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番外編第8話

鬼ヶ島だょ 桃太郎さん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

昔昔ある所にお爺さん(注1)とお婆さん(注2)が住んでいました。
ある日、お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯にいきました。
お婆さんが洗濯をしていると、川上から大きな桃が、どんぶらこっこ
どんぶらこっこと流れてきたではないですか。
驚いたお婆さんでしたが、
「あんな大きな桃を持って帰れば、お爺さんも喜んでくれるでしょうね。」
とザブンと川の中に飛び込み、シュタタと泳いで桃に近づくと、
「ふんぬっ!」
と掛け声も勇ましく、両手で桃を持ち上げ、そのまま立ち泳ぎで岸まで
泳いで行ったのでした。
その桃を家に持ち帰り、お爺さんの帰りを待っていますと、庭から辺りを
揺るがす大きな音が響いたのでした。
お爺さんが帰ってきたかと、お婆さんが庭を見てみますと、何人が手を繋げば幹を
一回りできるかという太さで、悠々と家の屋根を越える高さの大木が
庭に突き立てられていたのです。
その陰からひょっこりと顔を出したお爺さんが
「なんじゃ、婆さん、今日は早いな。」
と何気に大木に手を振り当てると、スパッと大木の幹が切れたではないですか。
倒れてきた大木を片手で受け止めると、再び地面に突き立て、手刀で幹を切り、
それを地面に突き立てては幹を切るを繰り返したのです。
まるでダルマ落としのように、見る見る大木の高さが低くなっていきます。
「あらあらお爺さん、そんなに沢山木を切ってどうするんですか。」
お爺さんは、手を休めずに言いました。
「今年は雪が多そうじゃから、村の皆にも薪(まき)を分けてやろうと思ってな。」
輪切りにした大木を、スパーンッスパーンッと今度は縦に割っていきます。
傍らには、次々と薪となった木の山が、既に幾つもできていました。
お婆さんは、少々呆れながらも、いつも人の為に働こうとするお爺さんを、
誇らしく思うのでした。
「お爺さんや、そのぐらいにして、一休みしませんか。
川で大きな桃を拾ってきたので、一緒に食べましょう。」
お爺さんも流石に少し疲れたのか、手拭で汗を拭きながら
「そうじゃのう、ちょっと一休みするとしようかのう。」
とお婆さんと一緒に、桃の置いてある居間に行ったのでした。
そこには、お爺さんも見た事のない大きな・・・、いえ巨大と言ってよい桃が
鎮座ましましていたのです。
「おぉっ、これは、なんと大きな桃じゃ。
これほど大きな物はワシも初めて見たぞ。」
それは見た目こそ、そこらにある桃と同じでしたが、高さはお爺さんと
同じぐらいもあり、胴回りに至っては、大の大人が四人ほど手を繋いで
やっと囲める程度はあるでしょう。
「ふむ、これは食いでがありそうじゃな。」
と半身となり両足を開くと、肘を曲げ、捩じった上半身の勢いのまま
「キィェエエェェェェェェイッ!」
と気合一閃、残像を残した手刀を桃に叩きつけたのでした。
それは、見事に桃を真っ二つに切るはずでしたが、桃の半ばで止まってしまい、
抜く事も押す事もできなくなってしまったのです。
ですが、お爺さんの手刀はその速さ故に衝撃波を伴っており、手は
桃の半ばで止まったとは言え、桃を完全に二つに割っていたのです。
ゆっくりと花が開くように左右に分かれていく桃の中には、なんと、お爺さんの
手刀を両手で挟んだ「白刃取り(しらはどり)」で、見事に受けとめた乳児が立っていたのです。
しかし、乳児の顔はヒクヒクッと引き攣っていました。
まさか、いきなり脳天から叩き割られそうになるとは夢にも思っていなかった事で
ございましょう。

