天使の杖でおいでやす トップページへ戻る

番外編第2話

デートだょ ミヤコちゃん♪


「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」

「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」


 お昼休みの教室の雑踏の中、机を並べてお弁当を食べていたミヤコとキョウ、
テンの三人のもとに一体の天使がやってきました。
ちょっと着崩した装いが意外と似合っていて、軽薄そうな表情を優しい感じに
見せてくれています。
「やあ、君がミヤコウェルさんだね。」
三人の中では一番大人びた雰囲気のある彼女を間違える者はそうはいません。
「あの、初めてお目にかかると思いますのですが、どちら様でございましたでしょうか。」
食事の手を止め、軽く口元を押さえ、正しく男性に向かい合ったミヤコウェルは、
彼の名前を覚えていないことに詫びを入れ、申し訳なさそうに改めて尋ねたのです。
「おや、それは失礼しました、僕は3年生のアズナベルといいます。」
一部の女子達の間から黄色い声があがりましたが、彼は慣れているのか「ふっ」と
少し得意な顔を見せ、その女の子達の方にチラッと視線を飛ばしたのでありました。
「あの、そのアズナベルさんが私になにか御用でございましょうか。」
少し小首を傾げ、上目遣いに見上げてくる彼女の姿には、普通の男なら
その一瞬でハートを射抜かれていたことでしょう。
「実は、君にお願いがあって来たのだけれど、僕と付き合ってくれないだろうか。」
ふぁさと光に輝く黄金色の髪を掻き上げ、爽やかな笑顔を浮かべた彼の
口許で白い歯ガキラリと輝きました。
すると、初対面だと、誰と会おうと無表情を崩さないミヤコウェルの顔が
見る見ると赤らみ、その頬を隠すように両手で抑え俯いてしまったのです。
何事かとこの様子を見ていたクラスの全員が信じられないものを見たとでも
言いたげに大きく目を剥いたのでした。
「で、返事は頂けるだろうか。」
あくまでも優しく尋ねるアズナベルに、長い睫毛をふるふると震わせながら
「はい、私のような者でよろしければ、喜んでお相手させて頂きます。
 あの、本当に私でよろしいのでしょうか。」
顔を赤らめ、上目遣いに見上げてくる彼女に優しく微笑みを浮かべて
「もちろん、君を見て僕の心は天上の花園に舞い降りた気持ちとなり、
 こうして人目もはばからずやって来てしまったんだ。」
彼の見た目は、それはそれは美しいと言ってもよい顔立ちで、
優しい表情からは、これっぽっちの悪意も見て取る事はできませんでした。
ですが、彼は今心の中で、こう思っていたのです。
「なんだ、あいつらがアイアン・メイデン(注1)だのなんだと騒いでいやがるから、
 いったいどんな猛女が出てくるのかと思ったら、ラッキーなぐらいの
 美人じゃねえか。
 しかも、こんなに簡単に落とせちまうとは、ちょっと拍子抜けって、ふふっ、
 俺様が魅力的すぎるだけなのだろうな。
 まぁ、しばらくは適当に遊んで、暇つぶしぐらいには使ってやろう。」
そんな事を考えていると、彼女が相変わらずの上目遣いのまま尋ねてきたのです。
「あの、武術は何を専攻されていますか。」
「僕は槍術だけど、君は武術に興味があるのかい?。」
「いえ、そうではありませんが。
 では、放課後に体育館で改めてお会いしたいのですが、ご予定などはいかがで
 ございましょう。」
目が合うと、紅く染まった頬のまま俯いてしまう彼女の顎に手を添え
自分に顔を向けさせると、そのまま手を取り、
