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嫁においでょ テンちぇるちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ〜ん」「テンちぇるちゃぁ〜ん」

「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」

 テンチェルちゃんのところに、珍しくお手紙が届きました。
差出人を見ますと、あのバルキリア(注1)に行った、ミヤコちゃんからです。
筆不精の彼女が珍しいな、と思いながら封を切って読んでみますと、
「 テンは元気にしていますか?。
私は毎日毎日、身体作りと、戦闘訓練ばかりで、とても楽しく過ごしています。
先日には、光栄な事に隊の隊長に、手合わせをして頂き、幸運にも一撃で
沈める事ができました。
唇を噛みしめた隊長には、私の成長を喜んでもらえ、とても嬉しかったです。」
「いえ、それ喜んで無いから・・・」とセルフ突っ込みを入れながら読み続けますと、
「入隊から一年、初めて長期の休暇が貰えました。
久しぶりにテンの顔を見たいので、4月1日にそちらに遊びに行きます。
場所とかはよく判りませんので、お迎えをよろしくお願いしますね。」
読みながら、ついとカレンダーに目が行きました。
「来るのは来月だったかしら?」
ともう一度読み直してみましたのですが、
「久しぶりにテンの顔を見たいので、4月1日にそちらに遊びに行きます。
場所とかはよく判りませんので、お迎えをよろしくお願いしますね。」
ついつい、眉間に手が伸びてしまいます。
「なんで、来る当日に、手紙が来るのかしら・・・。
今日、4月1日じゃないのぉっ!」
彼女はガバッと立ち上がると、どこに居るかも判らないミヤコちゃんを捜すため、
その翼を羽ばたかせたのでありました。

 まだまだ風の冷たさが肌に突き刺さる空の下、二つの黒い翼の集団が睨み合って
います。
双方とも、手に手に六尺棒を始め、思い思いの武器を持ち、鉢巻きや襷をかけ、
相手を睨み殺さんばかりの眼力を放っています。
つい先ほどまでは、相手を罵倒する声が絶える事なく、相手方の者が倒されると
歓声が沸き起こり、味方が倒されると歯ぎしりとともに唸り声が上がって
いたのですが、もはやどちらの者が倒されようと、怒気が湧きあがり、唸り声が
低く流れるだけとなっているのです。
その二つの集団の間で、双方の姿にも似た者が一体 浮かんでいたのです。
集団とは違い、白い翼に、白い衣、そして、優雅に身体を支える翼が起こす風に
煽られ、銀白色の髪が炎が燃え盛るように舞いあがっています。
その者の片手には、黒い物体がぶら下げられていましたが、それをポィと
なんの感傷もないように放り投げると、足元に広がる森の木々の枝に引っかかり、
新たなオブジェを作りだしました。
そこには、既に十体を越える気を失った烏天狗達が、同じように枝にぶら下がって
いたのです。
今一体の烏天狗を投げ捨てた者は、髪が乱れるのをうっとおしく感じたので
ありましょう、取り出したリボンで髪を一つにまとめると、今倒した烏天狗とは
違う集団に目を向けたのです。
それは、目を向けられた者達にとって、死神が次の生贄を要求する姿にしか
見えず「ぬぅ・・・」と、もはや唸り声しか聞こえて来ない中から、一体の烏天狗が
進み出てきたのです。
彼は、集っている烏天狗の中でも、ひときわ大きく、その腕でさえ白い死神の
腰ほどの太さがありました。
集団から抜け出した彼は、翼を軽く羽ばたかせ、ついと死神の前に進み出て、
軽く頭を下げると、
「見ましたところ、外国の御方とお見受けいたすが、その闘い、実にお見事でござった。
女子供と侮りました事、ここにお詫びいたしたい。
「ワシは、高野(注2)の御山を本山とする高野党が烏天狗の邪祇(じゃぎ)と申す者、
