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番外編第8話の続き

鬼ヶ島だょ 桃太郎さん♪ ~其の参~


「九尾さん」「九尾さ~ん」「九尾さぁ~ん」
「ハァ~イ、わらわが代わってお仕置きじゃ♪」


 最後の一枚を読み終わると、用紙から顔を上げ、窓際の席に座る者に不思議そうな顔を向けました。
「これは何でしょうか?。」
窓際の席、本来ならその学校の校長が座るべき席に腰を下ろしていた
老天使は(注7)、可笑しそうに眼を細めると
「我々もその内容をどう見るかで困っておりましてね。
担当のレイモチェル先生は、何度も頭を掻き毟られたようで、不毛な大地の侵略が
随分と進んでおられましたよ。
自分の言葉が面白かったのか、軽い含み笑いが出てしまいました。
「そこで、彼女の後見でもあられるガブリエル様に、恐れ多くもお越し頂いたと
いう次第でございまして。」
ガブリエルの眼鏡のレンズが、光を反射し白く染まりました。
「そうですか、これは彼女、テンチェルが書いた物なのですね。
彼女は、文学クラブにでも入ったのですか?。
なにか打ち込めるものを見つけ出せたのであれば、素晴らしい事だと思いますが。」
校長席に座った老天使は、軽く眉間を揉み小さな溜息を吐いたのです。
「そういうものではなく、それは実習のレポートとして送られてきたのです。」
彼女には珍しく、キョトンという擬音が似合いそうな顔をすると、手元の紙の束を
パラパラと斜め読みをして、彼の顔を見たのでした。
「・・・これのどこが、レポートなのですか?。」
「そうそう、もう一枚ありました、どうやらこれが彼女の言いたい事だったようですが。」
さらに一枚の紙を彼女に渡し、読み終えるのを待っています。

『この国には、海老で鯛を釣るとか、不要な物を必要な者に与えて、それ以上の
価値を持った物を手に入れるという昔話が多くあります。
私が聞いたこの昔話も、ツキビ団子というお団子一つで能力のある者を
動かし、まんまと財宝を手に入れるというお話でした。
ですが、それでは後味がよくありませんでしたので、私なりにストーリーを
考えてみました。』

