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番外編第8話の続き

鬼ヶ島だょ 桃太郎さん♪ ~其の弐~


「吹雪さん」「吹雪さ~ん」「吹雪さぁ~ん」
「ハァ~イ、雪に代わってお仕置きよ♪」

 そしてついに桃太郎が鬼退治にいく日がやってきました。
その日の朝、お爺さんは立派な箱から鎧兜を一揃え出し、懐かしそうにそれを眺め
言いました。
「桃太郎よ、これは私が若いころ使っていた物じゃ。
もう何十年も着てはおらんが、手入れは怠っておらぬから、安心して使うがよい。
私も、これを着て渡辺殿、碓井殿、卜部殿と大江山の鬼退治に行ったのじゃ。
この傷を見てみるがよい。」
お爺さんが示した鎧の胸の部分には、深々と抉られた3本の線が入っていました。
「これは、酒呑童子(しゅてんどうじ)と言う大江山の鬼の大将が死に際に放った
爪が付けた傷でな、奴をもう倒したものと皆が油断した時に、奴の最後の
一振りを避ける事が出来なかったのじゃ。
後、一寸も奴に近ければ、私は既に鬼籍に入っておったじゃろうな。
それを戒めとするためにも、この傷は直す事をせずそのままにしてあるのじゃ。
よいか、桃太郎よ、鬼は強い。
人がどう足掻いても、勝てる見込みなど無い相手じゃ。
心に刻んでおくがよい。
それにしても、大江山の鬼を退治した私の息子が、今度は鬼が島の鬼退治に
行くとは、人の運命などとは判らぬものじゃな。」
さて、これでよかろう。」
そこには、鎧兜を着けた立派な少年が立っていました。
そして、これを持って行くがよい。
大江山の鬼退治の褒賞にお上から賜った刀「鬼切丸(おにきりまる)」じゃ。
今日のために頂いたような物じゃ、存分に使うがよかろう。」
鞘から刀身を引き抜き、光に翳すと、それはそれは見事な作りの一振りで
あったのです。
「お爺様、このような素晴らしい刀を・・・。」
「名刀も使わなければ飾りにしかならんものじゃ。
鬼切丸に恥じぬ闘いをすればそれでよい。」
桃太郎はお爺さんに静かに頭を下げたのでありました。
「おやまぁ、これは見事な出で立ちではないですか。
まるで、若いころのお爺さんを見ているようですね。」
入って来たのはお婆さんでした。
ほれぼれと桃太郎を見つめるお婆さんの手には、小振りな袋が握られていました。
「桃太郎よ、これは私が作った『ツキビ団子』です。
私の故郷に古くから伝わる物で、満月の光を集めて作った団子です。
これを求めて誰かがやってくるかもしれません。
その者に、お前の願いを伝えて渡してやっておくれ。
ですが、その者達を決して粗略に扱ってはなりません。
その者達は、必ず桃太郎の願いを叶えるための力となってくれるはずですから。」
そういうとその袋を桃太郎に渡したのでした。
ツキビ団子を入れた袋を腰に下げた桃太郎が家の門を出てきました。
頭に兜を被り、鎧を身に付けた出で立ちは、真に見事な姿であり、見送る
お爺さんとお婆さんも誇らしげに並んで手を振っています。
桃太郎も、家が見えなくなるまで、振りかえり振り返っては、手を振り
返していましたが
「この鎧兜って、闘いの前に着ればよかったんじゃね・・・。」
と、笑顔のまま思うのでありました。
そしてそんなお爺さんとお婆さんの姿も見えなくなり、一人山を越え、谷を渡り、
林を抜け、一路鬼ケ島を目指していますと、犬(注4)が彼に近づいてきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰に着けたツキビ団子、一つわらわに頂けぬか。」
その犬は、ミカン色の髪をし、真っ白にお白いを塗った顔、に仕立ての良い高貴な
着物を着た、桃太郎より年上の女性でした。
お白いに隠れてはいますが、綺麗なお顔をされています。
あまり女性に接した事のない彼は、顔を赤く染めながらも、お婆さんの言葉を
思い出しました。
「あげましょう、あげましょう、これから鬼の征伐に付いてくるならあげましょう。」
と、こうして、犬が桃太郎の仲間となったのです。
桃太郎と犬は、旅を続け、幾つもの山を越え、河を渡り、林を抜けました。
すると、どこからか今度は猿(注5)が現れたのです。
「桃太郎はん、桃太郎はん、お越しに着けたはるツキビ団子、お一つうちにくれはりゃへん。」
その猿は、透き通るような白い肌に青味がかった髪をしており、白い着物の裾を
ゾロリと後ろに流した女性でした。
桃太郎より年上の女性で、冷ややかな表情をされていましたが、綺麗な顔立ちを
されています。
犬との旅で、かなり女性には慣れてきたとはいえ、まだまだ女性との接点の
少ない彼は顔を赤らめながら言いました。
「あげましょう、あげましょう、これから鬼の征伐に付いてくるならあげましょう。」
こうして猿が、桃太郎の仲間となりました。
三人となった桃太郎一行は、再び歩を進め、山を越え、湖を渡り、道を塞いでいた
大岩は桃太郎の拳の一撃で撃ち砕きました。
さすがは鬼退治をしようとするだけの事はあります。
犬と猿の二人も何かをしようとしていたのは、黙っておいた方が精神衛生上
良いのかも知れませんね。
そんな道中、今度は雉(注6)がどこからか現れたのです。
いつの間にか桃太郎の後ろに立っていた雉が、肩を叩き振り向いた彼を大いに
驚かせました。
「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰に付けたツキビ団子、一つ私に下さいな。」
その雉は、髪や目の色は桃太郎と同じで、この国には珍しくない黒色でした。
それだけで、なんとなく親近感を持ってしまいましたが、茶色の袴に緑の上着、
そして羽衣とか言うのでしょうか、両手に絡めるようにした薄桃色の薄い帯を
ふわふわと頭の上に棚引かせていました。
そのぐらいなら、桃太郎の知っている女性の反中ですので、どんと来いです。
でも、姿形を見知っているだけに、逆にその顔の美しさも判ってしまい、
頬を赤らめながら言ったのでした。
「あげましょう、あげましょう、これから鬼の征伐に付いてくるならあげましょう。」
こうして四人となった桃太郎一行は、再び鬼ヶ島に向かい歩みを進めたので
あります。