今更ではあるが、そなたの名をお尋ねしてもよろしいか。」
その問いに、向かい合っていた白い死神が、その可憐ともいえる口を初めて
開いたのです。
「ご丁寧な挨拶いたみいります。
私は、バルキリアの見習い天使、ミヤコウェルと申します。」
彼は、一瞬ですが驚きの表情を出してしまいました。
「まさか、そなたほどの強さを誇る者が見習いとはっ・・・。
下で枝に引っかかっておる者どもは、決して弱き者ではござらぬ。
なのに、そのバルキリアには、そなたを超える者が幾らもいるというのか・・・。」
「うむむ」と唸り声を上げ、意を決した彼は、
思うところがあるわけではござらぬが、高野党の面目にかけて、このままそなたを
放っておくわけにもいかぬ。
なぜにそなたが我らの前に立ちふさがるのか、なぜに我らと闘うのかは知れぬが
この邪祇、少々の自信がございましてな、ミヤコウェル殿の胸をお借り
いたしたい。」
するとどうでしょう、彼女は、素早く両手を交差させる構えを取ると、
スス〜と距離を取り、小さく答えたのです。
「・・・エッチ・・・。」
「いや、そういうベタなギャグはいらぬから。」
きっと、彼女は本気で言っているのだと思いますよ。
と、邪祇と名乗った彼は、彼女の返答を待つ事もなく、その翼を羽ばたかせ、
間合いを取ったのでありました。
彼女は、相変わらずの無表情のまま交差させた手を解き、
自然な姿勢で彼と相対します。
「参るっ!」
二人の間に緊張した時間が流れ、新たな風が流れ込んだ瞬間、邪祇は自らに活を
入れるつもりもあったのでしょう、辺りの空気を震えさせる大音量で声を挙げ、
六尺棒を頭上に高く掲げると、それを回し始めたのです。
六尺棒は最初こそ棒の形も見て取れましたが、それもすぐに見えなくなり、
まるで薄い円盤を頭上に掲げているようにしか見えない勢いで回り出しました。
彼は、それを回転させたまま、放たれた矢の如き勢いで、ミヤコウェルに突進し、
間合いに入るという寸前で彼女に向けて投げつけたのです。
回転しながら高速で迫りくるそれは、触れればそれだけで致命傷となって
しまったことでしょう。
しかも、これだけ近い場所から、これほどの勢いで投げられたとあっては、
なまじな実力では避けるのは困難なこと。
だが彼女は、僅かに身体を傾ける事でなんなく避けてしまったでは
ありませんか。
そして邪祇もまた、それを見越しての動きだったのでしょう、僅かに口許を歪め、
「その崩れた体勢で、ワシの突きが避けられるかっ、
高野仏拳(こうやぶっけん)!、
「アシュラッ、ラァカァンンゲェキィィィィィィィィィぃッ!(阿修羅羅漢撃)(注3)
膨れ上がった闘気が、彼の身体を数倍もの大きさに見せ、放たれた貫手が、
空気を切り裂く絶え間ない轟音を立てて残像を引くと、何本いや何十本もの手を
現出させ、彼女に襲いかかったのです。
しかし次の瞬間、全ての残像が消え、邪伎の両手首は、彼女の手によって
掴みとられていたのでした。
「なっなに・・・っ?!。」
その華奢とも言える手のどこからそんな力が出せるのか、ピクリとも動かせない
己が手の状況に、彼の動きは完全に止まってしまい、その間隙に、彼女の両足が
コンパクトに折りたたまれたまま、グィッと持ち上がり、両手を封じられていた
彼は、避ける事はおろか、後ろに飛び退って威力を弱める事すらできず、その意識を
刈り取られてしまったのです。
そう、それは両手を取られていたからであって、決してスカートの奥が見えそうで
見えなかったため、ついついがん見してしまい、彼女のキックを簡単に
受けてしまった訳ではない事を、彼の名誉のために記させて頂きます。
後日、彼女との闘いの話をする時には必ず、
「うむ、青の縞柄は、とても良いものだ(注4)、あれは良いものだ・・・。」
と、何かを思い出すように遠くを見ながら締めくくられ、その真意は長く