「ええ、喜んで。
 どんな障害が横たわろうと必ずや乗り越えて君の元へ駆けつけてみせるよ。」
そして再び口許で、白い歯をキラリと光らせ、ミヤコウェルの顔を、ますます
紅くさせるのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 校舎を出たアズナベルは、浮き立とうとする心を抑え、ゆっくりとした歩みで
彼女の待つ体育館に向かっていました。
よく考えてみれば、なかなかに美人ではあるし、物腰も柔らかく、言葉遣いが
丁寧だったのも好感が持てる。
友人との賭事であったので、それほど思うこともなく交際の申し込みを
したのだが、あれはあれで掘り出し物ではなかったかと。
アッサリと捨ててしまうのももったいないし、ここは新しい玩具が現れるまで
彼女を手許に置いておくのも悪くはないなと考えながら歩いていると、
目的の体育館が、やけに騒がしい事に気が付きました。
「はて、今日はなにかイベントでもあったかな?」
と思ったのも束の間、
「なるほど、学校のイベントで僕とデートして付き合っている事をアピールし、
 他の女の子を牽制しようというのだな。
 ふふ、なかなか頭が回る子じゃないか、まぁ、僕にはお見通しだけれどね。」
歩きながら軽く肩を竦め、ニヤリと笑いを浮かべてキラリと歯を光らせた彼は、
彼女が待っている体育館の扉を開けたのですが、そこで何が起ったのか
彼には判りませんでした。
扉を開けた先にはむさくるしい男達の肉壁が並び立っていたのです。
思わず呆気に取られた彼を館内に引き込むことなど造作もない事だったでしょう。
声を上げる間もなく引き込まれた彼は、屈強な大男達に衣服を剥ぎ取られ、
下着姿となったところに「運動着のサイズは幾らだ」「戦闘術の得意はなんだ」
「ヘルムは要るのか」「レッグガードがないぞ」「貴様、もっと筋肉をつけろよ」
「この小さいサイズなら合うんじゃないか」
と、あれよあれよという間に、運動着プラスプロテクター装備一式を着せられてしまったのです。
一旦アズナベルから離れて装備を確認した彼らは、再びカチャカチャとそれぞれの
プロテクターの弛みや、取り付け一の調整を始め出しました。
そのうちの、目の前で調整をしている男に恐る恐る尋ねてみます。
「あの・・・、これは一体なんなのでしょうか。
僕はこれからデートがあるのですけど、誰かと間違っていませんか。」
男はチラリと彼の顔を見ると、
「間違ってねえよ、あんたアズナベルさんだろ、ミヤコウェルさんは中で待っているよ。」
「あの、なんで僕がこんなプロテクターとか着けないといけないのでしょうか?。」
彼がそう言った瞬間、作業をしていた一人が頭を抱えて怒鳴り始めたのです。
「そうだよ、なんで俺の髪は金髪じゃないんだよっ!。
 ブルネットが駄目ならって、染めたら染めたで、その金髪じゃ駄目ですって
 言われちゃどうしようもねえじゃねえかよ~っ!」
彼はゴンゴンとひとしきり床を叩きのた打ち回った後、据わった目で
アズナベルを睨むと、
「綺麗な金色をしてるじゃねぇか、その金髪を俺によこしやがれぇぇぇぇぇ~っ」
と彼に掴みかかろうとしたのです。
「おい、押さえろ、そいつは倉庫にでも放り込んでおけっ。」
周囲にいた別の大男達が、その男を羽交い絞めにすると、まるで神輿を担ぐようにして
身体ごと持ち上げ、倉庫に放り込み鍵をかけてしまったのでした。
「すまなかったな、あいつまだ諦めきれてねえんだわ。」
どうやら、この男達のリーダーらしき巨漢が、アズナベルの肩に手を置き、
しみじみと話しかけてきたのです。