(CMキャッチ)
「千絵理さん」「千絵理さ~ん」「千絵理さぁ~ん」
「ハァ~イ、桜に代わってお仕置きよ♪」
 やがて遠目にも、鬼ヶ島の姿が海の向こうに見えてきました。
ここまで険しく長い道のりでしたが、あまり苦労はしていなかったりしています。
最後の村を出る時には、
「この先には人は誰一人として住んではいません。
 妖怪や化け物と呼ばれる者達が横行し、鬼ヶ島に近づくにつれ、どんどん
強い化け物が出てくるのです。
幾人もの腕に覚えのある方々が『任しておけ、鬼の首と宝を持って戻ってくる』と
自信満々に出立され、未だに誰一人として戻って来られた方はおられません。
こんな事を言いますのは失礼かとは思いますが、途中で引き返されても
だれも謗る者はおりません。
どうぞ、お命を大切にして下さいませ。」
と、村人全員に、似たような事を言われ出立したのですが、聞いていたような妖怪や
化け物の類に襲われたことはただの一度もなかったのです。
大体は遠目に見えても、そのまま去っていくだけなのでした。
たまに遠くに見えた妖怪か化け物が近づいてこようとする素振りを見せる事も
ありましたが、途中で慌てたように離れて行くのです。
桃太郎は「言うほど危険な場所ではなさそうだな。」と緊張が弛んでいましたが、
後ろで犬がその化け物達を睨みつけていた事には気がついてはいませんでした。
世の中、知らなければ幸せでいられるって事は、沢山ありますからね。
小舟で海を渡り、鬼ヶ島の浜に漕ぎ着け、いよいよと上陸いたしますと、
そこは鬼の手によって、要害と化した島となっていました。
岩山のあちらこちらには高い櫓や塀が張り巡らされ、至る所に掘られた横穴からは
多くの鬼達が出入りを繰り返しているのが見えます。
今上陸した砂浜の正面には岩壁に挟まれた、見るからに頑丈な大門が
威容を誇っています。
「もうちょっと、島の情報を集めてから来た方が良かったかな・・・。」
とそれらを見上げる桃太郎に、耳をつんざく大声が降りかかってきたでは
ないですか。
「がっはっはっはっはっ、どこの誰かは知らんが、鬼ヶ島にようこそっ!。
なぁんにも持て成しはできんが、ゆるりと楽しんで行ってくれやっ!。」
当然ですが、桃太郎達一行は、鬼に見つかっていたようですが、なかなかに
フレンドリーな鬼のようで、ひょっとしたら友好的に迎えてくれるのではと彼に
少しの期待を抱かせてくれました。
ですが、門や塀の上に現れた鬼達は、それぞれが手に手に弓を持ち、桃太郎達の
返事を待つことなく怒涛の如き勢いで矢を放ってきたのです。
その数や、まさに大雨の降り注ぐ勢いで、矢の数のため、太陽の光が遮られた程で
ありました。
これ程の数が一時に降りかかってくれば、避ける事などできようはずが
ありません。
桃太郎は鬼切丸を引き抜くと、皆の前に出て、刀で矢を撃ち払おうとしましたが、
そんな四人を取り囲むように、冷風が吹き始めたのです。
それはすぐに冷風どころか、氷粒を含んだ竜巻となり桃太郎達四人のいる
場所より外側の地面を凍らせながら彼らを包み込んだのでありました。
そして降り注いできた矢を弾き返し、氷粒で金属の矢じりですら削り砕きながら
全ての矢を叩き落としたのです。
それを見ていたのでありましょう、矢が効かぬと判断した鬼達は、門を開け、
まさに津波が押し寄せるが勢いで無数の鬼が押し寄せてきたのです。
鬼の誰もが、たった四人のそれも女子供に負ける事など考えておらず、
頭には、その少ない生贄を誰が手に掛けるか、いかに残酷に殺すかしか
なかったのです。
鬼のギラギラと脂ぎった眼と、鋭く剥き出しにされた牙、筋肉の塊の腕に握られた
棍棒、槍、刀を振りかざし、もはや雄叫びどころか、地鳴りとしか聞こえない
声を上げながら、赤、青、黒の鬼達が至近距離まで迫ってきたのです。