様々な憶測を呼ぶ事となったのでした。

(CMキャッチ)
「テンチェルちゃん」「テンチェルちゃ〜ん」「テンチェルちゃぁ〜ん」
「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」

 邪祇の身体から力が失われ、ミヤコウェルの手で吊り下げられる状態となると、
双方の集団から「うぬぬぬぬ・・・。」「ぐぬぅぅぅ・・・。」と呻きとも歯ぎしりとも
つかぬ声が湧きだしてきました。
「まさか、あの邪祇までもが一撃で仕留められようとは。」
「なんという・・・、化け物、いや死神そのものではないのか・・・。」
そして、その死神がそれまでと変わらぬ動きで邪祇をポイッと放り投げると、
「次の生贄は誰?」と云わんばかりに、片側の集団に目を向けたのです。
あれだけ湧きあがっていた闘士も怒気もその影を潜め、目を向けられた者達は、
気がつけば一羽ばたき二羽ばたきと後ずさりし、互いに次は誰が行くのかと、
目を向けられては視線を外すを繰り返していたのです。
そうして、相手がやって来ないと判ると、今度は反対側の集団に目を向けても、
同じように数羽ばたきも退き、互いに目配せしては視線を外すを繰り返すのみ
だったのでした。
三者の間に、なにか気まずい空気が流れ始めた頃に、ようやく一方の集団から
一体の烏天狗が現れ、それと同じくして、高野党と名乗った集団からも
一体の烏天狗が抜け出して来ました。
どちらも、それぞれの集団の中では年長な者のようで、落ち着いた雰囲気を
醸し出しています。
それでも、両者とも、お互いを牽制するように距離を取ってミヤコウェルに
相対したのでありました。
「ミヤコウェル殿と申されましたか、いやはやこれほど強い女子に
お目にかかるのは初めてでございます。
ご挨拶が遅れましたが、私はこの辺りの空を治めております鞍馬の御山を
本山とする鞍馬党第三警邏隊を預かっております烏天狗の芙慟(ふどう)と申します。
いやはや、なんともお恥ずかしいやら、逆に晴々としてしまいますわい。
よもや、我が隊の者が、そなたに指一本触れる事すらできずに、その醜態を
曝す事になろうとは、実に実に、お見事でございます。
世界は広い、我らもこの狭き世界の中で満足するのではなく、更に修練を
積み重ねて行かねばならぬ事を思い出させて頂きましたぞ。
で、物は相談なのでございますが、ミヤコウェル殿はご家庭をお持ちなので
ございますかな?。
それとも、既にどなたかと婚姻の約束をなされておられますのかな。
彼の顔から笑いが引き、すぅと細められた目が、彼女を見定めようかと
眼光を増したのです。
少し小首を傾げ、話を聞いていたミヤコウェルは、
「いえ、現在は、お付き合いしているお方も、おられませんが。」
その返答に、彼の歓喜が爆発し,大きな笑い声を立て、さらなる爆弾を
落としたのでありました。
「なんと、なんと、どうでございましょう、ならば是非に我が御山に嫁に来ては
頂けないでございましょうか。
そなたのように美しく、なによりもその強さ、我らにとりまして美しく強い者とは
まさに至宝と言う他にはございませぬ。
誰一人として、反対するような者などございませぬぞ。」
その強さに触れましたなら、必ずやそなたに惚れます事、これ必定でございます。
さあさあどうでございましょう、とりあえずは我が鞍馬の御山に来て頂き、
気に居る男子を探して頂きましょう。
なぁに、若い者が数多くおりますゆえ、必ずやお気に召します者が
おりますでありましょう。
もし、万が一おらなかった場合、余所の御山から引き抜いてでもご用意いたしますぞ。
さあさあ、ご遠慮なさらずに、さあさあ、さあさあ♪。」
今にも彼女の手を取って、案内しようとする芙慟を押しのけるように、もう一体の
烏天狗が割り込んで来たのです。
「ちょっと待てやぁっ!。