 ガブリエルの指が眉間に当てられました。
たっぷりと時間をかけてグリグリと揉み解した後、疲れた様子で
言ったのです。
「申し訳ありません、私の指導不足でした。」
老天使は頭を下げるガブリエルを慌てて手で制すると、
「いやいや、ガブリエル様も彼女の後見になられて日も浅いですし、あのような
辺境・・・遠方の相手ですと、そうそう指導に向かわれます事も難しいでしょう。
決してガブリエル様の指導不足などとは我々は考えてはおりませんので・・・。」
彼自身、まさか四大天使の一角に頭を下げられようとは思ってもいなかったので
ございましょう、ハンカチで額の汗を忙しく拭って、水を一口飲むと、
少しは落ち着いたのでしょう、椅子に座り直し、吐息を漏らしたのでありました。
その様子を観察するような視線で見ていたガブリエルに改めて向かうと、
「いえいえ、我々は本来このような学生のレポートなどに構うつもりなど
毛頭なかったのですが、実はそのレポートと申しますか、物語と申しますかの
内容に違和感を持った者がおりまして。
その者が申しますには
『この話は「ルシフェルの大逆」を揶揄したものではないのかと。』
それまでになかった緊張が二天使の間に走りました。
「この話に出てくる犬、猿、雉は、かつてルシフェルに従った堕天使、精霊、
悪魔を指し、そして鬼と呼ばれる者は我々天使であり、八つの頭を持つ大蛇は
神を・・・。
そして、この桃太郎と申す者は、ルシフェル、いや、悪魔王サタンそのものでは
ないのかと言うのです。
だとすれば、これはサタンが神と天使を退け、その宝いえ、力でしょうかを
手に入れる話しではありませんかな。
これは、形を変えた悪魔王賛歌であろうっ!。
それに、なぜ、貴方ほどの天使が、失礼ですが、あの程度の天使の後見に
なられたのでしょうか。
もっと相応しい学生など幾らでも居ると言うのに、なぜだ。
お前が、あの落ちこぼれにこの話を書かせたのではないのかっ。
四大天使ともあろうガブリエルが、何を企んでいる。
返答次第によっては、見逃すわけにはいかぬっ。」
自分の言葉に激したのか、それまでの低姿勢が、嘘のように彼の態度が
一変したのです。
その姿は、まるで裁判の被告人を追いつめようとする検察官のそれのようで
ありました。
椅子を倒して立ちあがった彼の背には、4枚の翼の内、3枚までが半ばから
失われていました。
そんな彼の姿、態度を見ても、ガブリエルは何も変わらぬ姿勢でした。
「このような読み物から、よくもそこまで妄想を膨らませられるものですね。
その方には小説家の才能があるのではありませんか。
一度、彼女の元を訪れた時にも、あちらで聞いた昔話を実戦していた事が
ありました。
確か、地獄に落とされた罪人が、生前行った唯一の善行があったと言う理由で
地獄から蜘蛛の糸で助け出されようとしたのですが、結局自分の事しか
考えなかったため、再び地獄に戻されてしまうと言う話でした。
その話を聞いて、地獄から罪人を釣り上げる練習をしていたのです。
まぁ、その地獄とは『蟻地獄』という昆虫の巣だったのですが・・・。
この話でも、やはり彼女が冥府からサタンを助け出そうとしているとでも
言われますか?。」
再び沈黙が、二天使の間に流れました。
「それに、私が彼女の後見となった理由ですが、知っておられる通り、
彼女は初級の頃に、地の男爵級と風の侯爵級の精霊を続けて呼び出しています。
私が丁度 視察の時であったため、その現場を見ています。
もし貴方なら、初級の身で、男爵級の精霊相手に、自分の下級精霊を守るために
彼を殴り飛ばす事ができますか。
