これらの人骨と、まず間違いなく
前の幕府の埋蔵金であろうな。」
テンちぇるちゃんの返答を待つ事なく、先に歩を進めた彼に、小走りに
近づいた彼女でしたが、幾らも進まないうちに、壁に沿って大小の箱や壺の類が
並び、堆く積み上げられ、その間をさらに進んで行くと、突き当りになる場所に
縁を金属で補強した木箱が幾つも幾つも、それ自体を壁と見紛うほどに
積み上げられていたのです。
「なんですかコレ?」
と前に出ようとした彼女を押し留め、彼が一歩足を踏み出した瞬間、彼の周囲に
雷撃にも似た光が走ったではないですか。
ですが、彼にはなんの痛痒も与えていないようでした。
「ふむ、やはりこの程度であるか。」
とその場で気合を込めると、彼の身体を這うように走っていた電撃が弾き砕かれ
同時に壁の幾つもの箇所の岩がはじけ、そこに書かれていたであろう魔方陣が
粉砕されたのでした。
「使いよ、もうよいぞ、来てみるがよい。」
恐る恐るといった様子で近づいてくる彼女の前で木箱の一つを手に取ると、
彼は鍵をはじき飛ばしながらその蓋を開いたのです。
すると中には、目も眩むといった使い古された表現こそがしっくりと馴染む黄金の輝きが
収まっていたのでありました。
「えっ、これ金貨ですか?。
もしかして、ここにある箱の中みって、全部コレなんですか!。」
「うむ、かつてこの国で使われていた大判(注2)と呼ばれた金貨であるな。
人の間では、噂にはなっているが、幕府が危機に陥った際に使うべしと、
確か初代の将軍が国のどこかに隠したとされている物であろう。
この金貨、使いは必要であるか?。」
彼女の答えは簡単なものでした。
「別に、要りませんょ。
使う事もありませんし、あっても邪魔になるだけですからね。
でもまあ綺麗ですから一枚だけ貰ってもいいですか?。」
「一枚でよいのか。
遠慮せず好きなだけ持っていけばよい。」
ですが、結局テンちぇるちゃんは、開いている箱から一枚だけ
つまみ出したのでした。
「うむ、過分な欲望は身を滅ぼす元、その謙虚さは褒めてつかわそう。
我は箱を幾つか貰っていこう。
我を奉ずる者達にも、たまには現世利益を施してやらねばな。
それにあ奴への支払いもせねばならぬ。」
彼はそう言って、ひょいひょいと肩に千両箱(注3)を4個担ぐと、踵を返したのでした。
二体が並んで例の結界を越えようとした時、それまでにはなかった魔方陣が
浮かび上がり、光を放ち始めたではないですか。
これにはテンちぇるちゃんだけではなく、八岐大蛇さえもが驚きを表わしています。
その魔方陣の光が二体を包み、それがはじけた瞬間、そこに居たはずの彼等の姿は
消えてしまっていたのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