「よくは知らんのだがな、あんたミっ・・・ミーちゃん・・・」
彼の顔が心なしか赤らみました。
「・・・、ミヤコウェルさんとのデートだと思って来たんだろ。
 ある意味間違っちゃいねえと思うんだけどもさ、
 あんたまだ彼女の関門の一つをクリアしたに過ぎないんだぜ。
 ミヤコウェルさんは、金髪で、ほらちょっと笑って見せてみろよ。」
と言われ、彼が引き攣りながらも笑顔を見せると、歯ガキラリと光りました。
「やっぱりな、金髪と歯が輝くってのが、第一条件らしいんだよ。
 俺だって、それを知ってから、毎日24時間歯磨きをしたぜ。
 歯医者でホワイトニングだってやったのに、中には口の中に電飾を入れてきた
 バカもいたけど、『付け焼歯は駄目です』ってニベもなかったのさ。」
彼の肩を掴んだ手に力が篭ってきました。
「なに、安心してくれ、俺は別にお前さんをどうこうしようとか思っちゃいねえ。
 俺達が祈るのは彼女が幸せになってくれる事だけなのさ。
 例え彼女が選んだ男がどんな奴だろうと、俺達格闘関連の部員は『おめでとう』って
 祝おうって約束ができてんだから。」
肩に置いた彼の手にさらに力が篭りました。
「俺達みたいな筋肉に脂肪がついたようなのは、あぁお前さんみたいなスリムってのか
 女にもてるような体型や顔じゃねえってのは重々承知してんだ、
 あんたにゃわからねぇだろうけどさ、クラスでも女子は『暑苦しい』とか『汗臭い』とか
 言ってよ、俺らの事なんか鼻で笑いやがるのさ。
 だがよ、ミヤコウェルさんは、初めて一緒に筋トレをした時、そんな俺達に
 『皆様の弛まぬ努力により成し遂げられた素晴らしい肉体です』って一体一体の
 手を取って言ってくれたのさ。
 そして、俺達との汗臭い中での練習でも『皆様の努力の匂いです、何を
 嫌がる必要があるのでしょうか。』って言ってくれるんだよ・・・。
 試合の時にはよぉ、部員でもマネージャーでもないのに、人数分の彼女の手作り
 サンドウィッチ(made in キョウエル)を持ってきてくれてよ。
 試合後に、ミヤコウェルさんと食べたサンドイッチの美味しかった事ったらよぉ。
 その時、ミー・・・、ミヤコウェルさんと腕相撲をしてよ、彼女と直接手を
 繋げるって事で、どれだけ俺達の心が沸き立ったか判るかい。
 皆力を抜いて、できるだけ長い時間手を握っていようとしたものさ。
 あぁ、全員 瞬殺されたよ・・・。
 それでもさ、わかるかい、俺達の気持ちが。
 皆彼女に憧れたよ、皆彼女とお付き合いしたくてなけなしの勇気をかき集めて告白したんだよ。
 そして、玉砕したんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!」
彼の握力が一気に増し、ミシリと嫌な音を立て
「砕ける、砕けるっ、肩の骨が砕けるっ!」
とアズナベルに悲鳴を上げさせたのでした。
「あっ、すまん、つい力が入っちまった・・・。
 だからさ、俺達はもう諦めているのさ、ただ、彼女には本当に幸せになって欲しい、それだけなんだよ。
 お前が彼女のハートを射止めたとしても、俺達は彼女とお前を祝福してやるさ。
 だけどな、お前がもし彼女の笑顔を悲しみで曇らせた時には、俺達だけじゃねぇ、
 学校の全格闘技系の部員から、その首を狙われる事になると覚悟はしておけよ。」
彼はアズナベルの肩をポンと叩くと、
「ほら、中でミヤコウェルさんが待っているぞ。」
と控えていた部員に、体育館内への扉を開けさせたのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