おい、なに勝手に話を進めとんねん。
お前んとこみたいに、長いだけの歴史や古い慣習に縛られとる御山に、このお方が
満足されるはずないやないかっ。
やっぱり、新しい風潮を取り入れて、現代にマッチした御山作りをしとる
ワシらの御山が、この方には合っとるはずや。
負けはしたけど、邪祇の強さが他のやつらより抜きんでていたのは判るんと
ちゃいまっか。
こいつらいつも、邪祇にはいいようにあしらわれとんやで。
そんなとこに、強い男なんかおるはずあらへんやろ。
どうせ、来やはるんやったら、高野の御山にしといた方がええで。
邪祇より強い奴なんてゴロゴロいとるし、ガッカリはさせまへんで。」
今度は今にも手を取りそうな高野の烏天狗の前に出た芙慟が、下からねめつけるように睨むと
「あ〜ん、うちらは牛若丸はんの頃から武芸、兵法を研鑽しとるんや、
お前んとこの御山に、誰か有名な奴の一人でもおるんかい。
新しい風潮もなにも、うちの御山のような歴史の重みっぅもんがあらへんさかい、
そないなもんで誤魔化しとんちゃうんかい。
いつもいつも、うちらの空に土足で踏み込んできやがって、なにぬかしとんやっ。
だいたいここはうちらの空や、そこに居たはるんやし、うちらの御山に
来てもろうてなにがあかんのやっ!。」
とグィと前に身体を押し出したのです。
それに負けじと、
「それがどないした言うねん、見てみい、お前んとこより、うちらの奴の方が
一人多くお相手させてもろとるんじゃ。
ワシらの方が、このお方のお相手を探す権利があるんちゃうんかいっ。
「はん、一人多く負けとるいう事やな。
そんなもん、自慢されても臍で茶を沸かしてしまうわ。」
さすがに先ほどのは、ちと無理があったと判っていたのでしょう、「ぐぬぬぬ」と
芙慟を睨みつけ、臍を噛む事しかできなかったようです。
「金髪の方は、おられますか。」
そんな二人に、彼女が唐突に声をかけてきました。
いきなりの問いかけに、お互いに眼(がん)を飛ばしていた2体は、最初何を言って
いるのかと、思考が追いつかなかったようでしたが、ややもいたしますと、
深意は測りかねているようでしたが、思い当たる節を答えたのでした。
「いや、烏天狗は黒であっての烏天狗でございますから、天狗も白髪はおりますが、
金髪は見たことがございませんが・・・。」
その答えに、「そうですか・・・。」としょんぼりとしてしまった彼女に
「あぁ、そう言いましたら、若い者の中には、羽の色を染めると言う奴も
おりますので、なんなら金色に染め上げさせても・・・。」
「それではダメですっ。」
完全な拒絶ぶりに、二体はともに視線を交わしてしまいましたが、さらに
「では、歯の輝く方はおられますか。」
「歯でございますか。
気にいたしました事はございませぬが、多分いるのではありませんかと・・・。
なんでしたら、葉に電飾など仕込ませますが・・・。」
「それもダメですっ。」
再びの拒絶に、二体は顔を見合わせるしかありません。
「では、私より強い者は。」
それこそ、枝に引っかかった数多の烏天狗が物語っています。
「うむ、現状ではミヤコウェル殿に勝てると確約できる者は思い当たりませんが、
一度は闘って頂かなければ・・・。
確実に強いと言える者は、う〜ん、どうでございましょう。」
二体とも、これに関しては意見の一致を見たようで、共に腕を組み、渋い顔を
しています。
「では、あの山を片手で持ち上げられる方は、おられますか。」
彼女が指差したのは、小さいとはいえ、列記とした山。
持ち上げられるも何も、普通そんな事試すどころか、考えた事もないでしょう。
またしても二体揃って、彼女が指差した山を見て、じっとりとした視線を送って
しまいましたが、何かに気がついたように、芙慟が大声で笑い始めました。
「なるほど、なるほど、もはやこれは勝負にもなりはいたしませんな。