眩い光が収まり、目が周囲の明るさに慣れた頃、彼等が居たのはどこまでも
白い空間が広がる世界だったのです。
二体して、キョロキョロと辺りを見回していますと、いつの間に現れたのか、
彼等の手前、ほんの数メートルの所に一人の女性が立ち、優しげに頬笑みを浮かべ
軽く両手を広げ話し始めたのです。
「異世界の勇者よ、よくぞ来て下さいました。
私はこの世界の女神スヤデイオ。
今、私の世界は滅びの危機に瀕しています。
魔王が現れ、その強すぎる魔力を持って世界を手中に収めようとしているのです。
どうぞ貴方達の力で世界を救って頂けないでしょうか。」
「あ・・・。」
テンちぇるちゃんから気の抜けた声が出ました。
「えっ・・・。」
女神と名乗った彼女からは、戸惑いの声が出ました。
彼女には、白い世界がいきなり黒一色に変わったように見えたことでしょう。
そのまま「バクン」という音とともに、彼女は巨大な蛇の口の中に消えてしまったのです。
そして、何事もなかったように、八岐大蛇が言ったのでした。
「愚かなり。
あの程度の力で我を封じようなどと、思いあがりも甚だしい」
蛇と化した右手を元に戻し、口角を上げた彼に、
「あの、なにか助けて欲しいとか言っておられませんでしたでしょうか・・・。」
テンちぇるちゃんが言いましたが、
「うむ・・・、そうであったかな・・・。」
気まずい空気が支配し始めた中、彼は口許を扇子で叩きながら言ったのです。
「どうやら探している妖はここには居らぬようでもあるし、帰るとするか。」
二体が何事もなかったように元の洞窟に現れ、外に出ると、
「わざわざ他の物に与えてやる義理もあるまい。
安心せよ、使いが必要となった時には、我が掘り返してやろう。」
とさらに山壁を崩落させ、再び洞窟を埋めてしまったのでした。
「ふむ、これだけ探しておらぬとは、どうやらそなた達の情報が間違って
いたようであるな。」
全く疲れを見せていない彼に対して、一日起伏のある山を歩き回り、空を
飛び、洞窟深く潜ったテンちぇるちゃんは、かなり疲れが溜まったようで、
ちょっとグッタリとしています。
「そうですね、きっと何かと間違ったのでしょうね。
すいません、一日無駄足を・・・。」
と恐縮してしまっていましたが、八岐大蛇の方は特に気にした様子も
ありませんでした。
「なに、構わぬ。
自分のいる場所に不安があるというのも落ち着かぬもの、なにも無ければ
それで良い。
うむ、使いも今日は疲れたであろう、今宵はゆっくりと休むがよい。
そうであるな、そなたに困り事ができた時は、遠慮せず我に伝えるがよかろう。」
そんな言葉を二言三言交わして八岐大蛇と別れ、とりあえず麓に
向かったのですが、そこで彼女を待っていたのは、赤々とかがり火を焚き、
これから合戦でも始めるのかと辺りにピリピリとした空気を纏った
妖達だったのです。
ですが、彼等は一様に彼女の姿を見て安堵の息を吐くと、一気に緊張の糸が
切れたのでしょうか、その場に座り込んでしまったのでした。
その中から必死の形相で勢いよく飛び出してきた者がいます。
「テンちぇる、無事かっ!、怪我はないかっ!大丈夫なのかっ!」
と、繰り返し問いかけてくる三郎くんでした。
抱きつかんばかりの勢いで迫る彼に、ちょっと引いてしまいましたが、何を
そんなに慌てているのかな?とのほほんとした様子のテンちぇるちゃんです。
「あれ、慌ててどうしたの?。」
キョトンとした様子で小首をかしげる彼女に、三郎君はまじまじとその姿を
見まわして、怪我も変わったところもない彼女の姿に大きく息を吐いたのでした。
「お前だけを置いて皆逃げ出したって言うから、慌てて来たんだけど。
まさか、あんな奴が来ているなんて思ってもいなかったから、反射的に
逃げちまったらしくて・・・。
あいつらには俺や長老達の方から、さんざん説教してやったから、勘弁して
やってくれな・・・。
それに、山の形が変わる程の崩落が起こっているだろ、もしやあいつが
暴れているんじゃないかと守りを固めるのが先決だって言うから、お前を
探しに行く事もできなかったんだ。
クソッ俺さえ一緒にいられたら、あんな奴 熨してやったのにっ!。」
一息に離した彼に、彼女は要領を得ないといった顔でした。
「よくわからないんだけど、あの辺りには、皆が言っていたような力を持った
妖怪や魔物っていなかったんだよ。
『なにかの間違いであったのであろう』って八岐大蛇さんも言ってたしね。
とりあえず、何も居なかったんだから安心だよね。」
と、笑顔で言う彼女に、三郎くんの疲れた声が聞こえました。
「・・・あいつが・・・、それだってえの・・・。」

 とある山奥の古代の荒神を奉じる神社で、祭祀を行う者達の上に、キラキラと
輝きを放ちながら幾つもの金属が舞い落ちてきました。
最初は、それらが当たるため皆頭を庇って迂往左右して逃げ惑っていましたが、
金属特有の澄んだ音色を立てて石畳にふり続ける物が何かと判った瞬間、
それらが当たる痛みをものともせず、皆が我先にと拾い集め始め、神への賛辞を
口にしたのでありました。
また、とある屋敷には3つの木箱が届けられました。
そこの女主人は、それらを見ると、
「呆れたものじゃな、あ奴は程というものを知らぬのかへ。
その一箱だけでよいわ、後は叩き返しておけ。」
と、部下に命じたのです。
それからというもの、
「「一度渡した物を受け取るような情けない真似ができると思っておるのか。」」
と互いの間を千両箱が移動する事となったのでした。
「・・・ゼイゼイ・・・六尾様ゼイゼイ・・・皆もう・・・これ以上・・・ゼイゼイ走りますのは・・・。」
自らも息を切らせながらも走り続ける六尾は、振り向くことなく言ったのです。
「・・・ゼイゼイならば、それを九尾様に申す事だ。
・・・言っておくがゼイゼイ・・・九尾様は私ほどお優しくはないと思うがな・・・。」
「・・・、ゼイゼイ・・・、走ります・・・。」
「・・・ゼイゼイ、よい判断だ・・・ゼイゼイ。」
そして、精も根も尽き果てても、木箱を持ち往復し続ける六尾達の姿が
霧の向こうに消えていきましたとさ。