彼に、土中に埋められ、土の柱で打ち据えられても下級精霊の誇りを守るために
彼に謝罪を要求する事ができますか。
そして、それらの行為が、せっかく呼び出せた男爵級の精霊との契約を反故にして
しまう事が判っていたとしても、貴方なら何の力も持たない下級精霊を
守りますか。
ちょっと計算ができ、損得が少しでも解っている者ならば、自ずと答えは
決まっているでしょうね。
知っていますか、大天使長のミカエル様が、精霊召喚の儀式で初めて
呼び出したものが何かを。」
しばらくの沈黙の後、老天使が息を噴き出しました。
「くっくっくっくっ!。
いや、失礼、実は私もあの場に参加していましたのですよ。
くっくっくっくっ、確か、そう、あのなんと言いましたか、
なんとかオオカブトムシとか言いませんでしたでしょうか。」
「ヘラクレスオオカブトムシですね。
最初は一体なにが召喚されたのかと、皆が首を捻ったものでした。
風、火、地、水以外の新しい精霊だと思った者もいたぐらいですから。
それが虫と判った瞬間、皆が引っくり返ったものでしたが、彼だけは大喜びで
そのカブトムシと契約をしようとしたものでした。
まぁ、相手は虫ですから、当然契約なんてできませんでしたが。」
「くくくくくっ」
「ふふふふふっ」
と、しばしの間、二天使の含み笑いだけがその場のBGMとなりました。
「おかげで、さんざんとその虫の事を聞かされ、私に余計な知識を与えてくれた
ものでしたが、その彼が今や大天使長なのですから、誰にどんな才能が隠されて
いるかなど、まさに神以外は知る由もない事でしょう。
だからこそ、彼女がどんな天使となるのか見たいと思いませんか。
損得を、利益を越えたところで他者を護る事のできる天使の未来を。」
激した感情も冷めたのでしょう、倒れた椅子を起こし、体重を預けるように
座り込んだ老天使でした。
「いやはや、ガブリエル様のお心も知らず、疑いの目を向けました事、申し訳
ありませんでした。
謝罪にもなりませんが「ルシフェルの大逆」が絡んでいるかと思った途端に
冷静さを保つ事ができなくなってしまい、ガブリエル様に対しての暴言、
お許し頂ければありがたいのですが・・・。」
「許します。
皆さまの大逆に対する警戒心あればこそ、皆も安心して暮らせると
いうものです。
そのお働きには、感謝の念を持っています。」
すかさずガブリエルの答えが返ってきます。
「ありがとうございます。
そのように言って頂けますと、我らの努力も浮かばれようと言うものです。
もちろん今回の件に関しましては、懸念の疑いは無しと報告させて頂きます。」
部屋に安堵の空気が満ちましたが、老天使の一言が、再び部屋に緊張を
もたらしました。
「ですが、彼女のレポートは、やはり内容的に問題がありますので、期日までに
再提出をするようレイモチェル先生からくどいぐらいに言われまして。
天使界随一の才女と名高いガブリエル様が付いておられますのですから、
問題はないものと信じておりますが、くれぐれもレイモチェル先生の不毛地帯を
これ以上広げぬようにご指導くださいますようお願いいたします。」
「不徳の致すところ、申し訳ございません。
新たなレポートは、間違いなくまともな物を提出させます。」
そうして、校長室の扉が開き、涼やかなお顔の大天使が部屋から出てきました。
彼女の来校を逸早く察知していた「ガブリエル様に冷ややかに見下され隊」の彼が、
物陰から声をかけようとしたまさにその時、彼女が手にしていた分厚い紙の束が
「グシャッ!」と握りつぶされ、同時に彼の「ヒッ!」と言う短く息を飲む音だけが
小さく聞こえたのでありました。