彼が槍術の模擬訓練用の槍を渡され、体育館内に足を踏み入れた瞬間、
眩いばかりの照明と、大歓声が彼を包み込んだのです。
隅っこでは、オッズ9:1の看板と共に、怪しげな生徒達が、紙とお金の交換を
しています。
「なぁ、アズナベルに入れないかい、これじゃ勝敗の賭けが成立しないからよ。」
「何分もつかでいいじゃんかよ、どうせ勝てっこないんだからさ。」
2階の観覧席の多くは屈強な格闘技系の生徒でほぼ埋まっていますが、一部そんな
格闘技はおろか運動にすら縁のなさそうな男子生徒が集まっている場所も。
そして体育館の真ん中には、確か総合格闘技の部長と、彼となにか話し込む
ミヤコウェルの姿があったのでした。
しかし、その格好は両手には指貫のパッド入りグローブ、肘・前腕の
エルボーパッドと胸甲に繋がる肩パッド。
両膝・脛のニーパッドに格闘技用シューズといった、軽装ではあるが、
いかにもこれから格闘技を行うといった出で立ちで、よもやデートなどという
甘い雰囲気は微塵もありませんでした。
総合格闘技部部長が彼女に話しかけます。
「ミヤコウェル、今回も私が審判を勤めさせてもらうよ。」
両手を軽く打ちつけ、グローブの馴染み具合を確かめている彼女が応えます。
「部長、いつも手間をおかけしてすまない、こちらこそよろしくお願いする。」
「なぁに、君の格闘術をすぐ傍で見ることができるのだから、この役は誰にも
 渡せないさ。
 今回のお相手は槍術だと聞いているが、問題はないのかい。
 リーチの違いは明らかだし、君もなにか得物は使わないのかい。」
「心配頂ありがとう、私には、この身体があれば十分。」
「ならば結構、では開始位置で待機していてくれ。」
彼女の肩をポンと叩くと、今度は防具を身につけたアズナベルのほうへと近づいて行ったのでした。
「やあ、準備のほうはよいかな。」
にこやかに声をかけてきた部長に、彼は未だに戸惑いを隠せないまま、尋ねてみました。
「あの、まだよく理解できてないんですけど、彼女と試合するって事なんですか。」
「そうそう、よくわかっているじゃないか。
 君は、彼女に交際の申し込みをしたんだろ。
 俺達もよくわかっていないんだけど、多分ルックスは彼女のお眼鏡にかなったと
 思うから自慢してよいと思うよ。
 それをクリアした者は、彼女より強い事を証明しないといけないらしいんだ。
 まだこの関門を突破した奴がいないんで、その後はよく判らないんだけど、
 彼女は義理堅いんで『やっぱり付き合いません』とは言わないと思うぜ。
 まあ彼女との試合に勝てるようがんばれよな。
 あっ、そうだ、君は槍術でよかったんだよな、他の武器の方が専門だったら
 今のうちに交換しておいてくれ。
 一応、途中での武器の交換は禁止しているからな。
 ああ、彼女は格闘専門だから、武器は投擲武器もなにもないから安心してよいぜ。
 それと、ルールは無いに等しいんだけど、あまりに露骨なやり方は控えてくれ、
 こちらの判断でストップをかける場合もあるからな。
 じゃぁ、健闘を祈っているぜ」
と、軽く肩を叩いてにこやかに審判の位置まで戻っていきました。
「これは、一体なんなのだろうか」
彼の中ではまだまだ謎がいっぱい渦巻いていたのですが、女の子の格闘術と男の槍術、
単純に考えただけでも槍術が圧倒的に有利なのは古今東西を見渡しても当然の事。
「なるほど、自分が難題を出して、それを求婚者の試練とするというのはよくある話。
 きっと彼女もそんな夢見る女の子なのだろう、この試合にしても、自分が
 負ける事によって、しかたなく付き合うという理由を作るためなのだな。
 ふふ、なかなか可愛いところがあるじゃないか。
 それに、あんな美人を叩きのめして足下にひれ伏させるというのも、ふふっ、
 よいじゃないか。」
彼は一人ほくそ笑むと、手にした模擬槍をクルリと回し、軽く石突を床に
打ちつけたのでした。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