まさかここまで器のでかい女子であったとはっ!♪。
わっはっはっはっはっ」
と大笑いを続ける芙慟に、「どういう事やねん?」と言う視線を向ける
高野の烏天狗に
「わからぬか、烏天狗に金髪、光歯、この方を超える強さ、ここまではよい、
なんとかなるのではないかと思わせられる事ばかりじゃ。
じゃが、あの山をと言われ、何を思った。
無理と、できはしないと考えたのではないか、ああ、私もそうじゃ。
だが、なぜできぬと思うた。
試したのか、できるよう努力をしてみたのか。
できるためにはどうすれば良いのかを、少しでも考えたのか。
そうじゃ、できないと諦める事と、できない事に立ち向かう事は違うのじゃ。
なにもせぬまま、思わぬまま、できないとなぜ諦めるのかと問われて
おられるのじゃ。
この芙慟、どうやら無駄に歳を経てしまっていただけのようでございました。
まさに目の前の霧が、太陽によって霧散いたしましたような気持ちでございます。
重ねてお願いいたします、まずは鞍馬の御山に来て頂けないでございましょうか。
その上で、お眼鏡にかないます者がおりましたらで結構でございます、
我が御山に嫁に来て頂けますよう、是非に是非にお願いいたします。」
深々と頭を下げる芙慟に、小首を傾げていた彼女は軽く頷き、高野の
烏天狗に向けては
「こちらが終わりましてから、お伺いいたします。」
と約束したのでありました。
あのね、ミヤコちゃん、ハードルが高くなっていませんか・・・。

(CMキャッチ)
「テンチェルちゃん」「テンチェルちゃ〜ん」「テンチェルちゃぁ〜ん」
「ハァ〜イ、テテンチェルチェル、テテンチェル〜♪」

 テンチェルちゃんが、辺りをキョロキョロとしながら空を飛んでいますと、
「お〜い♪」と声が聞こえてきました。
やってきましたのは、いつもの六尺棒を持った三郎くんです。
「、何やってんの?、探し物でもしてんの。
俺、今から御山に帰る所なんだけど、ちょっとぐらいだったら時間があるし、
手伝おうか。」
「ありがとう、どこに居るか判らないんだけど、私の友達が来ているはずなの?。
行き違いって言うか、なんて言うか・・・。」
「ふぅん、友達って、おっ女なんだよな・・・、いや別に男だからって、
俺は気になんかしないぜ・・・。
あっ、そうそう、今 交代の奴に聞いたんだけど、御山に外国の天狗が来ている
そうなんだ。
物凄い美形で、なんか うちの警羅の奴らだけじゃなく、
ちょっかいをかけて来ていた、高野の奴らも、たった一体であっと言う間に
熨してしまったらしくてさ。
で、いま御山の男達が嫁取り合戦をしているって話なんだけどな。
あっ、べっ別に俺は興味なんかないぜ。
おっ俺にはさぁ、ほら、あの、なんだ、テンチェルがいる・・・。」
あさっての方角を向いたまま、何かを言いかけた三郎くんの言葉を遮って、
いきなり彼の襟首を掴んだ彼女は、有無を言わせず叫んだのでありました。
「そいつよっ、そいつっ!、お願い私を三郎くんの御山に連れて行ってっ!」
 二体が揃って、御山の門をくぐると、そこには烏天狗達が死屍累々と
横たわる光景が広がっていたのです。
地面に転がる者、庭の松の木に引っ掛かっている者、塀の屋根で伸びている者、
地面で佐清(すけきよ)状態(注5)の者や、壁を突き破り、上半身だけが
飛び出して、漫画のようになっている者さえいます。
いえ、屍ではなく、それぞれうめき声を出していたり、ピクピクと動いては
いますから生きてはいるようです。
それを烏天狗の女性達が介抱しているのですが、そのやり方がかなり荒っぽく
見えるのは、色眼鏡で見ているからではないようです。
今も、石畳の上で伸びていた烏天狗の男性を、二体の烏天狗の女性が彼の
手足を持って「邪魔よっ」と云わんばかりに道の端に放り投げていたのですから。
まぁ、余所から来た女性を巡って、怪我をした男に対する態度なんて、
こんなものでありましょう。