いかに氷の竜巻に守られているとはいえ、これだけの数を押し留められるか
判断が付きませんし、矢と違ってなにか対策を立てて来るかも知れません。
桃太郎は抜いたままになっていた刀を両手で構え、いつ鬼が飛び込んできても
良いように三人の前へと一歩踏み出しました。
しかし、いつのまに竜巻の外に出たのか、ふらりとした様子で雉が鬼達の前に
立っているではないですか。
「何をしているんだ、戻れっ!」
と、桃太郎が声を上げる前に「獲物が自分から出てきやがったっ!」と鬼の群れが
雉に襲いかかったのです。
一体の鬼が、ただ相手に断末魔の声を上げさせることだけを考え、振り降ろした
棍棒は、標的を打ち払う事無く空を切り、その鬼がそれを疑問に思う前に、
雉の拳によって天高く打ち上げられていたのです。
彼は幸せだったかも知れません、地面に叩き付けられる痛みを感じる前に
意識を刈り取られていたのですから。
何事もなかったように、雉がふらりふらりと前に進んでいきます。
彼女が一歩進めば、一体の鬼が宙を舞い、二歩進めば10体の鬼が宙を舞いました。
しかも彼女の歩みは一歩毎に速さを増し、まさにその場に鬼など居ないかの如くに
前に進み、空を舞う鬼が一点ずつだったものが、線となり、面となって
空を舞うまでに時間は必要ありませんでした。
宙を飛ぶ鬼の全てが、白目を剥き、苦悶の表情を浮かべ、口からはあまり
文章にしたくない物を吐き出しながら空を舞いました。
みるみる内に数を減らしていく鬼の群れに、鬼の頭(かしら)の赤鬼が残った鬼達に
雉から離れるように指示を飛ばしました。
そして大門を閉めると、門の上に立ち、大声で言い放ったのです。
「人にしてはなかなかに天晴だと褒めてやろう。
だがな、俺達がこの程度の事を考えていなかったとでも思っているのか。
こんな時のために、切り札を用意しておくのが当然ってもんだろうっ!。」
大きく高笑いをすると、後ろにそびえる高い岩山に向かって
「用心棒の旦那っ、出番ですぜっ!。」
と大声で叫んだのです。
その声に応じて、いきなり岩山どころか島全体が瘧に震えるように激しく
震動し始めたではないですか。
その変化に、異常を感じた雉は、すかさず桃太郎の元に引き返しましたが、
彼ら四人が見つめる中、岩山の頂が弾け飛び濛々たる黒煙が噴き出したのです。
「まさか噴火か。」
と身構えたのですが、その噴き出した黒煙は、みるみる内に実体化し、
八つの頭を持つ大蛇と化したのです。
その姿は、巨大な岩山を優に数巻きはできるであろう長さを持ち、その太さは
何人が手を繋げば囲む事ができるでしょう。
巨大な口は牛や馬でも軽々と一飲みにでき、その爬虫類独特のなんの感情も
見せない眼だけでも桃太郎より大きな物だったのです。
その威容に流石の桃太郎も刀を手にしたまま、一歩後ろに退いてしまった
ほどでした。
「こんな怪物と、どうやって闘えばいいんだっ!。」
タラリと彼のこめかみから一粒の汗が流れおちると同時に、それまで静かに
戦いの様子を見守っていた犬が桃太郎の横にやってきました。
ですが、その姿は、白塗りの顔に、高貴な着物ではなく、黄金色の毛並みを持ち、
一本一本が身体と同じぐらいの大きさの九つの尻尾を持った動物へと変わって
いたのです。
そして、大きな声で「コーンっ!」と一泣きすると、氷粒の竜巻をものともせず
擦り抜け、空高く駆け上って行ったのでした。
それはまさに、天を裂き、地を砕く闘いでありました。
大蛇のそれぞれの口からは、長く火を引く炎が大地を灼熱の地獄と変え、
火炎弾が地面を粉砕し、吐き出す毒ガスは触れる物を腐敗させ、無数の氷の槍は、
当たる物を貫き串刺しとし、他の頭からも雷、風の刃、水圧の固まり等を
飛ばしながら犬に襲いかかって行ったのです。