(CMキャッチ)
「テンチェルちゃん」「テンチェルちゃ~ん」「テンチェルちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 あれから、随分と年月が経ち、あの時お爺さんの手刀を受け止めた乳児も、
今では15歳になり、まだ子供らしさは目立つものの、立派な体格の若者と
なっていました。
毎日お爺さんと山に行き、柴刈は元より、猪や鹿、たまに熊なんかも素手で
仕留めて、お爺さんを「うんうん」と喜ばせています。
ある日、三人が、慎ましくも楽しく暮らしていた家に、都から一人の男が
尋ねてきました。
彼は、お爺さん、お婆さんとも顔見知りのようで「こんな所によう来られました、
何もございませんが、さぁさぁ上がって、上がってくだされ。」
と、高貴な身形の男を家に迎え上げたのです。
彼はお爺さんのかつての盟友の孫で、、最近の町の様子や、流行、身の周りの
出来事を面白可笑しく話、お爺さんとお婆さんを大いに喜ばせたのでした。
しかし、話もそろそろ尽きようかと言う頃に、お爺さんの目が鋭く光ったのです。
「大変に面白いお話でしたが、よもやこのような山の中までそんな話をするために
来られたのではございますまい。
そろそろ本題に入られましてはいかがかな。」
陽気に語っていた彼もまた、それまでの様子が嘘のように居住まいを正すと、
両の手を床につけ、深々と頭を下げたのでした。
「御身が既に隠居され、俗世から身を引かれています事は重々承知の上で
お願いしたき事がございます。
このところ、都では鬼と言う怪しげな者どもが闊歩し、家に押し入り財物を盗むを
始め、打ち壊し、放火、あまつさえ人を殺める事にも躊躇せず、都の町民は日々を
怯え暮らし、お上も心を痛めておられます。
我らとて見過ごしていた訳ではございません、手勢を集め、奴らが現れる度に
迎え撃ったのでありますが、あ奴らの前に屍を積み上げる事しかできなかったので
ございます。」
床に付けた彼の手が強く握りしめられ、細かく震えていました。
「無念でございますが、我らにはもはや奴らを討伐する力はございません。
しかし、かつて都に、この国中に知らぬものはいない程の豪勇を轟かせられた
貴方様でございますれば、必ずや鬼どもを征伐されます事も適いましょう。
お願いでございます、情けない見苦しいとお思いになられましても構いませぬ、
どうか、我らにお力添えを下さいますよう、平にお願いいたします。」
深く頭を下げたまま動こうとしない彼に、お爺さんが声をかけました。
「そうでございましたか。
都がそのような事になっていましょうとは、お上もご心痛な事でございましょう。」
彼はガバッと勢いのままにその身を上げると、
「では、お力添えを頂けるとっ!」
しかし、彼の期待に満ちた表情に対して、お爺さんの表情は優れぬもので
ございました。
「じゃがの、十年も前でございましたら、二つ返事でお受けいたしましたので
ございますが、私も歳を取りましてな・・・。」
ついと庭に向けたお爺さんに続いて、彼もつられて庭に目をやりました。
そこには二人が手を繋いでどうにか周りを囲う事ができそうな大木が土に
突き刺さっていました。
その周りには、適度な大きさに割られた薪が山積みになっています。
「お恥ずかしい話ですのじゃ・・・。
かつての力はもはやありはいたしません、今ではあの程度の木を割るのが
精一杯ですのじゃ。
あれでは、せいぜい鬼の数体も倒せれば御の字と言うものでございましょう。」
申し訳なさそうに目を伏せるお爺さんに、彼は
「十分じゃねっ・・・。」
と思いながらも、
「もちろん、我らも兵を出します。
それらと御身のお力を併せますれば、鬼の一段など鎧袖一触にっ!。」
しかし、お爺さんはゆるゆると首を振るだけだったのです。
「例え、兵の千、万を集めましたとしましても、鬼に敵うものではございませぬ。
逆に、私が兵を守らねばならぬ事となり、言い方は悪うございますが
足手纏いにしかならぬでございましょう。」
二人の間に重い沈黙が降りてきました。
無理を承知で頼みにきた彼と、力になりたいが、自分の力が及ばないのを
自覚しているお爺さんのどちらも、それ以上の言葉を見つける事が
できなかったのです。
そんな二人の沈黙を破るように、後ろの襖が静かに開けられました。
誰かと後ろを振り向いてみますと、そこには、桃太郎が居住いを正し
座っていたのです。
二人が桃太郎に顔を向けたのを確かめ、彼は話し始めました。
「お爺様、お話を勝手に聞いてしまい申し訳ありません。
なにやら、そちらのお方がお困りなご様子。
お話の具合から、お爺様がかつてお世話になられたお方でございましょう。
であれば、私にとりましても大恩あるお方と同じでございます。
どうぞ、この桃太郎に鬼を退治に行かせて下さい。」
グッと力を込めて見つめる桃太郎に、お爺さんは顔を顰めたのでした。
「桃太郎よ、お前の気持ちはありがたいのじゃが、お前如きでは、まだまだ鬼に
敵うものではない。
己の実力を見誤るは自ら死に近づく事じゃぞ。」
それでも桃太郎は一歩も引きませんでした。
「では、お爺様に勝負を申し込みます。
もし私が勝ちましたならば、どうぞ鬼退治に行くことをお許しください。」
その言葉を聞いた瞬間、お爺さんの身体が数倍に膨れ上がったように見えました。
しかもその形相は鬼神も裸足で逃げ出そうかと言う恐ろしいものとなっていたでは
ないですか。
「調子に乗るでないわ小僧っ!。
己の実力もわきまえず、私に勝ったらじゃと。
よかろう、勝ったらと言わず、私に一太刀でも浴びせる事ができたなら、
鬼退治に行く事を認めてやろう。
ただし、手加減してもらえるなどと努々(ゆめゆめ)思わぬ事じゃ。
婆さん、私の鉞(まさかり)を用意してくれ。」
傍らで静かに成り行きを見守っていたお婆さんが「どっこいしょ」と立ち上がり
ました。
「アレは重うて大変なんですよ、一本でよろしいですかのう。」
「あぁ、さすがに昔のように二本を振りまわす事はもう無理じゃ。
じゃがな、桃太郎程度なら一本で十分じゃ。」