 二人が試合位置に立ち、審判が開始のホイッスルを高らかに吹き鳴らすと、
大歓声が体育館に吹き荒れました。
その大歓声を吹き消すほどの大音量で、ミヤコウェルの両翼が空気を叩く破裂音を
響かせると、彼女の姿を一瞬でアズナベルの直前に移動させたのです。
「なっ、疾!」
彼の驚きを他所に、彼女の左の掌底がアズナエルの顎に向けて打ち出されましたが、
なんとか身体をスウェイバックさせて避けたものの、矢継ぎ早に
彼女の左肘が横合いから襲いかかってきたのです。
「クソッ」
危ういところで槍を半回転させ、その柄で肘を打ち払い、凌いだと思った次の瞬間、
彼女の身体が一回りし、その遠心力と翼の羽ばたきの力を加え、
彼の胸元をめがけ打ち込まれてきた膝を、構えが間に合った槍で辛うじて
受け止めたのでした。
が、勢いまでは消せず、後ろに吹き飛ばされ、踏鞴(たたら)を踏んで倒れるのは
耐えはしたのですが、大観衆の前で見せてしまった醜態に彼の血は一気に
沸騰してしまったようです。
「くそっ、俺をなめんじゃねぇぞっ!」
膝蹴りを放った後、大きく後ろに飛び退った彼女はと言えば、翼を羽ばたかせ、
優雅に舞い降り、全くの無表情で彼を眺めていたのです。
態勢を立て直した彼は、一気にミヤコウェルとの間合いを詰め、本気の連撃を
繰り出しました。
「俺だって、槍はかなり扱えるんだぜっ。
 さっさと血ヘド吐いて、惨めにおねんねしなっ!」
彼の言う通り、素早い連撃が彼女に襲い掛かりました。
一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃と。
が、それらは全て彼女の目前、しかも片手で打ち払われて終わったのです。
そして、最後の槍の一撃が引き戻されるに合わせて、滑るように前に飛んだ
彼女の姿は、再び彼の目前に達していたのです。
「くっ」
慌てて間合いを取ろうと翼を広げようとした彼の身体に、彼女の量掌が添えられ、
その翼が開ききる前に、短く鋭い気合が放たれたのです。
ゼロ距離から放たれた一撃は、彼のボディープロテクターの防御を易々と打ち抜き、
その衝撃は彼の身体を弾き飛ばした上、観客を巻き込んで、体育館の壁に激しく叩きつけたのでした。
審判員を始め、数体の天使が彼の側に文字通り飛んでいきましたが、大した時間を待たずに、
「ノックアウトを宣言します、勝者ミヤコウェルっ!」
再びの大歓声とともに
「1分も持たねえのかよぉ~、誰かあの化け物を倒せる奴はいねえのかぁ~っ!」
とゴミとなった紙片が体育館に舞い上がったのでした。
「やはり・・・、彼も違いましたか・・・。」
勝利者宣言を受けるミヤコウェルの、項垂れ肩を落とした姿は、それが
勝者のものとは思えないほど静かな佇まいだったのです。
観客は、その姿に
「例え勝利を掴んだとしても、相手の立場や怪我の具合を心配する彼女は、
なんと気高く神々しいのであろう。」
とますます、彼女への憧憬を深めていくのでありました。
その時です、
「ミヤコウェルに決闘をを申し込もうっ!。」
ミヤコウェルのみならず、観客全員の視線が、声の主に集まりました。
そこには、黒いアイパッチを付け、片手でマントを払いのけた天使が
不適な笑いを浮かべ立っていたのです。
ただ、脂肪に弛んだ丸い体つきで、筋肉はおろか、運動などしたことがないと
いわんばかりの体型であるばかりか、顎は首に埋もれています。
「ふふふ、僕を、いや俺を忘れたとは言わせないぜ。
 この前は惜しくもお前に勝ちを譲ってやったが、もはや俺の力を抑える事はできないのさ。
 この左眼に封じられた力を今解放し、君の無敗の伝説を打ち破るとともに、
 僕・・・、俺の物としてやろう。」
彼の口上とともに、観客席の一部から
「勇者っ、勇者っ、勇者っ、勇者っ、勇者っ、勇者っ、勇者っ、勇者っ!」
と勇者コールが巻き起こったのです。
ミヤコウェルも、先ほどまでの肩を落とした姿からは想像もできないほどのオーラを
立ち上らせると、
「その申し出、受けて立たせてもらいましょう。」
と口角を持ち上げたのでありました。