大蛇に比べれば小さな身体の犬は、その素早く変幻自在な動きで巨大蛇を翻弄し、
当たる攻撃は、九つの尻尾がその力を相殺し、口から吐き出す炎は、蛇に致命傷は
与えられないものの、少しずつ大蛇の身体に傷をつけていったのです。
しかし、いくら犬が優勢と見えても、もし大蛇の攻撃がまともに当たれば、
その身は、簡単に痕も残さず消え去ってしまうと言う危うい橋を渡るような
ものな事は、誰の目にも明らかでした。
そんな闘いに誰が割って入る事ができたでありましょう。
大蛇を呼び出した鬼達も、犬の奮戦を見る桃太郎達も、もはや何もする事はできず
揃って空を見上げているだけだったのです。
長く恐ろしい闘いでしたが、いつかは決着が付く事を皆は知りました。
切り落とされた巨大な蛇の頭が、盛大な砂を巻き上げて、桃太郎の前に
落ちて来たのです。
その蛇の頭には、冠にも似た角が生え、最後の力を振り絞って、目の前に居る
桃太郎に噛みつこうとしたのでしょうか、彼の目の前でその大きな口が開き、
生臭い息が降りかかってきましたが、大蛇の首ができたのはそこまででした。
開いた口が力なく閉じると、桃太郎を見ていた眼から、すぅと光が失われて
いったのでした。
同時に、尻餅をついた桃太郎の口から、乾いた笑い声が漏れました。
「はっはっはっ、腰が抜けてしまった・・・。」
首を一つ失った大蛇は、一目散に岩山から逃げ出し、犬は傷つきボロボロと
なってしまった身体をふらつかせながらも桃太郎の前に降り立つと、元の
白塗りの顔と高貴な着物姿に戻り、何事も無かったように、その場に
立ったのです。
ですが、僅かですが、身体がフラフラと揺れていましたので、腰が抜けて
立てなくなった桃太郎の横に座ってもらいました。
気が付けば、残っていた鬼達が、四人に向かって土下座しているではないですか。
何かを言っているようですので、よくよく聞いてみますと、
「 お願いでございます、もうこれからは悪い事はいたしません。
どうか命ばかりはお助けくださいませ。
私どもが盗んだ金銀財宝、貯め込んでいる全ての物を差し出します。
どうかどうか、命ばかりはお助けくださいませ。」
まぁ、あんな戦いを見せられた後で、逆らおうなんて気は起こらないよねぇと、
ちょっと鬼達に同情しつつも、これからは人に迷惑をかけぬ事と奪った財宝は
返すよう約束をさせ鬼達を解放したのでありました。
そして、鬼の宝物を戸板車(注7)に乗せ、それを引いて帰路に着いた桃太郎達も、
それぞれが出会った場所に着くと、雉、猿の順番で離れて行き、最後に
犬と出会った場所に着いたとき、別れようとする犬の手を取り、桃太郎が
言ったのです。
「貴方さえ良ければ、これから先も、この私とともに歩んで行っては貰えない
だろうか。」
静かに切々と伝える彼に、犬は初めてその白塗りの顔に頬笑みを浮かべたのです。
「ありがとう、とても嬉しいです。
でも、桃太郎さんとわらわでは生きる世界が違うのです。
どうか貴方の世界で、貴方とともに歩んで行ける方と、幸せを見つけて下さい
再び縁の交わる事もあるでございましょう、その時までのお別れでございます。」
そして、桃太郎がその手をしっかり握りこもうとするより早く、彼女の手は
彼の手を擦り抜け、何処へともなく去っていったのでありました。
彼女の姿が見えなくなっても、まるで今もその姿が見えているように、先を
見つめていた桃太郎も、何かをふっ切って背中を向けると、再び戸板車を引いて
お爺さんとお婆さんの待つ家に向けて歩み出したのでありました。

(CMキャッチ)
「九尾さん」「九尾さ~ん」「九尾さぁ~ん」
「ハァ~イ、わらわが代わってお仕置きじゃ♪」

2/3 さらに続きますよ~♪ →続き

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