彼が一体何を見たのかは、誰にも語る事はありませんでしたが、この日を以て
「ガブリエル様に冷ややかに見下され隊」から有能な戦士が立ち去ったのでした。
そして、新たに「ガブリエル様に熱く睨み殺され隊」という団体が密かに
立ち上げられた事は、また別なお話です。

 後日、レイモチェル先生の元に届いたテンちぇるのレポートは、ところどころに
水の滴痕に似た染みがあったものの、彼の不毛地帯を広げる事無く、満足の笑みを
浮かばせ、ガブリエルの元には彼女ですら目を見張る程の民族衣装と、大量の
花を模した玩具が届けられましたとさ。

「注釈」
○注1、お爺さん : 本名は坂田金時、幼名は金太郎。
幼少期を足柄山で過ごした彼は、動物たちと意思を交わす事ができ、山の動物たちと
日々を過ごす内に、怪力無双のバーサーカーとなりました。
青年となった金太郎は、山を通りかかった源頼光に実力を見出され、彼の配下となり、
都を荒らし回っていた大江山を本拠地としていた酒呑童子ら鬼の一党を、
源頼光、藤原保昌と、渡辺綱、碓井貞光、卜部季武等とともに討伐し、
その名を国中に轟かせました。
老年となってからは、都より離れた山村にて静かに余生を送っています。
幼少の頃から鉞(まさかり)を愛用しており、青年となってからは自身の
身長すら越える大鉞二本を変幻自在に操り、その圧倒的な力と速さで
月打金時(げったーきんとき : 月ですらも打つ者の意)の異名で呼ばれても
いました。
得意技に「鉞暴滅嵐(まさかり・ぶうめらん)」があり、その怪力で投げられた鉞は
その進路上にある全ての物を薙ぎ払い、彼の手元に戻ってくると言う空前絶後の
大技として恐れられました。
さらに、二本の鉞を同時に投げつける
「陀降鉞暴滅嵐(だぶる・まさかり・ぶうめらん」」は、一本を避けてもその避けた先に
もう一本が襲いかかってくると言う予測のつかない軌道を描くまさに回避不能の
必殺攻撃であり、敵味方を問わず、その心胆を震え上がらせる攻撃となって
いました。
ただ、その攻撃の性格上、味方が多く居る場合、その味方まで巻き込む可能性が
高い事もあり、彼自身、個人戦や少数による戦いを好んだと言われています。
○注2、お婆さん : お爺さんの妻。
その出生は不明とされていますが、香具夜(かぐや)と呼ばれる一族の末裔と
言われています。
謎の多い一族ですが、一節によると他の天体から来た異星人ではないかとの
噂もありますが、それが立証された訳ではなく、一部に一族の姫が、かつての
母星からの迎えと伴に帰還したと、古い書物に描かれているのが、唯一の証拠と
されていますが、その読み物自体がこの国で最初(世界初)の小説とも言われており
その真偽は、現在も多くの研究者の議論の的となっています。
○注3、ツキビ団子 : 香具夜の一族に伝わる満月の光を集め作った団子の
一種。
どのような形、味、効能があるのかは伝わっていませんが、一節によると、
持ち主の願いを適える事のできる者を選んで引き寄せる効果があると言われて
います。
ツキビ団子を求めて来た者に対して、自身の願いを伝える事、来た者に対しては
粗略に扱わないなどの対応が必要となりますが、願いは大概察してくれる
ようですので、省略されていても問題はないようです。
既にその製法は失われており、とある地方で特産品として作られている
「きび団子」という食べ物に、色合い、形を残していると言われています。
お婆さんも、このツキビ団子を食べたと言われ、彼女の豪力は金時に添うための
力を欲しての使用だったと言われています。
その事から、ツキビ団子を食した者には、自身の望みを適えるための力が
宿るのではとも考えられています。
○注4、犬 : 犬です、もし九尾さんだと思われた方は勘違いですょ。
○注5、猿 : 猿です、小雪さんだと思われた方は、吹雪・・・ゲフンゲフン、
勘違いですね。
○注6、雉 : 雉です、千絵理さんだと思われた方は、勘違いですからね。
○注7、戸板車 : 大八車もしくは側板のないリヤカーの類です。
○注8、老天使 : 御老体と呼ばれる「ルシフェルの大逆」で負傷し、トラウマを
持った天使の一隊です。
大逆で負傷したりトラウマのため既に天使としての仕事からは離れている者達で
構成され、独自の情報網を持ち、再び「ルシフェルの大逆」のような事が
起こらないよう天使界の監視を行っています。
大逆の件に関しての事となると、感情が暴走しがちとなり、そのため、
かなり強引な手を下す事も多々あり、他の天使と衝突する事もあって、
いろいろな所で問題を起こしてもいます。
ただ、大逆が食い止められなかった場合、天使界はおろか天界にまで影響が
及んだであろう事を考えれば、それを食い止め負傷を追った功労者達に対して
現在天使界を担っている天使と言えども、強く出られないのも仕方がない事
なのですが、現役の天使達にとっては、少々持て余し気味の集団となっています。

番外編第8話 お・し・ま・い・♪
2020.12 by HI

◆ ◆ ◆

私なりに、とテンちぇるちゃんが書いたストーリー。
私も私なりに、そんなテンちぇるちゃんに思いを巡らします。
桃太郎のおじいさんは金太郎、おばあさんはかぐや姫の末裔・・
山寺でいろんな昔話を興味深く聞いているテンちぇるちゃんの様子、
そして折々に昔話が語られる山寺の静かな風景が思い浮かびます。
テンちぇるちゃんの描くストーリーのかかで、
恩返しの心と民を守りたい一念から鬼ヶ島行きを申し出る桃太郎。
お婆さんの、大切な人への想いが込められたツキビ団子。
それらが引き寄せた縁、その力を合わせたとき、
世界の平和が守られる・・。

今回、世界の創造主でありながら一度も姿を現さず、
天使たちの会話の向こうに存在だけが浮かび上がるテンちぇるちゃんでしたが、
辺境の地で多くを学び、まごうかたなく天使としての素質を育んでいる彼女の成長ぶりが
くっきりと伝わってきました。
私がテンちぇるちゃんの担任なら大きな花丸をあげるんだけどなあ。
テンちぇるちゃん、これからも応援してます♪
そして、真の創造主HIちゃん、いつも本当にありがとうございます。

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