(CMキャッチ)
「テンちぇるちゃん」「テンちぇるちゃ~ん」「テンちぇるちゃぁ~ん」
「ハァ~イ、テテンチェルチェル、テテンチェル~♪」

「あのね、ミヤちゃん、いつも言うようだけど、あんな試合なんかして怪我したらどうするのよっ。
 もし、あんな棒で叩かれたら、痛いじゃないのっ!」
試合が終わった後、もう恒例となってしまったお小言を言っているのは
ミヤコウェルの肩ほどの身長しかないキョウエルでした。
ちょっとしょぼくれたミヤコウェルが、言いました。
「いや、痛いどころの騒ぎではないと思うのだが・・・。」
よけいダメじゃないっ!」
火に油を注ぐ必要もないと思うのですが、結果キョウエルの目が三角になっています。
「もう、怪我しないようには気をつけてね。」
さんざん説教した後、最後には「しかたないなぁ」と上手く収めてくれるのが
キョウエルらしいところであります。
「で、今日の彼はどうだったの、やっぱり違ったの。」
打って変わって、ちょっと心配なうちにも興味を示す彼女に、ミヤコウェルは
何事も無かったように応えました。
「ああ、残念ながら、違った、なにしろ弱すぎる。」
一刀両断でした。
「そっかぁ、でも、ミヤちゃんより強い天使、って想像つかないんだけど、
 本当にそんな天使がいるのかなぁ。
 あっそうそう、ところで最後に出てきた変なのはなんなの。
 ミヤちゃんの趣味じゃないと思うんだけど。」
「キョウっ。」
ミヤコウェルの鋭い声が飛んできました。
「キョウ、いいかい天使を見た目で判断してはいけない。
 確かに彼は弱い、いつも私の初撃を受けて沈んでいるが、あれは彼独特の
 ポーズなんだ。」
ミヤコちゃんが、こうもはっきり言うのなら、ひょっとしたら、あの男は
とんでもない実力を隠しているのでしょうか。
「私の一撃を受けた彼の顔を見たかい。
 普通の相手なら白目を剥くか、苦悶の表情を浮かべているはずなのに、彼は
 笑顔を・・・、いや、満足した表情を浮かべているんだ。
 それはまるで、私の実力をその身で受けることで、私が絶間なく努力を
 積み重ねている事を、確かめ満足しているように・・・。
 彼はこう言っているのさ。『お前の一撃など避けるにも値しない事を忘れるな、
 お前が努力を惜しむようになった時、この姿がお前の姿となるという事を』と。」
ミヤコウェルの拳に力が篭もり、その口は強く噛み締められ中空を睨んでいます。
キョウエルの目がすぅと細まりました。
「いい、ミヤちゃん、よく聞いてね。
 あいつらただの変態だから、美人に殴られて、喜んでいるだけだから。
 間違っても、おかしな方向に考えちゃダメだからね。」
キョウエルの言葉は、ミヤコウェルの眼を大きく見開かせ、アングリと口を開けた彼女という
珍しい光景を現出させたのでした。
「まっまさか・・・、本当なのか・・・。」
ユラリと身体を揺らし、膝を着き愕然とキョウエルを見上げるミヤコウェルは、
やっぱり、いつものミヤコちゃんなのでしたとさ。