(CMキャッチ)
「テンチェルちゃん」「テンチェルちゃ~ん」「テンチェルちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 二人が庭に立ち、お爺さんは、自身の身長の倍はありそうな鉞を持ち上げ
その状態を確かめています。
高く持ち上げ、陽光に翳し、納得がいったのか軽く頷き両手で構えると、
目の前に突き刺さったままになっていた大木めがけて、それを振ったのでした。
それは正しく剛腕の一言に尽きました。
両手持ちでありながらも、その速度はまさに光の奔流が大木を擦り抜けて
行ったとしか見えなかったのです。
そして何事も無かったように、鉞を杖のように立てたお爺さんが「どうじゃ」と
桃太郎に振り向いた背後で、その大木がバラバラと崩れ出し、薪の束と
成り果てたのでした。
桃太郎の顔は少々どころか、見事に引き攣ってしまっています。
「今からでも謝れば許してもらえるだろうか・・・。」
これまでも、お爺さんの実力は見てきたつもりでしたが、どうやら真の実力を
見せてくれてはいなかったようです。
「どうじゃ、桃太郎、止めておくか?。」
なんとも魅惑的な提案でしたが、軽く頭を振ってその考えを振り払うと
「何を仰るかと思えば、止める理由などどこにもないでございましょう。
それとも、お知り合いの前で負ける事は嫌でございますか?。」
お爺さんの顔から表情が消えていきます。
代わりに闘気がその身から溢れ、その姿を一回りも二回りも大きく見せたのです。
「よかろう、ならばさっさと獲物の用意をせいっ!」
その時、桃太郎の手にしていたのは、お爺さんの鉞に比べれば子供の玩具のような
木刀一本だけだったのです。
しかし、その事に悪びれた様子もなく、彼は言ってのけました。
「ええ、私ならこの木刀一本で十分でございます。
さぁ、お気になさらず、撃ちかかって来てください。」
両手で木刀を構えた彼の姿に、お爺さんの怒りが爆発しました。
「よくぞ申した、婆さんや、もはや止めても無駄じゃ、己の実力すら計れぬ者に
未来なぞないも同然じゃっ!。」
と、鬼神もかくやと言う凄まじい形相となったお爺さんが、鉞を振り上げ
大地も裂けよとばかりの踏み込みを見せたのでありました。
まさに文字通りお爺さんの足は、踏み固められた土を陥没させながら足首まで
埋め、それは脛から膝の下そして上にまで進み、太股に達しようかと
言うところに至り、流石に慌てたお爺さんでしたが、なまじ後ろの足が
地面に残っていたため、バランスを維持する事もできず、その勢いのまま
身体を地面に打ち付ける事となってしまったのでした。
地面に激突した衝撃がお爺さんの身体を駆け抜け、何が起こったのかを
理解するより早く、その首に木刀が添えられていました。
「私の勝ちにございますね。」
笑顔を浮かべる桃太郎の顔を見上げ、お爺さんにもようやくと状況が
飲みこめたのでした。
落とし穴。
二人の間に落とし穴が掘られており、見事それに引っかかってしまったのです。
その事に、再び頭に血が昇りそうになってしまいましたが、先ほどからの
桃太郎の挑発じみたもの言いは・・・、普段使っている庭だからこそ、どんなに
巧妙に隠されていたとしても気付かぬはずのないワナ、それから目を
反らせるための・・・。
そこまで思い至った彼の身体は細かく震え始め、それは身体全体から発する
大笑いとなったのでありました。
「ふわっはっはっはっはっ、負けじゃ負けじゃっ、私の負けじゃ~!。
どうやら己の力に溺れ、目が曇っておったのは私の方だったようじゃ。
見事じゃ桃太郎、鬼退治、もう止めやせぬ。
渡辺殿、どうでございましょう、この桃太郎に任せて頂いてよろしいかな。」
軒先から二人の闘いを見ていた彼は、頷くしかなかったのですが、
「別に爺さんでいいんじゃね・・・。」
との言葉は心に仕舞っておく事にしたようです。

(CMキャッチ)
「吹雪さん」「吹雪さ~ん」「吹雪さぁ~ん」
「ハァ~イ、雪に代わってお仕置きよ♪」

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