 テンチェルちゃんと三郎くんの進む先々に、そんな烏天狗達が転がって
いたのです。
いったい何体の烏天狗が倒れ伏しているのでしょう。
最初は「ありゃありゃ」と面白がっていた二体も、こうまで数が増えると、
なんとも表現しがたい表情となってしまっています。
やがて、館と言われる大きな建物が見えてきましたが、そこに行く間にも
これまでと変わらずに、烏天狗の屍・・・いえ、倒れ伏した彼らが、もう
見慣れてしまった光景を作り出していたのです。
倒れている烏天狗を避けながら、建物に近づいて行きますと、道場を覗ける
窓の外には、女の子達が並び、黄色い歓声を上げていたのです。
「どこの御山の天狗様かしら。」
「外国の天狗様らしいわよ。」
「あ〜、銀色の髪が素敵・・・♪。」
「きゃーーーっ♪!、こっちを見られたわ♪」
「私を見られたのょ♪、私だからねっ。」
彼女達の後ろから覗いてみますと、あの芙慟と、長老と呼ばれる烏天狗と
向かい合うように、白銀色の長髪を流した天狗が優雅にお茶をしていたのです。
脚は、座布団の上で正座ではなく横座りをしていますが、その姿は艶やかな
女性らしさを醸し出しています。
「いやはや、それにいたしましても、お強い。
あれだけの数をあの短時間で沈めてしまわれるとは。
ワシが後、80年も若ければ、そなたとのお手合わせをお願いいたすのじゃがな。
しかし、若い奴らには、世の中には、どれだけ強い者がいるのかを、身を持って
知る事ができた事でございましょう。
それだけでも、そなたを御山にお呼びいたしました甲斐がありましたと
言うものでございます。
今は嫁にと言いますのは無理でございましょうが、あ奴らを今一度鍛え直し、
再び嫁取りに挑戦させますぞ。
いやはや、愉快痛快じゃわい。
さあさあ、甘い物はお嫌いかな。
これ、これ、トラヤの羊羹があったじゃろう、早う持ってこんか。
若い方には珈琲の方がよろしかったでございましょうかな。
お食事はまだでございましょう、そなたのお国での武勇伝などお、
お話し頂けませんかな。
いや〜、実に愉快、愉快じゃ。」
楽しそうに笑い、話しかけている長老と、無表情のまま軽く相槌を打つ
ミヤコウェルがそこに居たのでありました。
三郎が止める間も無く、窓から飛び込んだテンチェルちゃんが、後ろから
ミヤコちゃんの頭を叩くと、
「ミヤコちゃん、こんなところでなにやってんのよっ!」
その声に、振り向いた彼女は
「あら、テン、お久しぶりですね。
今、こちらの悪魔の皆さまに、お茶をご馳走してもらっていたところなの。」
「悪魔じゃないから、ってなんで悪魔と思ったのに、お茶を貰ってんのよ。
烏天狗さんって言う、この国の方だからね。
あっ、すいません、私の友達の天使なんです。
ヨーロッパから遊びに来ていまして、道に迷ったみたいなんです。」
と、ペコペコと頭を下げる彼女に
「なんと!、ミヤコウェル殿に一撃を入れるとはっ!。
そなたも、バルキリアの方なのですかなっ!。」
なんと素晴らしいっ!、ほれっ倒れている者達を叩きおこせいっ!。
嫁取り合戦の第二幕じゃぁぁぁ!。
飛び上がるほどの早さで立ち上がった長老と芙慟は、山全体に響き渡る声で
再び嫁取り合戦を宣言したのでありました。
しかし、これは遅れて飛び込んできた三郎くんの必死の説明により、なんとか
回避する事ができたのですが、両肩をガッチリと掴まれ、間近まで顔を近づけた
長老に、
「よいか三郎、御山命令じゃ。
絶対に、この女子双方ともに手放すではないぞ。
万が一にもその時は、・・・その命、無いものと・・・、肝に命じておけ。」
その言葉に、
「なんで両方なんだよぉ・・・。」
と、驚愕に目を見開くしかない三郎くんだったのでした。
そんな彼らの横では、テンチェルちゃんと三郎くんの乱入に乗じて、入ってきた
女の子達が、
「あの、あの、どちらの国から来られたのですか♪。」