◎プロフィール
名前 : ウミボウゼル(wmiborzel)
サイズ : 身長185cm、体重120kg
所属 : レスリング部
性格 : 体格は同年の者からは抜きん出て大柄であるが、部内では後輩の
面倒見もよく、努力の天使であり、多くの部員から慕われている。
コソコソと練習場を覗いていたミヤコウェルに声をかけて、筋トレの場所を
提供したのも彼が最初である。
夢 : ミヤコウェルを「ミーちゃん」と呼び、彼女の特性手作りサンドイッチを
「あ~ん」してもらう事。
だが、最も始まりとなる「ミーちゃん」と呼ぶのには、ミヤコウェルや他の天使を
前にすると、恥ずかしさが先に立ってしまい、どもってしまう上に
つい「ミヤコウェルさん」と言い直してしまう。
とある団体から手に入れた彼女の写真を前にして「ミーちゃん♪」と呼ぶ練習を
しているが、以前この現場を目撃した友人を、気が付けば病院送りにしていた
という過去があったりする。
ほとんどの部員が似たような事をしているので、それは公然の秘密と
なっている事を彼は知らない。
現在は、彼女が金髪・歯ガキラリの天使を探している事を知り、どう考えても
スキンヘッドの自分であろうはずもなく、彼女と特別な仲と成ることは
諦めているつもりではある。
(キャラクターモデルは、シティーハンターの海坊主さんです。)

◎注釈
注1、アイアン・メイデン(鋼鉄の処女) : 本来は拷問器具の一種の事。
女神を造詣した、人一人が入れる観音開きの容器ですが、内部には多数の針が
飛び出しており、人を入れて蓋をすると、今想像された通りの事が起こります。
別名「鋼鉄の処女」とも呼ばれ、大きな権力やズバ抜けた個性を持った女性に
対しての代名詞として使われたりもします。
イギリスのサッチャー元首相も、確か「鋼鉄の処女(女)」とか呼ばれていたような
いなかったような、呼ばれていたら。嬉しいナ。
本作では、見た目は美しいが、触れると怪我では済まない女性と言う意味に
取って頂けると喜びます。
また、イングランド出身のアイアン・メイデン(IRON・MAIDEN)という
ヘヴィメタルバンドがありますが、本編とは全く関係はありません。
興味を持ちましたので、CDを借りて聞いてみますと「あれ、聖飢魔Ⅱ」と思って
しまいましたのはナイショです。
でも、間違いなくアイアン・メイデンが本家だと思いますぅ。
でも、最近は「陰陽座(おんみょうざ)」に嵌っていたりしています:笑:。

番外編第2話 お・し・ま・い・♪。
(2020.12 by HT)

◆◆◆

番外編第1話で授業中にこっそり筋トレしていたのを先生に見つかり、
心を入れ替え正々堂々と筋トレを始めた謎の美少女天使・ミヤコちゃん。
第2話でその謎が・・ますます深まりましたねぇ(笑い)
見目麗しいミヤコちゃんと金髪で歯がキラリ☆のイケメン天使のデートが・・決闘??
不思議な展開の中でも際立つのは、ミヤコちゃんのかっこよさ、そして
そんなミヤコちゃんをマドンナと慕う格闘技系部員の皆様の一途さ。
昭和感漂う青春映画のような、どこか笑いがこみ上げる描写の中に
しっかり彼らの胸のトキメキが伝わってくるのはさすがHIちゃんの筆力です。

本題とはちょっとずれた感想になりますが、人の顔立ちって同じように
目・鼻・口と並んでいても、一目惚れを催させる魅力的なものと
そうでもないものに分かれるのは、不思議なことだなあと思います。
白雪姫もシンデレラも、美が災いし、美がハッピーエンドをもたらします。
人を惹きつけ、ときに破滅さえ巻き起こす美というものを思うとき、
どうしようもなく「見た目」の持つ力を感じます。
テンちぇるちゃんのstoryでは、見えなくなって間遠になりかけていた美少女やイケメンを
まぶたの裏に描いてみられるのも楽しみのひとつかもしれません。
なんて、美の意味などに思いを馳せつつ、ラストのプロフィールは・・ええ?この人~?(笑い)
そんな愛あるストーリー、いつもありがとうございます。

冬休み企画、次回もどうぞお楽しみに♪


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