「知らなくても困らないおまけのショート」
「病魔が来たョ 島国さん♪」

 大陸で猛威を揮っていた新しく生まれた病魔が、ついにこの国に上陸して
しまいました。
あちらでは、治療法も未だ確立しておらず、取り憑かれた人は、自らの持つ抵抗力と
体力によって回復するしかなく、パンデミックを巻き起こしていたのです。
それが、国境を越えた人の移動に伴い、世界中の国々に広がっているのです。
そんな恐ろしい病魔が、観光客に憑いて、この街にやって来てしまったのです。
「へっへっへっへっ、この国じゃ大きな都市があるって聞いてきたのに、
ここはえらく古臭い街じゃねえか。
まぁいいや、ここを手始めに、この国中を俺様の力で阿鼻叫喚の坩堝にして
やるとしようか、げっげっげっげ。」
その病魔がついと前を見ると、なにやら大きな生き物が動いているのが見えました、
病魔は小さく、取り憑いた相手の中で自分の分身を増やしていくものですから、
ほとんどの動物は彼に比べて大きな物に違いはありません。
「へっへっへっ、まずはあいつに取り憑いて事の始まりとしてやろう。」
と彼の前で動いている動物に向かって行ったのですが、どうした事か
上手く取り憑く事ができません。
「あれ?、畜生、どうなっていやがんだっ。
なんで取り憑けねえんだ?。」
なんとかその動物の身体に侵入しようとしましたが、何度やっても
跳ね返されてしまい、侵入する事はおろか、身体にしがみ付く事すら
できないのです。
「なんだ、どうなってやがんだ。」
と、一旦離れてその動物の様子を見ていると、いつの間に近づいていたのか、
彼にとっては空全体を覆いつくすほどの黒い影が頭上にあったのです。
しかし、特別な道具や特別な力がないと、小さい彼を見る事はおろか、
感じる事さえもできないはずです。
「ちっ、驚かすなよ。」
それでも何かを感じたのか、彼の額から一筋の汗が流れ落ちました。
それが合図となったのか、何の感情も感じさせない巨大な目玉が、彼を
捉えたように見えたのです。
「偶然だ、偶然、俺を見る事なんてできないんだから・・・。」
なぜか、彼の言葉はしりすぼみに消えていきました。
何の感情も見せないその巨大な目玉は、明らかに彼の存在を捕えていたのですから。
一旦上空に上がったその頭は、まっすぐに彼の上に降りてくると、何の躊躇もなく、
病魔を一飲みとしたのです。
「七よ、何を喰った?」
隣の影から声が聞こえてきました。
「三よ、多分厄病神の類だと思うが、初めて見る奴であった。」
他の影からも声が聞こえてきます。
「また厄病神か、懲りない奴であるな。」
「いや、初めて見る奴であった。
あれとは違う類のものだと思うが、あまり美味くはなかったな。」
「まぁよい、我に取り憑こうなどと、片腹痛いわ。」
「くっくっくっ、本当に片腹が痛くなれば困るがな。」
と笑い声を残し、八つの首を擡げ、巨大な胴体をくねらせた八岐大蛇は
いずこへとなく消えていったのでありましたとさ。