「髪の色が、とても素敵〜♪。」
「女の方でもいいです、お婿に来て下さい♪。」
「キャーーーっ♪、手に触っちゃった〜♪。」
「「「あ〜、ずっる〜いっ、私もぉ〜♪、私もぉ〜♪、私もぉ〜♪」」」
「あ〜っ♪、私はギュ〜(注6)をお願いします、ギュ〜をお願いします〜♪。」
「「「キャ〜〜〜っ♪、私も〜♪、私も〜♪、私も〜〜っ♪。」」」
と、黄色い声とともにミヤコちゃんを幾重にも取り囲み、彼女を困惑させるという
珍しい表情を見る事ができたのでした。
後日、高野の御山においても、同様の状況が現出いたしました事は、云うまでも
ありませんので、割愛させて頂きましたとさ。

「注釈」
注1、バルキリア : 女性の見習い部隊名。
別名、戦乙女と呼ばれ、主に見習いの間は、この部隊に配属・訓練となり、
卒業後(学校とは別にバルキリア卒業の意)に各地の部隊への配属となります。
男性の場合はバルキリーと呼ばれます。
注2、高野(こうや) : 島国の本州の中央南端に位置する地域にある
高野山を拠点とする当国最大の勢力を持つ天狗の集団で、高野党を
名乗っています。
注3、阿修羅羅漢撃(あしゅららかんげき) : 闘気を漲らせる事により、
秒間に数発と言う高速の突き(貫手)を放つ技。
そのあまりにも早い速度に残像が残るため、まるで数十本の手が襲いかかって
くるように見え、まさに一撃必殺の技ですが、ミヤコウェルの動体視力と
スピードはさらに上を行っていたようです。
元ネタは、「北斗の拳」の北斗四兄弟の三男「ジャギ」がビル屋上のヘリポートで
ケンシロウと闘った際に繰り出した技。
北斗神拳の奥技ではないと思われます。
注4、青の縞柄 : がん見するまでもなく見えていました。
よくは判りませんのですが、よいものらしいですょ。
言うまでもないでしょうけど、女性の物に限ります。
注5、佐清(すけきよ)状態 : 地面などに頭部もしくは、上半身が突き刺さった
姿を言います。
ただし、脚はガニ股となっていないと正しい佐清(すけきよ)状態とは言いません。
元ネタは、映画「犬神家の一族」で、殺された登場人物が湖(池)に上記の状態で
突き刺さっていたものです。
映画の場合は、股間まで水の中にありましたので、見えていたのは、
両脚だけでした。
注6、ギュ〜 : 基本的にハグですが、もう少し親密度を増した感じだと思って
頂けましたら完璧です。

第13話 お・し・ま・い・♪
(2021.4.1 by HI)

◆ ◆ ◆

タイトルを見てまっさきに思ったのは
「テンちぇるちゃん、プロポーズされたのかな?お相手はもちろん・・?」
ということでした。
一瞬でそのひととなりが蘇るのは見事というほかない、手紙での登場シーンに始まる
ミヤコちゃんが御山の空似巻き起こすストーリー。
どこか懐かしい、いえ、その強さとともに一段とパワーを増したあでやかなまでの天然っぷりに
すっかり惹き込まれて読み終え、ふと気がつけば
「テンちぇるちゃん、、とってもオマケ?とばっちり?な求婚だったのね」
ことの真相に、今回もくすくす、
春風のように笑いが心をくすぐってくれました。
まさにハッピーエイプリルフール!
そんな天然キャラ・ミヤコちゃんの無茶ぶりにも
「そうじゃ、できないと諦める事と、できない事に立ち向かう事は違うのじゃ」
と悟りを得るのは、芙慟さんがさすがなのか、それとも
ぱっと見は天然、じっくり向き合ってもやっぱり天然なミヤコちゃんの内に秘められた
諦めない力と純心のせいなのか。
それもすべてHIちゃんのお心のうち。
ちょっともたもたしまして、掲載が4月2日になっちゃいましたが、
この日に合わせて素敵なお話を贈ってくださったHIちゃん、ありがとうございます!

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