「注釈」
○注1、遮光器土偶 : 縄文時代の遺跡から出土される土偶の一つ。

土偶と言えばこれを思い出すぐらいにメジャーで、主に東北地方から
出土されますが、この土偶の模倣された物は北海道南部から中部、近畿地方まで
広く出土されています。
特徴として、イヌイットやエスキモーが使うスリット式のスノーゴーグルにも似た
物を付けたような顔ですが、これは現在では目を大きく誇張したものであると
考えられています。
ピカソの抽象画は、この土偶からイマジネーションを受けたものと聞いた事は
ありませんので、きっと関係はないのではないかとおもいますう。
○注2、大判 : 一般的に大判小判と併記されますが、全くの別物です。
小判は通常の支払いなどにも使用されますが、大判の場合褒賞や贈答品として
用いられるもので、一般的な物ではありませんでした。
大判にも幾つかの種類があり、秀吉の天正大判、家安の慶長大判、
江戸幕府が1843年に幕府の財政破綻を補うために鋳造した金銀貨の天保大判が
有名です。
天保に作られた小判、銀貨は枚数を増やすために質が悪くされていましたが、
大判のみは質が維持され天正、・慶長大判と同水準の物となっていました。
重さは165gで、現在の価値は古銭的な価値や、保存状態などによって大きく
左右されますが、大体160万円~190万年ほどで取引されているようです。
重さだけで言うのでしたら、金んの地金としての価値は、120万円程でしょうか。
これもぉ、金の相場が変動しますしぃ、正直なところ価値的な物は、よく
判りませんでした。
千両箱一箱で1億数千万円ぐらいにはなりそうですので、部屋の修理代には
十分過ぎるのではと思いますぅ。
あっ、超高級家具や装飾品がありました場合には、あまり考えたくはないですね。
○注3、千両箱 : 元々小判を千両入れられる所から千両箱と呼ばれるように
なったのですが、大判なら百枚、一分金なら四千枚入れられるものであり、
意味的には千両分の貨幣が入れられる箱と言う意味になります。
さらに、そうなりますと、それぞれの貨幣で必要な容積が違ってきますので、
貨幣の種類で箱の大きさも違っていました。
ただ、多くの場合、千両箱と言うと小判用の物を指し、標準的な物としましては
松や桧で作られ、角や縁に鉄板を付けた物や青銅製の物もあり、大きさは、
縦40cm、横14.5cm、深さ12.3cmの物が比較的多かったそうです。
箱の重さだけで3kgほどもあり、小判を入れました時には20kgほどにもなった
そうです。
こんな物を担いで、屋根から屋根に飛び移った鼠小僧に代表される当時の盗人の
皆さんって物凄い足腰の強さと底抜けの体力を持っておられましたのですねぇと
感心してしまいます:笑:。

第21話 お・し・ま・い・♪。
(2022.4 by HI)

◆ ◆ ◆

このお話を読んで思い出したのは、娘が小学校の時の二人の校長先生のこと。
(ああHIちゃん、いつも感想がタイムスリップしてしまう私をお許しください)
おひとりは、保護者が学校に来る集会などの機会がある度、
いつも学校や生徒のためにご自分がしたことをお話しされました。
もうおひとりは、子ども達が日々どんなことをしているかを話してくださいました。
前者の校長先生は、あるとき学校の周りにたくさんの警報ベルを取り付けました。
そして犯罪の溢れる社会から子どもを守るために自分がどれだけ力を尽くしているかを力説されました。
その声を聞きながら、私はとても悲しくなりました。
世の中は犯罪者だらけだ!敵から身を守るように!そう教えられた子ども達が
人を排除する社会を作り、それが犯罪を生むのではないか、と。
後者の先生は、警報ベルではなくビオトープを作り、命の尊さと共存の喜びを教えてくださいました。
畑で自ら野菜を育て、生命の恵みへの感謝の心も育んでくださいました。
朝は生徒と一緒にグランドを走り、子ども達と目線を合わせて言葉を交わされました。

テンちぇるちゃんは探してみたよ。
けれども、みんなを不安にするものは何も見つからなかったよ。
代わりに見つかったのは、敵探しよりもっと大切なことがあるということ。
見つけたのは、そう、このお話を読んだ私たち。 そしてもしかしたら、ポーカーフェイスのウォンテッド。

現実はお話の通りではないことだってある。
でも、敵と見誤っているものが、実は恐ろしい病気の侵入や混乱を防いでくれたその人、
そんなことだって現実にいくつも起こっているかもしれない。

こんな感想を書いたけど、もう一度お話を読み返してみたら妖たちはちっとも悪くなかった。
身を寄せ合って仲間を守り、懸命に生きる者たちのいじらしさも、卓越したものの孤独も、
愛情部会眼差しで描きながら、添えられた後書きではそんなことより、と言わんばかりに
大判の価値を知るためのご苦労を語られるHIちゃん。
面白いなあと笑いながらふと、書籍編纂に携わったときの、ほんの一つの言葉の
裏を取るのに何時間もかけて確かめた日のことを思い出しました。
HIちゃん、いつも心から感謝しています!

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